パワハラ防止法の条文と2026年10月改正:第31条〜第38条を整理
パワハラ防止法は通称で、正式な法律名は労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(略称:労働施策総合推進法)です。パワハラについての中心は第31条で、会社(事業主)に防止の措置を講じる義務と、相談したことを理由とする不利益な取扱いの禁止を定めています。2026年10月1日施行の改正(令和7年法律第63号)で、条番号が旧第30条の2から第31条へ移り、カスタマーハラスメント(カスハラ)の措置義務が第33条として新設されました。
パワハラ防止法とは:現行の条文を一覧で
2026年10月23日時点で施行されている条文を、e-Gov法令検索の現行版で確かめて並べると次のとおりです。パワハラに関係する条は第31条から第38条までに集まり、行政の関与と過料が第42条・第45条・第51条にあります。
| 条 | 中身 | 義務の強さ |
|---|---|---|
| 第31条1項 | パワハラで就業環境が害されないよう、相談に応じ適切に対応する体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じる | 義務 |
| 第31条2項 | 相談したこと、事実確認に協力して事実を述べたことを理由に、解雇その他の不利益な取扱いをしない | 禁止 |
| 第31条3項以下 | 厚生労働大臣が指針を定める | — |
| 第32条 | 国の広報・啓発、事業主の研修等の配慮、事業主(法人は役員)自身と労働者の注意 | 努力義務 |
| 第33条 | カスハラ(顧客等の言動)の措置義務。抑止のための措置を含む | 義務(新設) |
| 第34条 | カスハラについての国・事業主・労働者・顧客等の責務 | 努力義務(新設) |
| 第35条 | 措置義務をめぐる紛争は、個別労働関係紛争解決促進法のあっせん等ではなく、この法律の手続による | — |
| 第36条 | 都道府県労働局長による援助(助言・指導・勧告)。援助を求めたことを理由とする不利益取扱いの禁止 | — |
| 第37条 | 紛争調整委員会による調停。申請を理由とする不利益取扱いの禁止 | — |
| 第38条 | 調停の手続は男女雇用機会均等法の規定を準用 | — |
| 第42条 | 厚生労働大臣の助言・指導・勧告。勧告に従わない場合の公表 | — |
| 第45条1項・第51条 | 報告の求め。報告しない・虚偽の報告は20万円以下の過料 | — |
条文が会社に求めているのは「措置」です。パワハラの行為そのものを罰する規定は置かれていません。勧告・公表・過料の流れは、次の記事パワハラ防止法に罰則はある?違反した会社への勧告と企業名公表で詳しく扱います。
第4条に加わった「何人も」の一文
2025年6月11日の公布日に施行された部分として、第4条(国の施策)に、国が「何人も職場における労働者の就業環境を害する言動を行つてはならない」ことに鑑みて、規範意識を育てる啓発活動を行う旨が加わりました。これは国の啓発の前提として書かれた文言で、個人に罰則や直接の禁止規定ができたわけではありません。「法律でパワハラが禁止され罰せられるようになった」と読むのは行き過ぎです。
2026年10月改正で変わったこと
令和7年法律第63号による改正の主な部分は、2026年10月1日に施行済みです。厚生労働省のページは「カスタマーハラスメント及び求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が全ての事業主の義務となりました」と案内しています。変わった点は次の4つです。
- カスハラの措置義務(第33条)。 顧客・取引先・施設の利用者などの言動で、社会通念上許容される範囲を超えたものから労働者を守る措置が、全ての事業主の義務になりました。指針は令和8年厚生労働省告示第51号です。中身はカスハラとは?定義と2026年10月から会社に課された措置義務にまとめています。
- 求職者等へのセクハラ(就活セクハラ)の措置義務。 こちらは男女雇用機会均等法の第13条として新設されました。面接・説明会・インターンシップ・OB/OG訪問などでの性的な言動が対象です。詳しくは就活セクハラとは?2026年10月から義務化された会社の対策と相談先へ。
- 条番号の繰り下げ。 パワハラ関係の条が第30条の2〜第30条の7から、第31条・第32条・第35条〜第38条へ移りました。
- パワハラ指針の文言の更新。 厚生労働省パンフレットに収録された「令和8年10月1日適用時点」の指針では、「性自認」が「ジェンダーアイデンティティ」に改められ、個の侵害の例に機微な個人情報の開示(カミングアウト)を禁止・強要することが加わり、自社商品の買い取り強要等に関する言動も3要素を満たせば該当すると明記されました。顧客等からの迷惑行為に関する旧来の記述は、カスハラ指針の側へ移っています。
| 内容 | 改正前 | 現行 |
|---|---|---|
| パワハラの措置義務・不利益取扱いの禁止 | 労働施策総合推進法 第30条の2 | 第31条 |
| パワハラの責務 | 第30条の3 | 第32条 |
| カスハラの措置義務・責務 | なし | 第33条・第34条 |
| 紛争解決の特例・労働局長の援助・調停・調停手続 | 第30条の4〜第30条の7 | 第35条〜第38条 |
| 大臣の助言・指導・勧告・公表 | 第33条 | 第42条 |
| 報告の求め/過料 | 第36条/第41条 | 第45条1項/第51条 |
| セクハラの措置義務 | 均等法 第11条 | 第11条(変更なし) |
| 就活セクハラの措置義務 | なし | 均等法 第13条 |
| マタハラの措置義務 | 均等法 第11条の3 | 第15条 |
| 育児・介護休業等のハラスメントの措置義務 | 育児・介護休業法 第25条 | 第25条(変更なし) |
厚生労働省の指針のページから直接開ける令和2年のパワハラ指針PDFは、本文に旧番号(第30条の2など)が残ったままです。会社の就業規則や研修資料に旧番号が残っていたら、それは改正前に作られた資料です。自分で引用するときは現行の番号を使いましょう。
労働局の援助と調停:第35条〜第38条の中身
社内で解決しないときの公的な手続きを定めているのが第35条から第38条です。
- 第35条(特例):パワハラ・カスハラの措置義務と不利益取扱いの禁止をめぐる労働者と会社の紛争には、個別労働関係紛争解決促進法の助言・指導やあっせんの規定を使わず、この法律の援助・調停で扱う、という交通整理の条文です。
- 第36条(援助):都道府県労働局長は、当事者の一方または双方から求められたとき、必要な助言・指導・勧告ができます。援助を求めたことを理由とする不利益な取扱いは禁止です。
- 第37条(調停):調停の申請があり必要と認めるとき、労働局長は紛争調整委員会に調停をさせます。申請を理由とする不利益な取扱いも禁止です。
- 第38条(手続):調停の進め方は男女雇用機会均等法の規定を準用します。調停は3人の調停委員が行い、調停案の受諾を勧告できます。受諾するかどうかは当事者が決めます。
一方、3要素がそろわない同僚間の嫌がらせなど、措置義務の紛争に当たらないものは、総合労働相談コーナーを通じた個別労働関係紛争解決促進法のあっせんが使える場面があります。手続きの選び方は労働局の助言・指導と調停:パワハラ・カスハラの紛争を解決する仕組みで詳しく説明しています。
対象になる人・ならない人と、条文の読み方
措置義務の対象となる労働者は、正社員に限りません。指針は、パートタイム労働者や契約社員を含む全ての労働者を対象とし、派遣で働く人については派遣先の会社にも措置を求めています。
公務員は扱いが分かれます。第48条により、第31条〜第34条(措置義務・責務)は一般職の国家公務員・裁判所職員・国会職員・自衛隊員には適用されません。第35条〜第39条の労働局の援助・調停は、国家公務員にも地方公務員にも適用されません。公立学校の教員や自治体の職員は、労働局の援助・調停を使えないため、所属先ごとの別の窓口を確かめることになります。窓口の違いは公務員のパワハラ相談先と対処:人事院・人事委員会など民間と違う窓口にまとめています。
条文を自分の状況に当てはめるときは、次の順で読むと迷いにくくなります。
- 会社にどんな措置が義務づけられているか(第31条1項と指針)→パワハラで会社の義務は何?相談したら会社がするべき10の措置
- 相談したことで不利益を受けていないか(第31条2項)
- 社内で動かないとき、労働局の援助・調停を使えるか(第36条・第37条)
- 会社が義務を果たさない場合に行政がとる手段(第42条・第45条・第51条)
義務がいつから適用されたかを会社の規模別に確かめたい場合は、パワハラ防止法はいつから?大企業・中小企業・2026年改正の年表を見てください。1回の出来事でも相談できるかという入口の疑問は、前の記事パワハラは1回だけでも当たる?回数・継続性と指針の考え方で扱っています。
よくある質問
Q. パワハラ防止法の正式名称は何ですか?
「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」です。略して労働施策総合推進法と呼ばれ、パワハラの措置義務を定めた部分があることから、通称でパワハラ防止法と呼ばれています。
Q. 古い資料にある「第30条の2」は今も使えますか?
2026年9月30日までの条番号です。2026年10月1日の改正で、パワハラの措置義務は第31条に移りました。中身の考え方は引き継がれていますが、会社に文書で質問するときや相談先に説明するときは、現行の第31条で示すほうが話が通じやすくなります。
Q. パワハラ防止法は、パワハラをした本人を罰する法律ですか?
違います。この法律が義務づけているのは、会社(事業主)が防止の措置を講じることです。加害者個人に向けた罰則の規定はありません。行為の内容によって刑法や民法の責任が問題になるのは、別の法律の話です。
出典・参考にした公的な情報
- 労働施策総合推進法 第4条・第31条〜第38条・第42条・第45条・第48条・第51条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 男女雇用機会均等法 第11条・第13条・第15条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 育児・介護休業法 第25条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 職場におけるハラスメントの防止のために(厚生労働省)
- 事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット(指針 令和8年10月1日適用時点の本文)(厚生労働省)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。