パワハラ加害者の処分の種類:懲戒の段階と自宅待機の意味
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パワーハラスメント(パワハラ)の加害者とされた人の処分は、会社が就業規則の懲戒の定めに沿って決めるもので、重さはけん責(戒告)から懲戒解雇まで段階があります。会社が懲戒できる場合でも、行為の性質や態様に照らして客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない処分は権利の濫用として無効になる、と労働契約法15条は定めています。処分が決まる前に命じられる「自宅待機」は、懲戒としての「出勤停止」とは別のもので、賃金の扱いも違います。この記事では、処分の段階、それぞれの上限と賃金、自宅待機の意味、処分を告げられたときに確かめる点を順に説明します。
パワハラ加害者の処分は、就業規則と労働契約法15条の枠で決まる
パワハラをした社員を処分する根拠は、パワハラを防ぐ法律そのものではありません。労働施策総合推進法31条が義務づけているのは会社の防止措置で、パワハラ指針はその一つとして、行為者には厳正に対処する旨の方針と対処の内容(懲戒規定など)を就業規則等に定めて周知することを挙げています。事実が確認できた場合の行為者への措置としては、就業規則等に基づく懲戒その他の措置、配置転換、謝罪などが例に挙がっています。
処分の根拠を決めるのは就業規則です。労働基準法89条は、常時10人以上を使用する会社に就業規則の作成と届出を求め、制裁の定めをするなら、その種類と程度を書くよう定めています。厚生労働省のモデル就業規則の解説は、最高裁判決を引いて、就業規則に定めのない事由による懲戒処分はできないとしています。処分の段階を知るには、まず自分の会社の就業規則の「服務規律」と「懲戒」の章を開くことになります。
被害を訴えた側から見た処分の流れはパワハラ上司は処分されるかの整理、モラハラの場合は職場のモラハラ加害者は処分されるかの整理で扱っています。この記事は、処分を受ける側の立場から見た仕組みです。
懲戒の段階:軽いものから重いものまで
厚生労働省のモデル就業規則(令和7年12月版)は、懲戒の区分を4つ例示し、ハラスメントの禁止規定に違反したときは情状に応じてけん責・減給・出勤停止、情状が悪質と認められるときは懲戒解雇とする並びにしています。ただし解説は、処分の種類はこれに限られず事業場ごとに決められるとしているので、名称や段階の数は会社の規則で確かめます。
| 段階 | モデルでの中身 | 法律上の枠・賃金 | 加害者側が確かめる点 |
|---|---|---|---|
| けん責 | 始末書を出させ、将来を戒める | 賃金は減らない | 始末書に何を書くよう求められているか |
| 減給 | 始末書を出させ、賃金を減らす | 1回の額は平均賃金1日分の半額まで、総額は1賃金支払期の賃金総額の10分の1まで(労基法91条) | 減額の回数と額が上限内か |
| 出勤停止 | 始末書を出させ、定めた日数を限度に出勤を止める | モデルではその間の賃金は払わない。日数の上限は就業規則で定める | 日数が規則の上限内か、賃金の扱い |
| 懲戒解雇 | 予告期間を置かずに即時に解雇する | 解雇予告手当(平均賃金30日分)を払わずに即時解雇するには、労基署長の認定が要る(労基法20条) | 認定を受けているか、予告手当の扱い |
減給の上限は、数字で確かめると分かりやすくなります。平均賃金の1日分が1万2,000円の人なら、1回の減給は6,000円まで、月給が36万円なら1か月の減給の総額は3万6,000円までです(筆者の計算。平均賃金は直前3か月の賃金から計算するので、自分の額は給与明細から確かめてください)。
懲戒のほかに、指針は配置転換や謝罪も行為者への措置の例に挙げています。懲戒処分ではない人事上の異動を命じられることもあるので、「これは懲戒なのか、異動なのか」を通知の文言で区別しておくと、後の確認がしやすくなります。
モデル就業規則の解説は、処分の公正さについても触れています。規律違反の程度に応じて、過去の同じような事例の処分内容などを考えて公正に処分する必要があり、公正と認められない処分を懲戒権の濫用として無効とした裁判例もある、と説明しています。
処分前の自宅待機と、懲戒の出勤停止は別のもの
「パワハラ 加害者 自宅待機」「パワハラ 加害者 出勤停止」と調べる人が混同しやすいのが、この二つです。
| 処分前の自宅待機 | 懲戒の出勤停止 | |
|---|---|---|
| 何のためか | 調査の間、相談者と接しないようにする、証拠や証言への影響を避けるなど | 規律違反への制裁 |
| 根拠 | 懲戒ではなく、会社の業務上の指示として命じられる形がある | 就業規則の懲戒の定め |
| 賃金 | 会社の都合で働かせないなら、労基法26条の休業手当(平均賃金の60%以上)の定めがある。全額の扱いには民法536条2項が関係する | 就業規則で無給と定められていることがある(モデルでは無給) |
| 期間 | 会社が示す期間(「調査が終わるまで」など) | 就業規則の上限日数の範囲 |
労働基準法26条は、会社の責めに帰すべき事由による休業の間、平均賃金の100分の60以上の休業手当を払うよう定めています。厚生労働省のQ&Aは、この「責めに帰すべき事由」は不可抗力を除いて広く含むと説明しています。さらに民法536条2項は、会社の責めに帰すべき事由で働けなくなったときは賃金の支払いを拒めないと定めています。自宅待機がどちらに当たり、いくら払われるかは事情によって変わるので、命じられた時点で次の点を書面で確かめておきます。
- 自宅待機は懲戒処分か、調査のための業務上の指示か
- 期間(終わりの日、または終わりを決める条件)
- 待機中の賃金の扱い(全額か、休業手当か)
- 待機中に連絡を受ける方法と、出社を求められる可能性
- 待機中に相談者や同僚へ連絡しないよう求められているか
確認のメールの例:「人事部 〇〇様 本日、調査が終わるまで自宅待機するようご指示を受けました。今後の確認のため、待機の位置づけ(懲戒処分か、業務上の指示か)、期間の目安、待機中の賃金の扱いについて、書面またはメールでお示しいただけますでしょうか。」
処分の前に確かめる手続きと、告げられた後の動き方
懲戒の前に本人の言い分を聴く「弁明の機会」は、民間企業について法律に一般的な定めがあるわけではなく、就業規則や社内規程に手続きとして書かれているかどうかで扱いが変わります。規則に定めがあるなら、その手続きが踏まれたかを確かめます。定めがない場合でも、事実確認の段階で言い分を書面で出しておくことが、処分の重さを考えてもらう材料になります。言い分のまとめ方はパワハラの加害者にされたときの事実確認への準備で手順にしています。
処分を告げられたら、次の順で確かめます。
- 処分の種類と、根拠になった就業規則の条項を通知書で確かめる。
- 処分の理由とされた事実(日時・言動)が、自分が説明した事実とどう違うかを書き出す。
- 減給なら額と回数、出勤停止なら日数と賃金が、規則と労基法の上限の範囲かを計算する。
- 納得できない点があれば、会社に書面で説明を求める。
- 処分の有効性を争うかどうかは、労働問題を扱う弁護士に通知書と経緯の書面を持って相談する。どこに相談すればよいか迷う段階なら、労働者・事業主のどちらからでも相談できる総合労働相談コーナーで方向を整理する方法もあります。
懲戒解雇や退職を求められている場合は、退職勧奨か解雇かで確かめることが変わります。こちらはパワハラ加害者として退職を迫られたら:応じる前に確かめることにまとめています。
よくある質問
Q. パワハラで一度処分を受けた後、同じ件でまた処分されることはありますか?
厚生労働省のモデル就業規則の解説は、1回の懲戒事由に当たる行為に対して複数回の懲戒処分を行うことはできないとしています。また、懲戒の規定を設ける前の行為にさかのぼって懲戒することもできないとしています。ただし、処分の後に同じような言動を繰り返せば、それは新しい事由として扱われます。
Q. 自宅待機の間は、有給休暇を使うように言われました。従う必要がありますか?
年次有給休暇は、労働者が日を指定して請求するものです(労働基準法39条5項)。会社の判断で働かせない自宅待機の期間を、本人の意思に関係なく有給として処理することは、年休の仕組みとかみ合いません。「待機は会社の指示によるものと理解していますが、その間の賃金の扱いを書面で教えてください」と確かめるのが先です。
Q. パワハラの処分は社内で公表されますか?
公表するかどうか、どこまで公表するかは会社の判断で、法律に一律の決まりはありません。パワハラ指針は、相談者だけでなく行為者のプライバシーの保護も会社に求めています。処分の通知を受けるときに、社内でどの範囲に伝えられるのかを聞いておくと、その後の職場での立ち位置を考えやすくなります。
出典・参考にした公的な情報
- 労働契約法 第15条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 労働基準法 第12条・第20条・第26条・第39条・第89条・第91条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 民法 第536条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- モデル就業規則(令和7年12月版)(厚生労働省)
- 事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット(パワハラ指針 令和8年10月1日適用時点の本文を収録)(厚生労働省)
- 確かめよう労働条件 Q&A 休業手当(厚生労働省)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。