パワハラ労災申請で会社の対応が悪いとき:事業主の証明なしで出せるか
この記事のもくじ
事業主の証明が得られなくても、パワハラによる精神障害の労災請求はできます。厚生労働省の精神障害の労災認定のパンフレットは、会社が事業主証明を拒否するなどして証明が得られない場合でも労災請求はできるので、最寄りの都道府県労働局か労働基準監督署(以下、労基署)に相談するよう案内しています。この記事では、会社が証明欄に書かない・協力しないときの順番を、会社に頼む段階、頼んでも応じない段階、労基署に相談する段階に分けて説明します。
事業主証明とは何か:会社が協力する義務と、請求の主体
労災の請求書には、事業主の証明欄があります。休業補償給付の請求書では、発病の年月日、災害の原因と発生状況、平均賃金、休業した期間などを事業主が証明し、療養の期間や傷病名は医師が証明します(労災保険法施行規則13条)。会社に書いてもらう項目と、主治医に書いてもらう項目は別です。
会社には、次の2つの務めがあります(同規則23条)。
- 本人が事故のために自分で手続きをすることが難しいときは、手続きができるよう助力すること
- 本人から保険給付を受けるために必要な証明を求められたら、速やかに証明すること
一方で、給付を請求する人は労働者本人です(労災保険法12条の8第2項は、保険給付は請求に基づいて行うとしています)。会社の許可を受けて請求するのではなく、会社に頼んで書いてもらう欄があるだけです。
証明は、会社がパワハラを認めることとは別の仕組みです。同じ規則には、会社が請求について自分の意見を労基署長に書面で申し出る規定が別に置かれています(23条の2)。事実の受け止めが違う会社は、証明欄に書くのではなく、この意見の申出で伝える道があります。申立書や記録で自分の経緯を説明する本人と、意見を出す会社と、両方から資料を集めて判断するのが労基署です。調査の流れはパワハラの労災調査では何をされる?で説明しています。
会社が書いてくれないときの進め方:4つの段階
会社と関係がこじれている場合に、順番を決めておくと動きやすくなります。
- 請求書の様式と記入欄を確かめる。 事業主に書いてもらうのは、どの欄かを先に特定します。様式はパワハラの労災申請の流れの表で確認できます。
- 文書で、期限をつけて頼む。 電話ではなく、メールか書面で頼み、送った日付と宛先を残します。頼む相手は、人事・総務の担当者や、会社の代表者が現実的です。
- 返事がない、断られたら、その経緯を記録する。 誰が、いつ、どんな理由で断ったか。口頭の場合は、その日のうちにメモにします。
- 労基署に相談して、証明欄が空いたまま出す方法を聞く。 証明欄を空けたままどう出すか、拒否の経緯を書いた書面などが要るかは、労基署の指示に従います。
頼む相手が上司本人の場合は、直接ではなく人事や総務に頼みます。加害者とされる人に頼むと、その人の言い分で書かれたり、頼んだことで関係が悪化したりするおそれがあるためです。
| 段階 | 本人がすること | 残すもの |
|---|---|---|
| 依頼 | 人事・総務へ書面かメールで証明を頼む | 送信日、宛先、依頼文 |
| 督促 | 期限を過ぎたら再度連絡する | 再連絡の日付と相手 |
| 記録 | 断られた理由、返事がない事実を書き留める | 日付つきのメモ、返信メール |
| 相談 | 労基署に事情を伝え、出し方を聞く | 相談日、対応した職員の名前、指示された内容 |
| 提出 | 指示に従って、証明欄以外を整えて提出する | 提出書類の写し |
会社に頼むときの文例:感情を入れず、期限と欄を書く
依頼文は、評価や非難を入れずに、頼む内容と期限だけを書きます。会社が受け取ったこと、いつまでに返事が欲しいかが残るためです。
文例(最初の依頼):「件名:労災保険の請求書に関する事業主証明のお願い。○○様(人事・総務ご担当)。私は○年○月から、業務が原因と考える精神障害のため、○○医院に通院しており、労災保険の請求を準備しています。請求書の事業主の証明欄(発病年月日、災害の原因及び発生状況、平均賃金、休業期間)について、ご記入と押印をお願いします。請求書は添付のとおりです。○月○日までにご返事をいただけると助かります。労災保険法施行規則第23条は、事業主が保険給付に必要な証明を求められたときは速やかに証明することを定めています。」
文例(期限を過ぎたとき):「○月○日にお送りした事業主証明のお願いについて、お返事をいただいておりません。ご記入が難しい場合は、その理由を教えてください。事業主の証明が得られない場合でも請求ができると聞いていますので、○月○日までにお返事がなければ、その旨を労働基準監督署に伝えたうえで手続きを進めます。」
2通目は、脅しや要求の言葉を並べず、「理由を教えてほしい」「期限までに返事がなければ手続きを進める」の2点だけにします。拒否の理由を文字で残しておくと、労基署に説明するときに役立ちます。
会社が記入を引き受ける場合でも、書かれた内容が自分の認識と大きく違うことがあります。欄に書かれた発病の経緯や原因の記載を、提出前に見せてもらい、写しを取っておきます。違いが大きいときは、申立書で本人の経緯を詳しく書いて補います。書き方は精神障害の労災の申立書の書き方にあります。
労基署に相談するときに伝えること
労基署の窓口には、次の順に伝えると話が早く進みます。電話番号と受付時間は、パワハラの相談窓口一覧にまとめています。
- 請求したい給付:療養補償給付、休業補償給付のどれか。すでに受診しているか
- 会社に頼んだ日と方法、会社の返事、断られた理由
- 会社の状況:在職中か、退職したか。会社がなくなっているか
- 手元にある書類:請求書、診断書、申立書の下書き、時系列表、依頼のメール
相談しても、パワハラがあったかどうか、労災に当たるかどうかは、その場では決まりません。それを判断するのは、請求を受けたあとに労基署が調べて決める手続きだからです。相談の目的は、書類の出し方と、会社の協力が得られない場合の扱いを確かめることです。退職している人の請求や期限は退職後でもパワハラの労災申請はできる?で扱っています。
提出後も会社は関わる:調査での会社の位置づけと、気をつけること
証明欄が空いたまま、あるいは会社が書いたうえで請求しても、提出後の調査には会社が関わります。厚生労働省が専門検討会に示した調査の流れ図では、労基署は請求人のほか事業主にも資料の提出を依頼し、依頼事項に対する報告書や社内の調査資料などを集めます。さらに、上司・同僚など、請求人の主張に関係する人からも事実を確かめます。
会社が出す報告書は、本人の説明とは違う内容になることがあります。違いがあっても、会社の言い分がそのまま結論になるわけではありません。本人の説明、会社の説明、同僚の聴取、主治医の意見などを合わせて、労基署が認定基準に当てはめます。本人にできるのは、日付つきの記録と申立書で、自分の経緯を具体的に残しておくことです。
会社に労災の請求を知られて、職場の関係が変わることを心配する人もいます。メリットとデメリットは、パワハラで労災申請するメリット・デメリットで整理しています。会社に相談した記録を書面にしてもらう方法は、パワハラ相談の記録を会社に残してもらうにあります。
会社の協力が得られないときでも、動けなくなるほどの負担を一人で抱える必要はありません。具体的な進め方の不安は、労基署に聞く方法のほか、書類の作成や提出を社労士に頼む方法もあります。違いは精神障害の労災申請は社労士・弁護士に頼むかで比べています。
よくある質問
Q. 会社が「パワハラの事実はない」と言って証明欄を書きません。請求できませんか?
証明欄が埋まらないことだけで請求できなくなるわけではないと、厚生労働省のパンフレットに書かれています。会社の言い分が違うときは、労基署が会社にも資料の提出や聴取を求めて事実を調べます。本人は、自分の経緯を申立書と記録で説明します。
Q. 会社が「労災にはしない」と言っています。止められますか?
労災保険の給付は、請求に基づいて行うと労災保険法に定められています。請求するのは本人で、会社が出す書類ではありません。会社に言われたことは日付とともにメモに残し、労基署に相談するときに伝えてください。
Q. 退職した会社や、なくなった会社でも、証明は必要ですか?
会社が廃止されている場合も、証明が得られなくても請求はできるとパンフレットに明記されています。退職後の請求や時効は別の記事で扱っています。まず最寄りの労働局か労基署に、事情を伝えて相談してください。
出典・参考にした公的な情報
- 精神障害の労災認定(パンフレット R6.10)表紙・事業主・労働者の皆さまへ(厚生労働省)
- 労働者災害補償保険法施行規則 第13条・第23条・第23条の2(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 労働者災害補償保険法 第12条の8(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 第1回「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」資料10(標準的な調査・決定の流れ)(厚生労働省)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。