退職すると損害賠償と脅しを受けたら:本当に請求されるのかの考え方
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「辞めるなら損害賠償を請求する」と言われても、退職したことだけを理由にした損害賠償が認められる場面は限られます。正社員など期間の定めのない雇用では、退職の申入れから2週間で雇用が終わるのが民法上の仕組み(第627条1項)で、それに沿って辞めることは契約違反ではないからです。また、労働基準法第16条は「辞めたら〇万円」のように賠償額をあらかじめ決めておく契約を禁じ、給料から勝手に差し引くことも同法第24条の全額払いの原則に反します。ただし、実際に生じた損害の賠償まで法律が一律に禁じているわけではないので、言われた内容ごとに考え方を分けて整理します。
「辞めたら損害賠償」は本当に請求されるのか:基本の考え方
会社が損害賠償を請求するには、労働者の側に契約違反や不法な行為があり、それによって会社に損害が生じ、両者に因果関係があることを、会社の側が示す必要があります。厚生労働省の「確かめよう労働条件」も、有期契約の途中退職について、損害が生じているのか、それが退職によるものなのかを検討して判断されるもので、当然に請求されるわけではない、と説明しています。
ここから、次の3つの見方ができます。
- 辞めること自体は契約違反にならないのが基本:期間の定めのない雇用で、申入れから2週間をおいて辞めるのは、民法が認めた方法です。
- 「人が足りなくなって困る」は、通常は会社が負う事情:欠員の補充や業務の割り振りは、会社の経営の範囲の話です。
- 請求する・しないと、認められる・認められないは別:口で「請求する」と言うことはできても、裁判所などで損害と因果関係が認められなければ支払いの義務は生じません。
脅しの言葉に動揺してその場で謝ったり、支払いを約束したりしないことが、最初の守りになります。
言われ方別:考え方の早見表
脅しの中身によって、関係する条文が変わります。自分が言われた言葉に近いものを探してください。
| 言われた言葉の例 | 関係する決まり | 考え方の要点 |
|---|---|---|
| 「途中で辞めたら罰金10万円」「違約金を払え」 | 労働基準法第16条 | 違約金や賠償額をあらかじめ決める契約は、会社がしてはならないとされている |
| 「損害分を最後の給料から引く」 | 労働基準法第24条 | 賃金は全額払いが原則。法令や労使協定の定めがない控除はできない |
| 「後任が見つからない分の損失を払え」 | 民法第627条1項 | 2週間をおいた退職は民法が認める方法。欠員の影響は通常、会社が対応する事情 |
| 「契約期間の途中だから賠償だ」(有期契約) | 民法第628条、労働基準法附則第137条 | やむを得ない事由の有無と、その事由が誰の過失で生じたかが論点になる |
| 「研修費・資格の費用を返せ」 | 労働基準法第16条 | 返還の約束が違約金の定めに当たるかは、契約の内容によって判断が分かれる |
| 「引き継ぎをしないなら訴える」 | 民法の損害賠償の一般原則 | 実際の損害と因果関係を会社が示す必要がある。引き継ぎに協力した記録が守りになる |
厚生労働省のQ&Aは、不良品1個ごとに一定額を給料から天引きする定めについて、賠償額の予定として禁止され(第16条)、天引きの実行も賃金の全額払いに反する(第24条)と説明しています。同じQ&Aは、労働者に故意または過失があり、会社の損害との間に相当の因果関係があるときは、実際の損害の全部または一部について賠償責任が生じることがあるとも述べていて、その場合でも賃金からの天引きは許されないとしています。
有期契約の途中退職や、引き継ぎをしなかった場合は?
契約社員・派遣・アルバイトなどで契約期間が決まっている場合は、民法第628条が関わります。同条は、やむを得ない事由があれば直ちに契約を解除できるとし、その事由が当事者の一方の過失で生じたときは、相手方に損害賠償の責任を負うとしています。上司の言動による心身の不調が理由なら、その事由が労働者の過失で生じたとは言いにくい、という整理になりますが、当たるかどうかは事情ごとの判断です。
1年を超える有期契約なら、労働基準法附則第137条により、契約の初日から1年がたった後は申し出ていつでも退職でき、厚生労働省のQ&Aはその場合に損害賠償を請求されることはないと説明しています。
引き継ぎについては、拒んだ事実が残るより、協力した記録が残るほうが守りになります。
- 担当業務・進行中の案件・取引先の連絡先を一覧にして、退職日前に上司あてにメールで送る
- 「引き継ぎ資料は〇日に送付しました」と、送った日を記録する
- 出社が難しい場合は、資料の送付や電話・メールでの質問に応じると申し出る
試用期間中の人も、期間の定めのない雇用で採用されているなら考え方は同じです。入社直後の退職の進め方は試用期間中に会社を辞めたいときで扱っています。
脅しを受けたときの返し方と記録
その場では、反論や謝罪をせず、根拠を書面で示してほしいと伝えて話を終えるのが落ち着いた返し方です。
文例:「損害賠償とおっしゃる根拠と金額の内訳を、書面でいただけますか。退職日は〇月〇日のままでお願いします。」
面談のあとは、言われた言葉を記録し、メールでも残しておきます。
文例:「本日の面談で、〇〇部長から『退職するなら損害賠償を請求する』とのお話がありました。退職日は〇月〇日のまま変更いたしません。請求の根拠がある場合は、書面でお示しください。」
次のことは、その場でしないでください。
- 支払いや分割払いを約束する、念書や誓約書に署名する
- 退職届を取り下げる、退職日を先延ばしにすると口約束する
- 給料からの差し引きに同意する
脅しの言葉が、本人や家族の生命・身体・自由・名誉・財産に害を加えると告げるものなら、刑法第222条の脅迫が関わる話になり得ます。身の危険を感じたときは、職場で暴力・脅し・つきまといを受けたときの警察への相談を確かめてください。言われた日時と言葉の記録は、引き止め全体の記録と同じ形でまとめておくと使いやすくなります。書き方は前の記事の退職の引き止めの断り方にあります。
どこに相談するか:言われた内容で窓口を選ぶ
脅しの中身によって、合う相談先が変わります。
| 状況 | 相談先の例 | できること |
|---|---|---|
| 「辞めたら損害賠償」と言われ、不安で退職を進められない | 総合労働相談コーナー | 労働問題全般の相談。無料・予約不要 |
| 給料から差し引かれた、最後の給料が払われない | 労働基準監督署 | 労働基準法違反の疑いについての相談・申告 |
| 請求書や裁判所からの書類が届いた | 弁護士、法テラス | 請求への対応の相談・代理 |
| 会社と連絡を取ること自体が難しい | 退職代行(弁護士運営・労働組合運営) | 退職の意思の通知、運営形態によっては条件のやり取り |
各窓口の電話番号や受付時間は、パワハラの相談窓口一覧で確かめてください。退職代行を使った場合の損害賠償の心配は退職代行を使うと損害賠償を請求される?その心配の確かめ方にあります。請求そのものへの対応や、会社との条件のやり取りが必要になったときは、弁護士の領域です。
退職を進める手順そのものは、次の記事の会社が退職させてくれないとき:退職の意思を書面で届ける手順で扱っています。脅しで退職日を動かさず、書面で意思を届けることが、話を前に進める一番の近道です。
よくある質問
Q. 入社時に「途中で辞めたら〇万円払う」という誓約書にサインしてしまいました。払わないといけませんか?
労働基準法第16条は、労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償の額をあらかじめ決めたりする契約を、会社がすることを禁じています。サインしたこと自体で支払いが決まるわけではないので、誓約書の写しを持って総合労働相談コーナーや弁護士に相談してください。研修費や資格の費用の返還を約束した書面は、内容によって判断が分かれるため、文面をそのまま見せて確かめてもらいます。
Q. 会社から「損害額を計算したので払え」という請求書が届きました。無視していいですか?
支払いや分割の約束に応じる前に、請求の根拠と内訳を書面で求め、届いた書類はすべて保管してください。裁判所から書類が届いた場合は、期日や期限が書かれているので、放置すると不利になるおそれがあります。その段階では、法テラスや弁護士会の法律相談で早めに見てもらうのが安全です。
Q. 退職代行を使ったら損害賠償を請求されると言われました。
退職の意思を誰が伝えたかによって、退職そのものの扱いが変わるわけではありません。退職代行を使った場合の心配の確かめ方は、退職代行を使うと損害賠償を請求されるかの記事で扱っています。
出典・参考にした公的な情報
- 労働基準法 第16条・第24条・附則第137条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 民法 第627条・第628条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 不良品を出すごとに賠償金を賃金控除することは、労基法上許されますか?(確かめよう労働条件)(厚生労働省)
- 長期契約を結んだものの、途中で退職した場合には損害賠償請求されますか?(確かめよう労働条件)(厚生労働省)
- 刑法 第222条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。