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パワハラでうつ・適応障害になったとき:慰謝料と労災の関係

この記事のもくじ
  1. パワハラでうつになったときの慰謝料と労災:2つの制度の違い
  2. 同じ損害は二重に受け取れない:調整の考え方
  3. 労災の結果と裁判の結果が分かれることもある
  4. 診断書と通院記録の役割:2つの手続きでの使われ方
  5. 慰謝料と労災、それぞれの相談先

パワハラでうつ病や適応障害になったとき、お金の手続きは国の労災保険の給付と、会社や加害者への慰謝料などの損害賠償の2つで、別の制度です。労災保険の給付の中に慰謝料に当たるものはなく、同じ損害を二重に受け取らないための調整の仕組みがあります。

いまつらさが強く手続きを考える余裕がないときは、まず仕事がつらい・限界のときの相談先で、話を聞いてもらえる窓口を選んでください。

パワハラでうつになったときの慰謝料と労災:2つの制度の違い

比較表:労災保険の給付と損害賠償(慰謝料など)
労災保険の給付 損害賠償(慰謝料など)
誰が払うか 国の労災保険 会社・加害者
何を見るか 業務による強い心理的負荷で発病したか(認定基準) 会社・加害者に責任があるか、損害はいくらか
どこで決まるか 労働基準監督署長の決定 話し合い、労働局の手続き、裁判所
慰謝料 給付の種類にない 請求の中心になりうる
主な時効 療養・休業の給付は2年(休業は日ごと) 不法行為は知った時から3年(生命・身体を害した場合は5年)

労災保険の業務災害の給付は、療養補償給付・休業補償給付・障害補償給付・遺族補償給付・葬祭料・傷病補償年金・介護補償給付の7種類です(労災保険法第12条の8)。治療費や休業中の収入の一部は補われますが、精神的な苦痛そのものへの給付はありません。慰謝料を求めるなら、民法第709条・第710条・第715条などを根拠に、会社や加害者へ損害賠償を請求する別の手続きになります。

精神障害の労災認定は、厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の認定基準」に沿って判断されます。発病前おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷があったか、などが要件です。要件と申請の流れはパワハラによる精神障害の労災認定で詳しく扱っています。

同じ損害は二重に受け取れない:調整の考え方

労災の給付と損害賠償は別の制度ですが、同じ損害については、両方から満額を受け取ることにならないよう調整の規定があります。

  • 会社が補償した分(労働基準法第84条第2項)。 使用者が労働基準法による災害補償をした場合、同じ事由については、その額の限度で民法の損害賠償の責任を免れます。
  • 年金の給付と会社の賠償(労災保険法第64条)。 障害補償年金や遺族補償年金などを受ける場合に、会社からの損害賠償との調整のしかたを定めています。
  • 第三者の行為による場合(労災保険法第12条の4)。 事故が第三者の行為で生じたとき、国は給付した額の限度で、受けた人が第三者に持つ損害賠償の請求権を取得します。

ここで押さえておきたいのは、調整の対象は同じ種類の損害だという点です。労災の給付は慰謝料を補うものではないので、労災を受けたことで慰謝料の請求そのものがなくなるわけではありません。どの給付がどの損害項目と調整されるか、加害者個人への請求にどう影響するかは事案ごとに細かく変わります。労災が認められた後の扱いはパワハラ労災が認められた後の慰謝料で、損害の項目ごとの中身は前の記事のパワハラの損害賠償で請求されうる項目で整理しています。

労災の結果と裁判の結果が分かれることもある

労災の判断と損害賠償の判断は、別の機関が別の基準で行います。厚生労働省の「あかるい職場応援団」が紹介する社会福祉法人県民厚生会事件(静岡地裁 平成26年7月9日判決)では、原告の精神疾患は労災として認められていましたが、損害賠償の裁判では、上司の指示や叱責は職務遂行の目的で行われ、内容も職務上不当とはいえないとして、パワハラ行為は認められませんでした。判決は、原告が相当の心理的負荷を受けたことは容易に想定されるとも述べています。

反対に、美研事件(東京地裁 平成20年11月11日判決)では、上司らの罵倒・仲間外れ・退職に追い込むための配置換えが不法行為とされ、うつ状態などを生じさせたとして慰謝料が認められています。

この2件から言えるのは、「労災が認められたから慰謝料も認められる」「労災がだめなら慰謝料もだめ」とは限らない、ということです。どちらの手続きでも、何が、いつ、どれだけ続いたかを記録で示せるかが判断の土台になります。

診断書と通院記録の役割:2つの手続きでの使われ方

うつ病や適応障害の場合、医療の記録は労災でも損害賠償でも中心的な材料になります。

記録 労災での使われ方 損害賠償での使われ方
診断書 傷病名・発病時期の判断の材料 心身の不調が生じたことの裏づけ
請求書の医師の証明 休業補償の請求書に、療養の期間・傷病名・経過の証明が要る(施行規則第13条第2項) —
主治医の意見書・診療録 発病の有無・疾患名の医学的な判断に使われる(認定基準) パワハラと不調のつながりを示す材料
通院・服薬の記録 療養の経過 治療費・通院期間の裏づけ
領収書・診療明細 療養の費用の請求 治療費の請求額の根拠

受診のときは、いつから、職場で何があって、どんな症状が出ているかを医師に具体的に伝えておくと、診療の記録にその経過が残ります。伝え方と診断書の頼み方はパワハラで診断書をもらうには、日々の記録の付け方は通院・服薬・欠勤の残し方にまとめています。

慰謝料と労災、それぞれの相談先

2つの制度は相談先も違います。

  1. 労災の請求:事業場を管轄する労働基準監督署。請求は本人が行い、会社が証明を拒んでも請求はできます。手続きはパワハラの労災申請の流れを見てください。
  2. 慰謝料などの損害賠償:弁護士、法テラス、総合労働相談コーナー(労働局のあっせん・調停の案内)。準備はパワハラを弁護士に相談する前の準備にあります。
  3. 体調と休み方:主治医と、休職中の制度の選び方はパワハラの休職は傷病手当金と労災のどちら?で整理しています。

時効は、労災の療養・休業の給付が2年(労災保険法第42条)、不法行為の損害賠償は損害と加害者を知った時から3年、生命・身体を害した場合は5年(民法第724条・第724条の2)です。心身の不調がどちらに当たるかは個別の判断になるので、早めに日付を整理しておいてください。示談や和解で決まることは、次の記事のパワハラの解決金・示談とは?で扱います。

よくある質問

Q. 労災と慰謝料の請求は、どちらを先にすればいいですか?

法律で順番が決まっているわけではなく、並行して進めることもあります。労災は労働基準監督署が業務による発病かを判断する手続き、慰謝料は会社や加害者の責任を問う手続きで、相談先も違います。時効の期限と、いまの体調でどこまで動けるかを考えて、まず相談先に日付と記録を見せてから決めてください。

Q. 労災が認められなかったら、慰謝料も請求できませんか?

労災の判断と損害賠償の判断は別の手続きで行われるので、労災の結果だけで請求できるかどうかが決まるわけではありません。逆に、労災が認められても損害賠償の裁判でパワハラと認められなかった例もあります。それぞれの手続きで、記録をもとに判断されると考えてください。

Q. 休職中で体調が悪く、手続きを考えるのもつらいです。

まずは休むことと治療が先で、手続きは体調が少し落ち着いてからでもかまいません。ただ、時効は進むので、通院の記録と領収書だけは保管しておき、家族など信頼できる人に日付の整理を手伝ってもらう方法もあります。気持ちがつらいときの相談先は、電話やLINEで話せる窓口をまとめたページから選べます。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

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