辞めたい・退職 / 手順

退職時の有給消化:拒否されたときの考え方と伝え方の例文

この記事のもくじ
  1. 退職前の有給消化を会社が断りにくい理由
  2. 残日数から最終出社日を逆算する手順
  3. 「有給は使わせない」と言われたときの整理
  4. 有給消化を伝える例文(退職の申し出・再申請・口頭の返し)
  5. 認めてもらえないときの相談先と、退職代行という選択肢

退職前に残っている年次有給休暇(有給)は、退職日までの労働日に割り当てて請求すれば、使い切るのが基本の考え方です。会社に認められているのは、事業の正常な運営を妨げる場合に別の日へ変える「時季変更」だけで、香川県労働委員会の相談事例は、時季変更は退職日までの範囲でしか行えず、退職日の後へ動かすことはできないと説明しています。退職日までの労働日がちょうど残日数ぶんしかない請求なら、会社は変更先の日を示せません。この記事では、残日数から最終出社日を逆算する手順、断られたときの言い分ごとの整理、申請の文例を順に示します。

退職前の有給消化を会社が断りにくい理由

労働基準法39条5項は、有給を労働者が請求した時季に与えることを原則にし、請求された時季に与えると「事業の正常な運営を妨げる場合」に限って、他の時季に与えることを認めています。厚生労働省のQ&Aは、正常な運営を妨げるかどうかは、事業の規模や内容、業務の繁閑、代わりの人を配置する難しさなどを総合して、個別具体的に判断するとしています。

退職の場面でこの原則が強く働くのは、変更先の日がなくなるからです。香川県労働委員会の事例では、退職日までの残日数をまとめて請求すること自体は問題がなく、時季変更は退職日を越えられないため、結果として会社は請求を認めざるを得ないと考えられる、と整理しています。

ただし、退職日までにまだ余裕がある場合は話が違います。たとえば残り10日の有給に対して退職日まで2か月あれば、会社がその間の別の日へ変えることは、条文の仕組みのうえで考えられます。有給を退職日の直前に寄せて組むのは、このためです。

あわせて押さえておきたい点が3つあります。

  • 有給の権利は2年で時効になり、前年度に発生した分だけが翌年度に繰り越されます(厚生労働省Q&A)。古い分から消えるので、残日数は繰越分と今年度分に分けて確かめます。
  • 有給を取った労働者に、賃金の減額その他の不利益な取扱いをしないよう、労働基準法附則136条が定めています。
  • 有給を取った日の賃金は、就業規則などの定めにより、平均賃金や通常の賃金などで支払うことになっています(39条9項)。

残日数から最終出社日を逆算する手順

有給を取りこぼさないためには、退職日から逆に数えて最終出社日を決めます。退職を伝える前に、次の順で紙に書き出してください。

  1. 残日数を確かめる。 給与明細、勤怠システムの画面、就業規則の付与表で、今年度分と繰越分を分けて数えます。分からなければ、人事に「退職の相談ではなく、残日数の確認」としてメールで聞く方法もあります。
  2. 退職日の候補を決める。 期間の定めのない雇用は、退職の申入れから2週間で終了します(民法627条1項)。これは最短の話で、申入れの日から2週間より後の日を退職日として伝えることもできます。予告の期間の考え方は退職は2週間で成立する?民法627条・628条と即日退職の考え方で扱っています。
  3. 退職日から労働日を数えて遡る。 会社のカレンダーで、土日・祝日・会社の休日を除いた所定労働日だけを数えます。
  4. 残日数ぶん遡った前の労働日を、最終出社日にする。 その日までに引き継ぎと返却を終える前提で組みます。
  5. 引き継ぎに出社が必要かを決める。 出社せずに資料で渡す方法もあります(次の記事で扱います)。
  6. 退職の申し出と同時に、有給の期間を伝える。 退職日と有給の期間を別々に伝えると、「退職日は聞いたが有給は聞いていない」と食い違いが起きやすくなります。
早見表:残日数と最終出社日の組み立て例(土日休み・祝日なし、退職日を金曜とした筆者の計算)
残日数 有給にあてる労働日 最終出社日
5日 退職日の週の月曜〜金曜 退職日の1週間前の金曜
10日 退職日までの2週間ぶん 退職日の2週間前の金曜
15日 退職日までの3週間ぶん 退職日の3週間前の金曜
20日 退職日までの4週間ぶん 退職日の4週間前の金曜
  • 祝日や会社の休日が挟まると、その日数だけ最終出社日が前に動きます。
  • 申入れから退職日までが2週間しかなく残日数が10日を超える場合は、退職日を後ろにするか、使い切れない日数をどうするか(買い取りの相談など)を先に決めます。

「有給は使わせない」と言われたときの整理

退職を伝えた後に有給を渋られるときは、言い方がいくつかの型に分かれます。言われたことに近い行を見て、次の一手を決めてください。

言われたこと 条文と公的な説明から見た整理 次の一手
「引き継ぎが終わるまで有給は認めない」 引き継ぎを理由にしても、時季変更は退職日を越えられない。引き継ぎは出社する日の中で計画するもの 引き継ぎ資料を先に渡す計画を示し、有給の期間は変えない
「辞める人に有給はない」「うちは消化させない慣例だ」 有給は条件を満たせば発生しているもので、退職予定かどうかで消える仕組みは39条にない 残日数と取得期間を書いたメールで申請し直す
「有給の分は買い取るから最後まで出てほしい」 買い取りは義務ではなく、香川県労働委員会の事例も好ましい方法とは言えないとしている 断ってよい。応じるなら日数・金額・支払日を文字で残す
「有給を使うなら退職日を後ろにずらせ」 期間の定めのない雇用は、申入れから2週間で終わる(民法627条1項)。退職日を延ばすかは本人が決めること 当初の退職日のままとする旨をメールで返す
「有給を申請しても欠勤扱いにする」 有給の日の賃金は39条9項に支払いの定めがあり、取得を理由にした不利益取扱いは附則136条が戒めている 退職後に届く給与明細を保存し、差額があれば労働基準監督署へ相談

パワハラのある職場では、有給の話を持ち出しただけで怒鳴られる、人前で責められるといった反応が出ることもあります。その場で言い返して争う必要はありません。言われた日時と言葉を記録し、申請はメールで出し直す、という順で淡々と進めるのが現実的です。退職を伝えた後の嫌がらせへの備えはパワハラ退職の仕返しが怖いとき:退職を伝えた後の嫌がらせへの備え、退職そのものを受け付けてもらえないときは会社が退職させてくれないとき:退職の意思を書面で届ける手順を読んでください。

有給消化を伝える例文(退職の申し出・再申請・口頭の返し)

申請は、日付と内容が残る形で出すのが基本です。会社の申請書や勤怠システムがあればそれを使い、受け付けてもらえないときにメールで出します。

退職の申し出に添えるメールの例:「〇〇部長 お疲れさまです。〇月〇日付で退職いたしたく、退職届を別途提出いたします。あわせて、残っている年次有給休暇〇日を、〇月〇日から〇月〇日までの所定労働日に取得したく申請します。最終出社日は〇月〇日の予定です。それまでに担当業務の引き継ぎ資料を作成し、〇〇さんにお渡しします。」

断られた後に出し直すメールの例:「先日ご相談した年次有給休暇の取得について、改めて書面で申請いたします。取得期間は〇月〇日から〇月〇日まで(〇日間)です。時季の変更が必要な場合は、退職日である〇月〇日までの範囲で、具体的な日をご指示いただけますでしょうか。」

口頭で強く言われたときの返し方の例:「ご事情は承知しました。申請の内容はメールでお送りしていますので、そちらでご回答をお願いできますか。」

2通目の要点は、「退職日までの範囲で」と書き添えることです。会社にできるのは時季変更だけで、その変更先は退職日までしかない、という前提を相手と共有できます。送ったメールと返信は、退職後も読めるように個人の端末に控えを残しておきます(会社の機密情報は含めないようにします)。

認めてもらえないときの相談先と、退職代行という選択肢

メールで申請しても認めてもらえない、最後の給与で欠勤扱いにされた、という場合は外部に相談します。有給や賃金の扱いは労働基準法の問題なので、労働基準監督署が担当です。相談の進め方は労働基準監督署に相談する方法、窓口の番号と受付時間はパワハラの相談窓口一覧で確かめられます。持っていくものは、申請メールと返信の控え、残日数が分かる画面の写真、雇用契約書、給与明細です。

上司と顔を合わせて有給の話をすること自体がつらい場合は、退職の意思と有給の取得の申し出を、第三者に会社へ伝えてもらう方法もあります。ここで気をつけたいのは、有給の取得を会社とやり取りするのは「交渉」に当たるという点です。交渉ができるのは弁護士が運営する退職代行か、労働組合が運営する退職代行(組合員のために団体交渉をする形)で、民間企業の退職代行は本人の意思を伝えるところまでです。違いは退職代行で有給消化はできる?交渉が必要なときの運営形態と退職代行の弁護士・労働組合・民間企業の違いで詳しく扱っています。

有給を使い終えた最終出社日までに、引き継ぎと貸与品の返却をどう済ませるかも決めておくと、退職日までの数週間を会社と関わらずに過ごしやすくなります。引き継ぎの最小限の型は退職の引き継ぎをしないとどうなる?最低限残すものと伝え方で扱っています。

よくある質問

Q. 退職日を過ぎてから、残った有給を使ったことにできますか?

できません。香川県労働委員会の相談事例は、退職日の後は雇用契約が終わって年休の権利もなくなるため、請求できないと説明しています。使い切りたいなら、退職日より前の労働日に割り当てて請求する必要があります。退職日を伝える前に残日数を確かめておくと、取りこぼしを防げます。

Q. 有給を使い切る代わりに、会社に買い取ってもらうことはできますか?

買い取りは会社の義務ではありません。同じ相談事例は、就業規則などに買い取りの定めがある場合を除き、会社は買い取りを拒めるとしています。同じ事例は、買い取りに合意したとしても、ほかの従業員の有給の取得に悪影響を与えるおそれがあり、好ましい方法とは言えないとしています。会社から持ちかけられたときは、断ってよく、応じる場合も、買い取る日数・金額・支払日・退職日をメールなど文字で残してからにします。

Q. 退職届に有給消化のことを書いてもいいですか?

書いてかまいません。退職届そのものは「退職日」が伝われば足りますが、添え状やメールで「最終出社日」と「有給休暇を取得する期間」を分けて書いておくと、会社側も勤怠の処理がしやすくなります。退職届の本文に理由を詳しく書く必要はありません。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

会社が退職させてくれないとき:退職の意思を書面で届ける手順

退職の引き継ぎをしないとどうなる?最低限残すものと伝え方

退職代行で有給消化はできる?交渉が必要なときの運営形態

有給を取らせてくれないのはパワハラ?時季変更権と相談先