退職代行は違法?非弁行為が問題になる場面と利用者が確かめること
退職代行を使うと違法になるのか、という疑問への答えは、弁護士法第72条の禁止の対象が「報酬目的で、業として法律事務を扱う側」であって、条文上、依頼した利用者を罰する形にはなっていない、です。問題になるのは主に事業者の側で、会社と有給・退職日・未払い賃金などの条件をやり取りする場合です。ただし、利用者に関係がない話ではなく、事業者が違反を疑われると、手続きが止まって困るのは依頼者です。
罰則の対象はだれか:弁護士法72条と77条の仕組み
弁護士法第72条は、弁護士または弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で、訴訟事件その他一般の法律事件に関して鑑定・代理・仲裁・和解その他の法律事務を取り扱い、またはこれらの周旋をすることを業とすることを禁じています。「他の法律に別段の定めがある場合」は除かれます。
罰則は第77条にあり、72条に違反した者は、2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金と定められています(刑の名称は、2025年6月1日施行の改正刑法で「懲役」「禁錮」が「拘禁刑」に改められたものです)。条文の構造は次のとおりです。
| 条文 | 内容 | 向けられている相手 |
|---|---|---|
| 第72条 | 報酬目的で、業として、法律事務を取り扱う・周旋することの禁止 | 弁護士でない事業者 |
| 第74条 | 弁護士・法律事務所の標示や、利益目的で法律事務を取り扱う旨の標示の禁止 | 弁護士でない事業者 |
| 第27条 | 弁護士が、72条〜74条に違反する者から事件の周旋を受けることの禁止 | 弁護士 |
| 第77条・第77条の2 | 上記の違反に対する罰則 | 違反した者 |
このように、条文が処罰の対象にしているのは事業者や弁護士の側です。ただし、「利用者には何のリスクもない」とまでは言えません。事業者が弁護士法に反する対応をしていた場合、依頼者には次のような実害が出るおそれがあります。
- 会社が業者との連絡を拒み、手続きが滞る
- 交渉の専門性がない業者の対応で、有給や未払い賃金などで不利な合意をしてしまう
- 事業者が営業を止め、手続きが途中で宙に浮く
非弁行為が問題になる場面
東京弁護士会の非弁護士取締委員会は、退職代行について、次のような場面を非弁行為の問題として取り上げています。
| 場面 | 問題になりうる理由 |
|---|---|
| 業者が報酬を受けて、残業代の支払いを会社と話し合う | 残業代の有無や金額は法律問題で、本人に代わる交渉は法律事務に当たるおそれ |
| 有給休暇の取得や退職金について、業者が会社と調整する | 同上 |
| 業者が代金を受け取ったうえで、パワハラの慰謝料交渉を提携先の組合へ引き継ぐ | 報酬を受けて法律問題の処理を他者に取り次ぐことが「周旋」に当たるおそれ |
| 組合名義だが実態がなく、非弁行為を避けるための名目になっている | 実態のない団体は、団体交渉の権限を主張しにくい |
これらは同委員会のウェブサイトにある事例と解説の要点で、個別の事業者が該当するかの回答はしていない、とも明記されています。同委員会はまた、退職代行業者の代表が逮捕されたという報道にも触れ、最近は業者からの連絡を非弁行為ではないかと疑って、会社が受け付けないことがあるとしています。個別の事件の経過や処分は、報道ではなく警察・検察・裁判所の発表で確かめてください。
労働組合型・弁護士型・民間型で、違法性の考え方はどう違うか
3つの運営形態での整理は、次のとおりです。
- 弁護士(法人):弁護士法第72条の制限の外側にあり、会社との交渉も依頼できる。ただし契約書の範囲が基準になる。
- 労働組合:労働組合法第6条により、組合員のために使用者と交渉する権限がある。ただし、労働組合法第2条の要件を満たす実態が必要。
- 民間企業:本人の意思を伝える範囲を超えて会社と交渉すると、弁護士法第72条の「代理・和解その他の法律事務」に当たるおそれがある。
どれか一つの形態が一律に問題、という結論ではなく、実際に何をしているかが問われます。詳しい比較は退職代行の弁護士・労働組合・民間企業の違い:交渉できる範囲を比較にあります。組合型の確かめ方は労働組合の退職代行とは:団体交渉の権限と確かめたい組合の実態、民間型の使者の範囲は民間企業の退職代行でできること・できないこと:使者の範囲で扱っています。
利用者が申込み前に確かめること
利用者が自分で確かめられる範囲に絞ると、次の6点です。
- 運営者の名称:法律事務所・弁護士法人か、組合か、株式会社か。弁護士法第74条により、弁護士でない者は弁護士・法律事務所の標示ができない
- 弁護士の氏名と所属弁護士会:弁護士会の会員検索などで登録を確かめる
- 組合の規約・代表者・所在地:実態の見える情報が公開されているか
- 契約書に書かれた依頼内容:「交渉」「請求」が書かれているのに、依頼先が弁護士でも組合でもないなら、理由を質問する
- 提携先がある場合の流れ:依頼を引き継ぐ相手と、費用の流れ。弁護士法第27条は弁護士が非弁護士から事件の周旋を受けることを禁じている
- 会社に連絡を拒まれたとき:返金や、別の窓口に切り替える方法があるか
この6点を書面で確かめたうえで、それでも不安が残るなら、弁護士会の法律相談で事前に聞くのも手です。無料相談の入口はパワハラを弁護士に無料相談するには:弁護士会・自治体の法律相談にあります。
事業者側の問題で退職が止まる場面は退職代行の詐欺・トラブルを避ける:申込み前に確かめる運営者情報も参考になります。また、退職代行全体の仕組みは退職代行とは?弁護士・労働組合・民間の違いと使う前の確認点に戻って確認できます。弁護士法の範囲で交渉まで任せたいなら、次の確認点を使えます。
よくある質問
Q. 退職代行を頼んだ人が、逮捕されることはありますか?
弁護士法第77条が罰則の対象にしているのは、第72条に違反した者、つまり業として法律事務を扱った事業者側です。依頼した側を処罰する規定は、同条の文言にはありません。個別の事案は警察や検察が判断するため、この記事で一般的に断定はできません。
Q. 労働組合の退職代行も、非弁行為になりますか?
労働組合法第6条は組合員のための交渉権限を認めており、組合が団体交渉をすること自体は、弁護士法第72条の「他の法律に別段の定めがある場合」として説明されます。ただし、東京弁護士会は、実態のない組合を名目に使う例を指摘し、組合が交渉する場合でも非弁行為にならない場合ばかりとは限らない、とも述べています。規約・所在・代表者を確かめてください。
Q. 弁護士以外の退職代行を使うと、退職の手続きが無効になりますか?
退職の効力は、民法第627条1項にもとづき、会社に退職の意思が届いてから2週間で生じます。誰が伝えたかで効力が左右されるわけではありません。ただし、業者が交渉の範囲に踏み込んで会社が連絡を拒むと、手続きが進まなくなるおそれがあります。
出典・参考にした公的な情報
- 弁護士法 第27条・第72条・第74条・第77条・第77条の2(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 労働組合法 第2条・第6条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 退職代行サービスと弁護士法違反 その2(非弁護士取締委員会)(東京弁護士会)
- 退職代行サービスと弁護士法違反(非弁護士取締委員会)(東京弁護士会)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。