労災 / Q&A

退職後でもパワハラの労災申請はできる?時効と準備すること

この記事のもくじ
  1. 退職後でもパワハラの労災申請はできる:根拠と請求先
  2. 時効:給付ごとの期限と「日ごと」に進む数え方
  3. 元の会社の証明が得られないとき
  4. 退職後に集めておく資料
  5. 退職後の請求で気をつけたい3つのこと

退職した後でも、パワーハラスメント(パワハラ)による病気の労災請求はできます。労災保険法第12条の5は「保険給付を受ける権利は、労働者の退職によつて変更されることはない」と定めています。気をつけたいのは時効で、療養や休業の給付は2年、障害や遺族の給付は5年です。休業補償は休んだ日ごとに期限が進むので、迷っている間にも古い日の分から消えていきます。

退職後でもパワハラの労災申請はできる:根拠と請求先

退職していても、請求の仕組みは在職中と同じです。各給付は本人の請求に基づいて支給され、提出先は働いていた事業場を管轄する労働基準監督署です(労災保険法施行規則第1条・第13条)。いま住んでいる場所の監督署ではない点に注意してください。

労災として認められるかの判断も、在職中と同じ認定基準で行われます。精神障害の場合は、厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の認定基準」に沿って、発病前おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷があったかなどを調べます。退職したことで評価が厳しくなるという規定はありません。認定の3つの要件と全体の流れはパワハラによる精神障害の労災認定で説明しています。

退職後の請求で在職中と違うのは、次の3点です。

  1. 会社の協力を得にくい。 請求書には事業主の証明欄がある。
  2. 資料が手元に少ない。 出勤簿・賃金台帳・社内メールは会社側にある。
  3. 時効が進んでいる。 退職までの迷った期間も時効の期間に含まれる。

以下、この順で対処のしかたを見ていきます。

時効:給付ごとの期限と「日ごと」に進む数え方

労災保険法第42条は、給付を受ける権利の時効を次のように定めています。

早見表:労災の給付ごとの時効
給付 時効 数え始め
療養(補償)給付(治療費) 2年 権利を行使できる時から
休業(補償)給付 2年 休んで賃金を受けなかった日ごとに、その翌日から
葬祭料・介護(補償)給付 2年 権利を行使できる時から
障害(補償)給付・遺族(補償)給付 5年 権利を行使できる時から

休業補償について、厚生労働省のパンフレットは「賃金を受けない日ごとに請求権が発生」し、「その翌日から2年を経過すると、時効により請求権が消滅」すると説明しています。つまり、休業が長く続いた人ほど、古い日の分から少しずつ請求できなくなります。

一般形で言えば、いま休んでいる日の分は、その日の翌日から2年後の日が終わるまで請求できます。たとえば今日(2026年10月)に休んでいる日の分は、2028年10月まで請求できますが、半年前の日の分は残りが短くなります。

例で考えます(筆者の計算)。2025年4月1日に療養のため休み、賃金を受けなかったとします。この日の分の権利は翌日の4月2日から2年を数え、2027年4月1日が終わると時効で消えます。同じように4月2日の分は2027年4月2日の終わりに消えます。一方、パンフレットは、それまでに請求書を提出すれば時効の問題はなくなるとしています。まず請求書を出すことが、時効への一番の備えです。

時効については、2026年7月に公布された改正法(令和8年法律第60号)で、業務が原因かどうかの判断が容易でない病気として政令で定めるもの(厚生労働省の概要は脳・心臓疾患、精神疾患、石綿関連疾病を想定)の療養・休業などの時効が、2027年4月1日から2年でなく5年になります。ただし、施行前に生じた事故を原因とする病気には従来の規定が適用される経過措置があります(附則第5条)。上の例のように2025年に休み始めた人は、この経過措置の側に入ると考えるのが安全です。改正の中身はパワハラの労災申請の流れ:請求書の提出から調査・決定までにまとめています。

会社や加害者への損害賠償(慰謝料など)の期限は、労災とは別に民法で決まっています。そちらはパワハラで退職した後に訴えることはできるかで扱います。

元の会社の証明が得られないとき

休業補償の請求書(様式第8号)には、発病の年月日、災害の原因と発生状況、平均賃金、休業の期間などについて事業主の証明を受ける欄があります(施行規則第13条第2項)。退職後でもこの扱いは基本的に同じですが、パンフレットには次の例外が書かれています。

  • 2回目以降の請求が離職後で、その期間が全部離職後なら、事業主の証明は不要。
  • 離職後の請求でも、休んだ期間の全部か一部が離職前なら、証明が必要。

事業主には、本人が手続きをしにくいときに助力し、証明を求められたら速やかに証明する務めがあります(施行規則第23条)。それでも証明が得られないときについて、パンフレットは、会社が廃止された場合や証明を拒否された場合でも労災請求はできるので、都道府県労働局か労働基準監督署に相談するよう案内しています。証明を頼むときは、やりとりが残るよう書面かメールにします。

文例:「○年○月まで在籍していた○○です。在職中に発病した病気について、労災保険の休業補償給付を請求します。請求書の事業主証明欄へのご記入をお願いします。○月○日までにご返送いただけない場合は、労働基準監督署にその旨を伝えて手続きを進めます。」

証明欄にパワハラの事実を認める記載を会社に求める必要はありません。会社と言い分が違っても、事実関係は監督署が調べます。会社の対応が悪いときの具体的な出し方は事業主の証明なしで出せるかにまとめています。

退職後に集めておく資料

会社の外にいると、資料は自分で集めるしかありません。監督署は関係者からも話を聞いて調べますが、本人の手元の記録が出発点になります。

手元で集められるもの

  • 出来事の時系列メモ(いつ・誰に・何を言われたか・その後どうなったか)
  • 当時の日記、メールやチャットの画面の写し、録音
  • 通院先、初診日、診断書、通院と服薬の記録
  • 給与明細と源泉徴収票(平均賃金の計算に使う)
  • 社内の相談窓口や上司に相談した記録(相談した日、相手、返事)
  • 一緒に働いていた人のうち、事情を知っている人の名前

会社に求められるもの

  • 退職証明書:使用期間・業務の種類・地位・賃金・退職の事由を請求でき、会社は遅滞なく交付する(労働基準法第22条)。
  • 会社は賃金台帳や労働関係の重要な書類を保存する義務がある(同法第109条。当分の間は3年)。退職後に出してくれるかは会社次第なので、出てこなければその旨を監督署に伝える。

時系列の書き方は時系列表の作り方、退職後に証拠を集めるときの注意は退職後の証拠の集め方を見てください。

退職後の請求で気をつけたい3つのこと

1. 休業補償は「今も療養のため働けないか」で決まる。 休業補償は、業務による病気の療養のため労働できず、賃金を受けていない日の4日目から支給されます(労災保険法第14条)。退職した後も通院が続き、医師が働けない状態と証明する期間が対象です。治療が終わった後や、別の会社で働いている日は対象になりません。金額の計算はパワハラ労災の休業補償給付:もらえる額の計算と待期の扱いで説明します。

2. 健康保険の傷病手当金を受けている人は、関係を整理する。 退職後に傷病手当金を受けている人が、同じ病気を労災として請求する場合、業務上の病気は労災の対象なので、両者の調整が起きます。順番と切り替えは傷病手当金と労災のどちらかで確かめてください。

3. 申請で元の会社と連絡を取る負担を見込む。 監督署の調査では会社側にも話が聞かれます。申請の負担と得られるものの比べ方は労災申請のメリット・デメリットにまとめています。請求書の出し方の全体はパワハラの労災申請の流れ、調査で聞かれることはパワハラの労災調査では何をされる?聴取の内容と期間の目安が参考になります。

よくある質問

Q. 辞めてから1年以上たっていますが、まだ間に合いますか?

療養と休業の給付は、権利が生じた時から2年で時効になります。休業補償は休んだ日ごとに権利が生じるので、2年より前の日の分から順に消えていきますが、最近2年分は残っています。まだ通院や休業が続いているなら、早めに請求書を出すほど取りこぼしが減ります。

Q. 退職後に別の会社で働き始めています。それでも請求できますか?

退職前の療養や休業の分は、退職や転職によって権利がなくなるわけではありません。ただし休業補償は、療養のために働けず賃金を受けていない日が対象なので、新しい職場で働いている日は対象になりません。どの期間が対象になるかは、所轄の労働基準監督署に期間を示して確かめてください。

Q. 元の会社に連絡を取るのがつらく、証明を頼めません。

会社が証明を拒んだ場合や会社が廃止された場合でも労災の請求はできる、と厚生労働省のパンフレットに書かれています。会社に頼めない事情があるときは、その事情を労働基準監督署に伝えて、証明欄の扱いを相談してください。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

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