法的手段の前に / 比較

労働局の調停とあっせんの違い:パワハラ・セクハラ・いじめで使い分け

この記事のもくじ
  1. 調停とあっせんの比較表
  2. 同じ悩みを両方に出せるわけではない:35条による振り分け
  3. 令和7年度の件数で見る:あっせんは調停の6倍以上申請されている
  4. パワハラ・セクハラ・マタハラ・カスハラの措置義務の紛争は調停
  5. 職場のいじめ・嫌がらせ、解雇・退職のトラブルはあっせん
  6. 迷ったときの決め方

労働局の調停とあっせんの違いは、使う人が好みで選ぶものではなく、紛争の中身によって法律で決まっています。パワーハラスメント(パワハラ)・カスタマーハラスメント(カスハラ)・セクシュアルハラスメント(セクハラ)・妊娠・出産等に関するハラスメント(マタハラ)について、会社の措置義務をめぐって争うときは「調停」です。職場のいじめ・嫌がらせや、解雇・退職勧奨などの争いは、個別労働紛争解決促進法の「あっせん」です。どちらも無理に結論を押しつけない話し合いの手続ですが、根拠の法律・解決案の出し方・窓口が違います。

調停とあっせんの比較表

項目 調停 あっせん
根拠の法律 労働施策総合推進法37条(パワハラ・カスハラ)、男女雇用機会均等法24条(セクハラ・マタハラ等)、育児・介護休業法52条の5(育休等のハラスメント) 個別労働紛争解決促進法5条
対象 会社の防止の措置義務と、相談を理由とする不利益取扱いをめぐる労働者と会社の紛争 解雇・雇止め・労働条件・いじめ・嫌がらせなど、労働者と会社の個別労働紛争(労働者同士の紛争や裁判中の紛争などは対象外)
前段の手続 労働局長の援助:助言・指導・勧告 労働局長の助言・指導(勧告はない)
話を聴く人 紛争調整委員会の調停委員 紛争調整委員会のあっせん委員
解決案 調停案を作り、受諾を勧告できる あっせん案を示すことができる
相手の参加・受諾 調停案の受諾は任意(委員会は当事者の出頭を求めて意見を聴ける:均等法26条の準用) 参加も受諾も任意(不参加なら打ち切り)
打ち切り後の時効の特例 通知から30日以内に訴えれば申請時に訴えたものとみなす(均等法30条の準用) 同じ(促進法16条)
申請の窓口 都道府県労働局の雇用環境・均等部(室) 雇用環境・均等部(室)または総合労働相談コーナー
申請を理由とする不利益取扱い 禁止 禁止
公務員 使えない(労働施策総合推進法48条ほか) 原則として使えない

調停の手続の細かな中身(条文ごとの表、申請の流れ、使えない人)は労働局の助言・指導と調停の仕組みにまとめているので、この記事では「どちらの入口に行くか」の分かれ道に絞って説明します。

同じ悩みを両方に出せるわけではない:35条による振り分け

この表の土台になっているのが、労働施策総合推進法35条です。35条は、パワハラ・カスハラの措置義務などをめぐる紛争には、個別労働紛争解決促進法の助言・指導(4条)とあっせん(5条)の規定を適用せず、援助と調停で扱うと定めています。均等法22条と育児・介護休業法52条の3も、同じ形の特例を置いています。

つまり、同じ職場の悩みでも、争いの中身によって入口が一つに決まります。たとえば「パワハラを相談したのに会社が調べない」は措置義務の争いなので調停、「同僚のいじめで受けた損害の解決金を会社に求めたい」は措置義務に当たらない嫌がらせとしてあっせん、という分かれ方です。どちらの手続になるかは、申請の前に労働局へ事情を話して確かめてください。

令和7年度の件数で見る:あっせんは調停の6倍以上申請されている

厚生労働省の令和7年度の資料から、手続ごとの利用数を並べます。数える範囲が手続ごとに違うので、同じ土俵の比較ではなく規模の手がかりとして読んでください。

手続 令和7年度の件数 数える範囲
労働局長の援助(パワハラ関係) 申立て1,675件 パワハラの措置義務などをめぐる紛争
調停(優越的言動問題) 申請692件 同上。セクハラ・マタハラ等の調停は含まない
あっせん 申請4,486件 解雇など全分野。うちいじめ・嫌がらせは868件

あっせんの申請4,486件は、パワハラの調停申請692件の6倍余りです(筆者の計算)。ただし、あっせんの件数は解雇や労働条件の争いを含むため、「パワハラ関係ならあっせんのほうが多い」とは読めません。パワハラに近い「いじめ・嫌がらせ」だけを取り出すと868件です。

パワハラ・セクハラ・マタハラ・カスハラの措置義務の紛争は調停

「措置義務をめぐる紛争」とは、ハラスメントそのものの善し悪しよりも、会社がとるべき対応をとったかをめぐる争いです。例えば次のような場面です。

  • 相談窓口に相談したが、会社が事実を確かめない、または確かめたのに配置の見直しなどをしない
  • 相談したことや、会社の調査に協力して事実を話したことを理由に、異動・降格・雇止めをされた
  • 妊娠を伝えたあとに受けた言動を相談したが、会社が放置している
  • 顧客からの著しい迷惑行為について、会社に対応の体制がない(カスハラの措置義務は2026年10月1日に施行)

この場合、まず雇用環境・均等部(室)に相談し、労働局長の援助(助言・指導・勧告)を求めるか、調停を申請します。調停委員が会社と自分の話を聴き、調停案の受諾を勧告することがあります。

なお、就活セクハラは調停の対象から外れる点があります。詳しくは労働局の助言・指導と調停の仕組みで確かめてください。

職場のいじめ・嫌がらせ、解雇・退職のトラブルはあっせん

措置義務に当たらない職場のトラブルは、個別労働紛争解決促進法の助言・指導とあっせんで扱います。厚生労働省のパンフレットは、あっせんの対象として、解雇・雇止め・配置転換・労働条件の不利益変更、いじめ・嫌がらせなどの職場環境に関する紛争、退職に伴う研修費用の返還などを挙げています。

ただし、あっせんの相手方も会社です。パンフレットは、労働者と労働者の間の紛争を対象外としています。いじめをした同僚本人に謝罪や賠償を求める手続ではなく、会社に職場環境の改善や解決金の支払いを求める手続だと考えてください。申請書の書き方と当日の流れは労働局のあっせんの流れ、解決金の公的な調査は労働局のあっせんでの解決金で扱っています。

迷ったときの決め方

分かれ道:自分の悩みはどちらの手続か
  1. 公務員か → はい:労働局ではなく所属の人事担当・人事院・人事委員会など
  2. 争いたい相手は会社か、加害者個人か → 個人:民事訴訟などを弁護士に相談
  3. 会社に相談・申し出をしたことがあるか → まだ:社内の窓口か総合労働相談コーナーで相談から
  4. 会社が対応しない/相談を理由に不利益に扱われた(パワハラ・カスハラ・セクハラ・マタハラ)→ 調停(雇用環境・均等部(室))
  5. それ以外のいじめ・嫌がらせ、解雇・退職・労働条件の争い → あっせん(総合労働相談コーナーでも申請可)

上の分かれ道で迷う部分が残っても、心配はいりません。労働局に話をすれば、受付の段階で手続を振り分けてもらえます。窓口で最初に伝える言い方の例は次のとおりです。

窓口での伝え方の例:「半年前から上司に人前で叱責されていて、3か月前に人事へメールで相談しましたが、調査も配置の見直しもありません。会社に対応してもらうために、どの手続が使えるか教えてください。出来事と相談の日付をまとめたメモを持ってきました。」

この例のように、誰に何をされたかと会社に相談したか、その後どうなったかの2点を先に伝えると、調停かあっせんかの振り分けが早くなります。相談に行くときは、出来事と会社への申し出の日付をまとめたパワハラの時系列表を持っていくと、どちらの手続か判断してもらいやすくなります。

調停でもあっせんでも解決しないとき、または初めから裁判所の判断を求めたいときは、労働審判という選択肢もあります。労働審判は話し合いがまとまらなければ審判が出る手続で、相手が正当な理由なく出頭しなければ過料があります。手続の流れは労働審判の流れで確かめてください。

よくある質問

Q. 調停とあっせんは、自分で選ばないといけませんか?

どちらの手続になるかは、紛争の中身によって法律で決まっています。自分で判断がつかなくても、総合労働相談コーナーや雇用環境・均等部(室)で事情を話せば、合う手続を案内してもらえます。申請書を書く前に相談するのが近道です。

Q. 調停のほうが、あっせんより強い手続ですか?

どちらも話し合いで解決を目指す手続で、結論を相手に強制する力はありません。調停では調停案の受諾を勧告でき、その前の援助にも勧告がある点で、あっせんより一歩踏み込んだ形になっています。それでも受け入れるかは当事者が決めます。

Q. 同僚からのパワハラは、調停とあっせんのどちらですか?

相手が同僚でも、業務上必要な知識や経験を持つ人や集団からの言動などは、指針で優越的な関係に当たる例とされています。会社にその対応を求めたのに措置がとられないという争いなら調停、それ以外のいじめ・嫌がらせとして会社に求めるならあっせん、という分かれ方になります。迷うときは労働局で振り分けてもらいます。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

労働局の助言・指導と調停:パワハラ・カスハラの紛争を解決する仕組み

労働局のあっせんの流れ:申請書の書き方から当日・合意まで

労働局のあっせんでの解決金:公的な調査から分かる傾向と準備

労働審判の流れ:3回以内の期日で終わる手続きとパワハラでの使い方