パワハラの労災調査では何をされる?聴取の内容と期間の目安
この記事のもくじ
パワハラの労災請求のあとに労働基準監督署(以下、労基署)が行う調査は、発病前おおむね6か月の間に起きた仕事上の出来事を調べ、認定基準の評価表で評価することが中心です。厚生労働省の標準的な流れでは、調査計画をつくり、本人・会社・主治医から資料を集め、本人と関係者の聴取をして、結果をまとめて決定します。期間については、令和2年度の平均処理期間が8.5か月と公表された資料があり、この記事では流れ、聴取で聞かれること、期間の目安と進み具合の聞き方を順に説明します。
労基署の調査の流れ:受付から決定までの7つの段階
厚生労働省が専門検討会に出した「精神障害事案の標準的な調査・決定の流れ」の別紙を、段階の順に整理します。実際の進み方は事案ごとに違い、全部の段階を同じ順で踏むとは限りません。
| 段階 | 労基署が行うこと |
|---|---|
| 1 請求書の受付 | 請求書を受け付け、把握できている情報から調査の概要(主要な問題点とその確認方法、調査の対象)を検討する |
| 2 調査計画 | 受付後1週間以内を目途に、調査計画書をまとめる |
| 3 資料の提出依頼 | 請求人、事業主、主治医、その他の関係機関に資料の提出を依頼する |
| 4 事実の調査 | 請求人から聴取し、上司・同僚など主張に関係する人に事実を確かめる |
| 5 調査結果の分析 | 進み具合を確認し、結果を分析して調査計画を見直す。必要なら追加で聴取や資料収集をする |
| 6 とりまとめ | 発病時期、仕事上の出来事とその心理的負荷の評価、仕事以外の負荷や個体側要因を整理する |
| 7 決定 | 専門医の意見などを踏まえて、支給か不支給かを決める |
段階3で集める資料は、流れ図に4種類が挙がっています。請求人の主張の参考になる資料(申立書や、出来事を記録したメモなど)、事業主への依頼事項に対する報告書や社内の調査資料、医学意見書や診療録など、そして受診歴の照会や警察への照会などで得る資料です。本人が出す申立書は、この段階から調査の基礎資料になります。書き方は精神障害の労災の申立書の書き方で説明しています。
決定の前には、主治医の意見が求められます。認定基準は、治療歴のない自殺の事案を除くすべての事案で、主治医から疾患名、発病時期、主治医が考える発病の原因とその根拠の意見を求めると定めています。受診のときに、職場で起きたことと時期を主治医に伝えておくと、意見書に反映されやすくなります。伝え方はパワハラで診断書をもらうにはにあります。
聴取では何を聞かれるか:申立書の項目が手がかり
流れ図からは、請求人の聴取の役割が分かります。収集した資料に基づいて、請求人が主張したい事柄を漏れなく記録することです。そのため、聞かれる内容は、提出した申立書や請求書に沿ったものになります。
労働局のサイトに載っている「精神障害用 申立書」の質問が、聞かれることの手がかりになります。
- 症状がいつ始まり、どう続いたか。受診のきっかけと、治療の経過
- 職場での勤務状況:仕事の内容、所定労働時間、時間外労働の程度
- 発病前おおむね6か月の間の、ストレスとなった出来事と時期
- 仕事以外の出来事:離婚、家族の病気、金銭の出来事など
- 以前の精神科の受診歴や、飲酒による問題の有無
- 出勤や帰宅の時刻を記録した手帳、メールなどの資料の有無
- 業務が原因と考える理由
認定基準は、こうした調査を通じて、発病の有無と疾患名は主治医の意見書や診療録、請求人や関係者の聴取などから得た事実で医学的に判断し、仕事以外の心理的負荷や、既往歴などの個体側要因も確認するとしています。聴取で仕事以外のことを聞かれるのは、ほかの原因を調べる手続きの一部だからです。
聴取の前に、次の準備をしておきます。
- 申立書と請求書の写し、時系列表を手元に置く。聴取は自分が書いた内容に沿って進みます
- 日付を言えるようにする。「○月○日の朝礼で」と言えない場合は、「○月の上旬」のように幅を持たせ、うろ覚えの部分はそう伝える
- 言われた言葉や行為を、事実から話す。受け止め方や影響は、そのあとに話す
- 会社に相談した日と、会社の対応を話せるようにする。評価表では、相談しても適切な対応がなかったことが評価に関わる例が挙がっています
- 分からない質問には、推測で答えず、「覚えていません」「資料を確かめて答えます」と伝える
文例(日付があいまいなとき):「正確な日付は手帳を見ないと分かりませんが、○月の第2週だったと記憶しています。後日、手帳で確かめてお伝えします。」
会社や同僚にも聴取が行われる:本人にできること
調査の対象は本人だけではありません。流れ図は、会社への資料の提出依頼のほか、上司や同僚など、請求人が主張した事柄に関係する人から事実を確かめることを示しています。必要に応じて、発病時期などの医学的事項の調べ方について専門医の助言を受ける、とも書かれています。
そのため、会社や同僚の説明が本人の説明と違うことが起こりえます。違いがあっても、会社の言い分がそのまま結論になるわけではなく、労基署が資料と聴取を合わせて事実を認定します。本人は、日付つきの記録や申立書で具体的に残しておくことが、説明の裏づけになります。記録の取り方はパワハラの時系列表の作り方にまとめています。
会社が証明や資料の提出に協力しない場合の扱いはパワハラ労災申請で会社の対応が悪いときで説明しています。会社や同僚に聴取が及ぶことで、職場の関係が変わる心配もあります。請求前にパワハラで労災申請するメリット・デメリットも読んでおくと、判断しやすくなります。
調査にかかる期間の目安と、進み具合の確かめ方
調査から決定までの期間について、公表されている数字は限られています。厚生労働省が専門検討会に出した資料には、令和2年度の精神障害の事案の平均処理期間が8.5か月と書かれています。同じ資料は、いったん短縮していた処理期間が、請求件数の増加で再び長くなる傾向にあるとも述べています。
その後の令和5年9月の認定基準の改正では、専門医3名の合議としていた事案の多くを、1名の意見で決められるようになりました。審査をより迅速にするためと位置づけられていますが、改正後の平均処理期間は、令和7年度の報道発表の本文には載っていません。請求件数は令和7年度に4,958件と、前年度より1,178件増えています(厚生労働省、2026年7月15日公表)。数字だけから、いまの期間を言い切ることはできません。
期間は事案ごとに違い、聴取の追加、資料の収集、専門医の意見が必要かで変わります。待っている間の生活は、休業補償給付の請求で支えられる場合があります。計算はパワハラ労災の休業補償給付に載せています。
すでに請求している場合は、進み具合を所轄の労基署や労働局に問い合わせられます。問い合わせるときは、請求した日付、請求人の氏名、給付の種類を伝えます。労災保険制度についての一般的な質問は、厚生労働省の労災保険相談ダイヤル(0570-006031、月〜金の8時30分〜17時15分、祝日・年末年始を除く)でも聞けます。個別の事案の進み具合は、請求した労基署に聞きます。労基署の窓口はパワハラの相談窓口一覧:電話番号・受付時間・できることの早見表にまとめています。
結果が不支給のときは、決定を知った日の翌日から3か月以内に審査請求ができます。手順は労災が不支給になったらを見てください。流れの全体はパワハラの労災申請の流れで確認できます。
よくある質問
Q. 聴取は何回くらいありますか?
回数は事案ごとに違います。厚生労働省の調査の流れ図には、請求人の聴取のあとに、必要に応じて追加の聴取や追加の資料収集を行うことが書かれています。申立書を出した場合は、聴取を省ける場合があり、聴取をするときも短時間で済むと様式に説明されています。請求のときに、労基署の担当者へ「聴取は何回くらいの見込みか」「追加で出す資料はあるか」と聞いておくと、予定を立てやすくなります。
Q. 聴取に家族や専門家が同席できますか?
社労士には、労基署の調査に関して行う主張や陳述を代理する業務が法律で認められています。家族や専門家の同席は、聴取の日程が決まる前に「同席を希望している。可能か」と労基署の担当者に尋ねて確かめます。依頼する専門家にも、同席や代理でどこまで動いてもらえるかを確かめてください。
Q. 調査中に会社をやめても、手続きは続けられますか?
労災保険の給付を受ける権利は、退職によって変わらないと労災保険法12条の5に定められています。調査中に退職した場合も、労基署に連絡先の変更と退職の事実を伝えてください。退職後の請求や時効は、別の記事で説明しています。
出典・参考にした公的な情報
- 第1回「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」資料10(現状・課題と、精神障害事案の標準的な調査・決定の流れ)(厚生労働省)
- 心理的負荷による精神障害の認定基準(基発0901第2号・第4・第6・第8)(厚生労働省)
- 精神障害の労災認定(パンフレット R6.10)(厚生労働省)
- 労災保険様式ダウンロード(精神障害用の申立書)(京都労働局)
- 令和7年度「過労死等の労災補償状況」を公表します(厚生労働省)
- 相談窓口等一覧(労災保険相談ダイヤル)(厚生労働省)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。