有給を取らせてくれないのはパワハラ?時季変更権と相談先
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有給(年次有給休暇)は、労働者が日を指定して請求すれば、その日に与えるのが労働基準法39条5項の原則です。会社にできるのは、その日に休まれると「事業の正常な運営を妨げる場合」に**別の日に変えること(時季変更)**だけで、「うちは有給を認めていない」「人が足りないから取らせない」と取得そのものを断ることは、条文の仕組みに沿っていません。申請のたびに嫌味を言われる、取ると評価を下げると言われるといった扱いは、労働基準監督署への相談と、パワハラとしての相談の両方につながりうる問題です。この記事では、断られ方の型ごとの考え方、申請の残し方、相談先の使い分けを整理します。
有給を取らせてくれないとき、まず押さえる4つのルール
会社と話す前に、法律と厚生労働省の説明で決まっていることを確かめておきます。ここが分かっていると、「そういうものか」と引き下がらずに済みます。
- **時季変更はできても、拒否はできない。**労基法39条5項は、請求された時季に与えることを原則とし、事業の正常な運営を妨げる場合に限って他の時季に与えることを認めています。厚生労働省のQ&Aは、正常な運営を妨げるかは事業場の状況に照らして客観的に判断するとしています。
- **何に使うかは自由。**同じQ&Aは、年休をどんな目的で取るかは労働者の自由で、会社は目的によって取得を拒めないと説明しています(業務の運営を妨げることを狙った一斉の休暇闘争は、年休の正当な行使と扱われないという例外が同じ説明にあります)。
- **取ったことで不利益に扱わない。**労基法附則136条は、年休を取った労働者に賃金の減額その他の不利益な取扱いをしないよう定めています。厚生労働省のQ&Aは、賞与の査定で年休の取得を減点することを不利益取扱いに当たるものとして説明しています。
- **年10日以上ある人には、会社が年5日を取らせる義務がある。**労基法39条7項により、付与日(基準日)から1年以内に5日、会社が時季を定めて取得させなければなりません。本人が自分で取った日や計画的付与の日は5日に数えます。この義務に違反した会社は30万円以下の罰金の対象です(120条)。
ただし、請求できるのは年休が発生している人です。厚生労働省のQ&Aによれば、雇い入れの日から6か月間継続して勤務し、その期間の全労働日の8割以上出勤していれば10日が付与され、その後は1年ごとに日数が増えます。入社6か月未満の人や、出勤率が8割に届かなかった年度の人は、まだ付与されていない場合があります。パートの人は、週の所定労働日数に応じた日数です。
39条(7項を除く)の違反には、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金の定めもあります(119条)。年休は「会社の好意で与えられる休み」ではなく、条件を満たせば法律上当然に発生する権利です。なお、附則136条は「不利益な取扱いをしないようにしなければならない」という書き方の規定で、取得を理由にした減点や手当のカットが問題になるかは、労基署に事実を示して確かめる事柄です。
「取らせてくれない」の型別:時季変更か、ただの拒否か
断られ方によって、考え方と次の一手が変わります。言われた言葉に近い行を探してください。
| 言われたこと | 条文の仕組みから見た整理 | 次の一手 |
|---|---|---|
| 「その日は決算日で人が足りない。翌週なら取っていい」 | 時季変更の形。正常な運営を妨げるかは客観的に判断される | 別の候補日を出して記録に残す。何度も変えられ続けるなら相談 |
| 「うちは有給はない」「忙しいから無理」とだけ言われる | 代わりの日を示さない拒否。39条5項の時季変更の形になっていない | 申請と回答を書面で残し、労基署へ相談 |
| 「パート・アルバイトに有給はない」 | 所定日数に応じた付与(比例付与)がある | 自分の付与日数を確かめて申請し直す |
| 「何に使うの?理由によっては認めない」 | 目的で拒むことはできないと厚労省Q&Aが説明 | 「私用のため」で申請する |
| 「取るなら査定に響く」「皆勤手当は出ない」 | 附則136条の不利益取扱いの問題 | 言われた日時と言葉を記録する |
| 申請のたびに「いい身分だね」などの嫌味、皆の前で取得を責める | 年休の問題とあわせて、パワハラ指針の精神的な攻撃に当たるかの整理になる | 嫌味の記録を取り、社内窓口か労働局へ |
最後の行は「有給 拒否 パワハラ」で調べた人が気になる点です。年休の扱いそのものは労働基準法の問題で、労基署が担当します。そこに、取得のたびの威圧的な叱責や、他の社員の前でおとしめる言動が繰り返し加わっているなら、パワハラの3要素(優越的な関係を背景に、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動で、就業環境が害される)に照らして整理する話になります。当たるかどうかを決めるのは会社や労働局で、本人が先に結論を出す必要はありません。ネチネチと続く嫌味の残し方はネチネチ嫌味を言うパワハラ上司への対処で詳しく扱います。
申請の残し方と、嫌味を言われたときの返し方
口頭で「有給いいですか」と聞いて「無理」と返されると、後から「申請されていない」と言われても反論しにくくなります。申請は、日付が残る形で出しておくのが基本です。
- 会社の申請書や勤怠システムがあれば、それで申請する。差し戻されたら画面を写真で残す。
- 書式がない、またはシステムで受け付けてもらえないときは、メールやチャットで申請する。
- 断られたら、その場で「別の日なら可能ですか」と聞き、答えをメモする(時季変更か拒否かが分かれる点です)。
- 回答の日時・相手・言葉を、その日のうちに記録する。
申請メールの例:「〇〇課長 お疲れさまです。年次有給休暇を〇月〇日(〇)に取得したく申請します。理由は私用のためです。引き継ぎは〇〇さんにお願いし、〇〇の件は前日までに終えておきます。ご都合が悪い場合は、代わりの日をご指示いただけますでしょうか。」
嫌味を言われたときの返し方の例:「お忙しい時期にすみません。業務は前日までに整えておきます。取得日について変更が必要でしたら、具体的な日をご指示ください。」
返し方の要点は、嫌味そのものに言い返さず、「時季変更なら日を示してほしい」と会社の手続きに話を戻すことです。感情的なやり取りを避けると、後で記録を見た第三者にも状況が伝わりやすくなります。
社内で動かないときの相談先:労基署と総合労働相談コーナー
申請の記録がそろったら、目的に合わせて窓口を選びます。
| 状況 | 合う窓口 | そこでできること |
|---|---|---|
| 代わりの日も示されずに断られる、有給がないと言われる | 労働基準監督署 | 労基法違反の相談。違反の事実を申告できる(104条1項)。申告を理由にした不利益取扱いは禁止(同条2項) |
| 年休の扱いと嫌がらせが混ざっていて、どこに言えばいいか迷う | 総合労働相談コーナー | 労働問題全般の相談。労基法違反の疑いがあれば労基署に取り次ぐ |
| 取得のたびの威圧・人前での叱責が続く | 会社のハラスメント相談窓口、労働局の雇用環境・均等部(室) | パワハラとしての相談、会社の措置、労働局の助言・指導、調停 |
労基署に持っていくものは、雇用契約書(付与の起点になる雇い入れ日が分かるもの)、給与明細、申請メールや申請画面の写真、断られた日時と言葉のメモです。相談の流れは労働基準監督署に相談する方法、窓口の番号と受付時間はパワハラの相談窓口一覧で確かめられます。
退職が決まっていて残りの有給をまとめて使いたい、という場合は、時季変更の先がなくなるという別の論点が出てきます。こちらは退職時の有給消化:拒否されたときの考え方で扱っています。休みが取れないうえに、時間外の労働も記録されていない職場なら、サービス残業の強要がつらいときの記録と相談もあわせて読んでおくと、労基署にまとめて相談しやすくなります。
よくある質問
Q. 有給の理由を聞かれたら、答えないといけませんか?
厚生労働省のQ&Aは、年次有給休暇をどんな目的で取るかは労働者の自由で、会社は目的によって取得を拒めないと説明しています。申請書の理由欄には「私用のため」と書く方法があります。ただ、同じ日に休みが重なって会社が時季変更を考える場面では、事情を伝えたほうが調整しやすいこともあります。言うか言わないかは、その場の状況で決めてかまいません。
Q. パートやアルバイトでも、有給を断られたら同じ考え方ですか?
同じです。週の所定労働日数が少ない人にも、日数に応じた年次有給休暇が付与されます(比例付与)。時季変更のルールも、目的によって拒めないことも、正社員と変わりません。自分に何日あるかは、雇い入れの日・週の所定日数・勤続年数で決まるので、雇用契約書と勤務記録を手元に置いて確かめてください。
Q. 有給を使わずにいたら、いつまで残りますか?
年休の権利は2年で時効になります。前の年度に発生した分は翌年度に繰り越せますが、それより古い分は消えていきます。取らせてもらえないまま時効が近づいているなら、日付の古い分から使えるように、申請の記録を残しながら早めに日を指定していくのが現実的です。
出典・参考にした公的な情報
- 労働基準法 第39条・第104条・第119条・第120条・附則第136条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 確かめよう労働条件 Q&A 年次有給休暇の付与・時季変更権(厚生労働省)
- 確かめよう労働条件 Q&A 年休取得を理由とする賞与の減点(厚生労働省)
- 確かめよう労働条件 Q&A 年5日の年休の確実な取得(厚生労働省)
- 確かめよう労働条件 Q&A 年休の時効(厚生労働省)
- 事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット(パワハラ指針 令和8年10月1日適用時点の本文を収録)(厚生労働省)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。