労災 / 制度解説

パワハラ労災の休業補償給付:もらえる額の計算と待期の扱い

この記事のもくじ
  1. パワハラ労災の休業補償はいくら:60%と20%の内訳
  2. 給付基礎日額の出し方:平均賃金の計算例
  3. 待期の3日間と、有給休暇を使った日の扱い
  4. 請求の手順と時効
  5. 長引いたとき・ほかの給付との関係

パワーハラスメント(パワハラ)による病気が労災と認められ、療養のために働けず賃金が出ない日が続くと、労災保険から休業補償給付(給付基礎日額の60%)と休業特別支給金(同20%)が、休業の4日目から支給されます。合わせると給付基礎日額の8割です。最初の3日間は「待期」で、この間は会社が労働基準法に基づき平均賃金の60%を補償します。以下、額の出し方を計算例つきで説明します。

パワハラ労災の休業補償はいくら:60%と20%の内訳

労災保険法第14条は、休業補償給付を「賃金を受けない日の第四日目から支給」し、額は「一日につき給付基礎日額の百分の六十」と定めています。これに、社会復帰促進等事業(同法第29条)として支給される休業特別支給金(給付基礎日額の20%、労災保険特別支給金支給規則第3条)が上乗せされます。

早見表:休業中に受け取れるもの
期間 支払う人 額(1日あたり) 根拠
1〜3日目(待期) 会社 平均賃金の60% 労働基準法第76条
4日目以降 労災保険 休業補償給付:給付基礎日額の60% 労災保険法第14条
4日目以降 労災保険 休業特別支給金:給付基礎日額の20% 特別支給金支給規則第3条

支給されるのは、厚生労働省のパンフレットが挙げる次の3つの要件をすべて満たす日です。

  1. 業務上の病気やけがの療養のためであること
  2. 労働することができないこと
  3. 賃金を受けていないこと

精神障害の場合、2の「働けない」状態は、請求書の医師の証明欄(療養の期間・傷病名・経過)で示します(労災保険法施行規則第13条第2項)。通院していても、医師が働けると判断した期間は対象になりません。

なお、業務災害の給付には休業補償のほか療養補償給付(治療費)・障害補償給付・遺族補償給付・葬祭料・傷病補償年金・介護補償給付があります(同法第12条の8)。この中に精神的な苦痛への慰謝料に当たる給付はなく、その扱いはパワハラ労災が認められた後の慰謝料で説明します。

給付基礎日額の出し方:平均賃金の計算例

給付基礎日額は、原則として労働基準法第12条の平均賃金に相当する額です(労災保険法第8条)。精神障害のような病気では、計算の基準になる日は「診断によって疾病の発生が確定した日」です。

平均賃金の計算は次の順に進めます。

  1. 基準の日(診断で発病が確定した日)を決める。
  2. 賃金締切日があれば、その直前の締切日から遡る3か月を計算期間にする。
  3. その3か月に支払われた賃金の総額を合計する。賞与など3か月を超える期間ごとの賃金と、臨時の賃金は入れない(給付が手取りや賞与込みの年収と合わないのは、この手順のためです)。
  4. 3か月の暦日数(土日を含む)で割る。
  5. 1円未満は切り上げる(同法第8条の5)。

計算例です(筆者の計算)。月給30万円(毎月同額・末日締め)の人が、2026年6月15日に医師の診断で発病が確定したとします。直前の締切日は5月31日なので、計算期間は3月1日〜5月31日の92日、賃金総額は90万円です。

  • 給付基礎日額:900,000円 ÷ 92日 = 9,782.6…円 → 9,783円
  • 休業補償給付(60%):約5,870円
  • 休業特別支給金(20%):約1,957円
  • 4日目以降の1日あたり:約7,826円(端数処理を除いた概算)

休業が30日続き、そのすべてで賃金が出なかった場合、労災保険から出るのは4日目からの27日分で、約21万1千円です。最初の3日分は会社の補償になります。

残業代や手当も「賃金」に入るので、残業が多かった人は月給だけで計算した額より高くなります。逆に、計算期間に病気で欠勤した日があった場合などは計算のしかたが変わるので、請求書の「平均賃金算定内訳」(別紙1)の記入例に沿って計算します。なお、療養開始から1年6か月を過ぎると年齢階層別の最低・最高限度額が適用され、賃金水準が四半期で10%を超えて変動したときは額が改定されます(同法第8条の2、パンフレット)。

待期の3日間と、有給休暇を使った日の扱い

待期の3日間。 パンフレットは、休業の初日から第3日目までを待期期間とし、業務災害の場合は事業主が労働基準法の休業補償(1日につき平均賃金の60%)を行う、と説明しています。根拠は労働基準法第76条です。事業場の廃止や事業主の行方不明の後に疾病の発生が確定した場合などで、待期の補償を受けられないときは、休業補償給付の3日分に当たる「休業補償特別援護金」を監督署に申請できる場合があります(同パンフレット)。

有給休暇を使った日。 労災保険法第14条は、所定労働時間の一部だけ働いた日に加え、「賃金が支払われる休暇」の日を「部分算定日」とし、給付基礎日額からその日の賃金を差し引いた額の60%を支給すると定めています。有給休暇で賃金が満額出た日は、差し引くと残りがほとんどなくなります。労災の請求を考えている人は、休みを有給休暇で処理するか欠勤にするかで受け取り方が変わる点を知っておいてください。

一部だけ働いた日。 通院のため半日休んだ日などは、給付基礎日額から実際に働いた分の賃金を引いた額の60%です。請求書には別紙2を添えます。

請求の手順と時効

  1. 請求書を用意する。 「休業補償給付支給請求書」(様式第8号)。休業特別支給金の申請も同じ様式で同時に行う。
  2. 会社の証明を受ける。 発病の年月日・平均賃金・休業期間などの欄。会社が拒否しても請求はできる(パンフレット)。
  3. 医師の証明を受ける。 療養の期間・傷病名・経過の欄。
  4. 所轄の労働基準監督署長に出す。 働いていた事業場を管轄する署。
  5. 2回目以降は続けて出す。 パンフレットは、休業が長期にわたる場合は1か月ごとの請求が一般的としている。

時効は、賃金を受けない日ごとに、その翌日から2年です(同法第42条)。2026年7月に公布された労災保険法等の改正(令和8年法律第60号、2027年4月1日施行)で、災害補償の事由に当たるかを容易に判断できない疾病として政令で定めるものは、請求権の時効が2年から5年に延びます。対象の疾病は政令で決まるため、精神障害が入るかは政令の内容を待つ段階で、当面は2年で数えておくのが安全です。請求の流れはパワハラの労災申請の流れ:請求書の提出から調査・決定までにあります。初回の請求は、労災と認めるかどうかの調査を伴うため、精神障害の場合は認定の請求と一体で進みます。退職している人は退職後でもパワハラの労災申請はできる?時効と準備することを見てください。

長引いたとき・ほかの給付との関係

  • 1年6か月を過ぎても治らないとき。 療養開始後1年6か月を経過した日に治っておらず、障害の程度が傷病等級に当たると、休業補償給付に代わって傷病補償年金が支給されます。これは監督署長の職権で決まり、該当しそうなときは「傷病の状態等に関する届」を出します(パンフレット)。
  • 治ゆ(症状固定)になったとき。 症状が安定し、治療の効果が期待できなくなった状態を労災保険では「治ゆ」とし、その後は休業補償給付は支給されません。障害が残れば障害補償給付の対象になりえます。
  • 障害厚生年金などを受けているとき。 同じ病気で障害厚生年金・障害基礎年金を受けられる場合は、休業補償給付の額が調整されます(同法第14条第2項)。
  • 健康保険の傷病手当金。 業務上の病気は健康保険の傷病手当金の対象外なので、労災と認められると調整が要ります。詳しくは傷病手当金と労災のどちらかで。

支給しないと決定された場合の不服申立ては、労災が不支給になったら:審査請求の期限と手続きの流れで説明します。

よくある質問

Q. 労災の休業補償は、手取りの8割がもらえるのですか?

いいえ。60%と20%を足した8割は、給付基礎日額(発病が確定した日の前3か月の賃金をもとにした1日あたりの額)に対する割合です。手取り額ではなく、賞与も含まない額が基準なので、実際の給料の感覚とは差が出ます。

Q. 労災の結果が出るまで、お金はもらえないのですか?

休業補償給付は、労働基準監督署が業務による病気と認めて支給を決めてから支払われます。業務上の病気は健康保険の傷病手当金の対象外なので、決定を待つ間に傷病手当金を受けるかどうかは、加入している健康保険に事情を伝えて確かめます。労災と認められたときは両者の調整が必要になるので、受け取った通知や明細は捨てずに保管してください。

Q. 短い時間だけ出勤した日も休業補償の対象になりますか?

療養のため所定労働時間の一部だけ働いた日は、給付基礎日額から、その日に働いた分として支払われた賃金を差し引いた額の60%が支給されます。通院のために半日休んだ日などがこれに当たります。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

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