法的手段の前に / 制度解説

労働局の助言・指導と調停:パワハラ・カスハラの紛争を解決する仕組み

この記事のもくじ
  1. 労働局の調停でできること・できないこと
  2. 調停の対象になる紛争:労働施策総合推進法35条
  3. いじめ・嫌がらせのあっせんとの使い分け
  4. 援助の申し出から調停までの流れ
  5. 調停を使えない人・向かない場合

パワーハラスメント(パワハラ)やカスタマーハラスメント(カスハラ)をめぐって会社と争いになったとき、労働局で使える仕組みは二つです。都道府県労働局長が会社と労働者に助言・指導・勧告をする「援助」(労働施策総合推進法36条)と、紛争調整委員会が間に入る「調停」(同37条)です。どちらも話し合いによる解決を助ける手続で、会社にお金の支払いを命じる裁判とは違います。会社の措置義務に当たらない職場のいじめ・嫌がらせや、解雇・退職の争いは、別の法律のあっせんで扱うので、使い分けも合わせて説明します。

労働局の調停でできること・できないこと

調停の手続は、労働施策総合推進法38条が男女雇用機会均等法25条〜32条を準用して定めています。条文から読み取れる調停の中身は次のとおりです。

項目 条文の定め 読者にとっての意味
調停をする人 3人の調停委員(均等法25条の準用) 会社とも自分とも利害のない第三者が間に入る
話を聴く相手 当事者のほか、同じ事業所の労働者など参考人の出頭を求め意見を聴ける(26条) 同僚の話を聴いてもらえる場合がある
解決案 調停案を作り、受諾を勧告できる(28条) 受け入れるかどうかは当事者が決める
打ち切り 解決の見込みがないときは打ち切れる(29条) 打ち切り後は別の手段を選ぶ
時効の特例 打ち切りの通知から30日以内に訴えれば、申請時に訴えたものとみなす(30条) 調停中に時効が迫っても、すぐ訴えれば守られる
訴訟の中止 訴訟中でも、共同の申立てで4か月以内の中止ができる(31条) 裁判と並行して話し合う道がある
不利益取扱いの禁止 調停の申請を理由とする解雇その他の不利益な取扱いの禁止(37条2項) 申請したことで不利に扱われない

一方で、調停には強制力がありません。調停案を受け入れるよう会社に命じることはできず、行為者を処分させる手続でもありません。金額の判断や、パワハラに当たるかの最終的な判断を求めるなら、労働審判や訴訟を考えることになります。その流れは労働審判の流れで説明しています。

調停の対象になる紛争:労働施策総合推進法35条

調停で扱うのは、どんなハラスメントの話でもよいわけではありません。35条は、31条1項・2項(パワハラの措置義務と、相談を理由とする不利益取扱いの禁止)と、33条1項・2項(カスハラの措置義務と不利益取扱いの禁止)に定める事項についての、労働者と事業主の紛争を対象にしています。カスハラの措置義務は2026年10月1日に施行されており、カスハラの紛争も同じ援助・調停の対象です。

具体的には、次のような会社との争いです。

  • 相談窓口に相談したのに、会社が事実を確かめず、何の措置もとらない
  • 事実が確認されたのに、配置の見直しなど被害者への配慮がされない
  • 相談したことを理由に、降格・異動・契約の打ち切りなどをされた
  • 顧客からの著しい迷惑行為について、会社に対応を求めたが体制がない

セクシュアルハラスメント(セクハラ)、妊娠・出産等に関するハラスメント(マタハラ)は男女雇用機会均等法22条〜24条、育児休業等に関するハラスメントは育児・介護休業法52条の3〜52条の5が、同じ形の援助と調停を定めています。求職者等へのセクハラ(就活セクハラ、均等法13条)も22条の紛争に含まれ、労働局長の援助の対象です。ただし24条1項は「労働者の募集及び採用についての紛争」を調停の対象から除いているため、就活セクハラで調停を申請できるかは、事前に雇用環境・均等部(室)へ確かめてください。法律ごとの条文の位置はパワハラ防止法の条文と2026年10月改正にまとめています。

早見表:ハラスメントの種類ごとの労働局の手続
ハラスメント 根拠の法律 援助(助言・指導・勧告) 調停
パワハラ・カスハラ 労働施策総合推進法 36条 37条
セクハラ・マタハラ(就活セクハラは調停の可否を労働局に確認) 男女雇用機会均等法 23条 24条
育児休業等に関するハラスメント 育児・介護休業法 52条の4 52条の5
いじめ・嫌がらせ(上の措置義務に当たらないもの) 個別労働紛争解決促進法 4条(助言・指導) なし(5条のあっせん)

いじめ・嫌がらせのあっせんとの使い分け

35条により、パワハラ・カスハラの措置義務をめぐる争いは「援助と調停」、それ以外の職場のいじめ・嫌がらせや解雇・退職の争いは「助言・指導とあっせん」と、入口が分かれます。どちらになるかは労働局が受付で振り分けるので、最初に決めておく必要はありません。項目ごとの比較表と分かれ道は労働局の調停とあっせんの違い、あっせんの申請書の書き方は労働局のあっせんの流れにあります。

援助の申し出から調停までの流れ

  1. 相談する:都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に相談する。厚生労働省は、ハラスメントの相談は匿名でもよく、無料で、プライバシーは守られると案内している。窓口の連絡先は労働局のハラスメント相談窓口へ。
  2. 援助を求める:労働局長に援助を求める。36条は、労働局長が紛争の当事者に必要な助言・指導・勧告をすることができると定めている。
  3. 調停を申請する:援助で解決しないとき、または初めから第三者を交えて話し合いたいときに申請する。37条は当事者の双方または一方からの申請で調停を始めると定めており、援助を先に受けることは条件になっていない。
  4. 調停会議に出る:パワハラ・カスハラの調停は「優越的言動問題調停会議」で行われる。双方の主張を調停委員が聴く。
  5. 調停案と受諾:調停案が示され、受諾が勧告されることがある。双方が受け入れれば解決、受け入れなければ打ち切りになりうる。
  6. 打ち切り後:通知を受けた日を記録し、30日以内の提訴の特例を意識して、労働審判や訴訟、弁護士への相談を検討する。

相談や申請の前に、出来事の日時・内容・会社に相談した日と会社の返事を一覧にしておくと、話が早く進みます。書き方はパワハラの時系列表の作り方を参照してください。

令和7年度の厚生労働省の資料では、パワハラ関係の労働局長の援助の申立ては1,675件受理され、終了した1,648件のうち956件(58.0%)が助言・指導・勧告で解決しました。優越的言動問題調停会議の調停申請は692件でした。ほかの数字の読み方はパワハラ・いじめの相談件数の最新統計で整理しています。

調停を使えない人・向かない場合

  • 公務員:労働施策総合推進法48条により、35条〜39条は国家公務員・地方公務員に適用されません。所属の人事担当や人事院・人事委員会などが相談先です。
  • 加害者個人と争いたいとき:調停の相手方は会社です。上司個人への請求は民事訴訟になります。
  • 事実関係の争いが大きく、判断を求めたいとき:調停は合意を目指す手続なので、会社が事実を全面的に否定していると合意は難しくなります。労働審判や訴訟と比べて選びます。
  • 会社と話し合う気持ちがもう持てないとき:退職を先に考える場合は、パワハラで退職するか迷うときの整理も役に立ちます。

よくある質問

Q. 調停で、加害者の上司個人を相手にできますか?

できません。労働施策総合推進法35条の紛争は「労働者と事業主との間」のもので、調停の相手方は会社です。上司個人に損害賠償を求める場合は、民事訴訟など別の手続になります。

Q. 調停案を受け入れないと、不利になりますか?

調停案は受諾を勧告されるもので、受け入れるかは当事者が決めます。受け入れなければ解決の見込みがないとして調停が打ち切られることがあり、その後は労働審判や訴訟などを選べます。打ち切りの通知から30日以内に訴えれば、時効の完成猶予について調停の申請時に訴えたものとみなす特例があります。

Q. 公務員でも労働局の調停を使えますか?

使えません。労働施策総合推進法48条により、紛争解決の援助と調停の規定(35条〜39条)は国家公務員と地方公務員には適用されません。公務員の相談先は所属の人事担当や人事院・人事委員会などです。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

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