家族経営の会社のパワハラ:社長の家族が加害者のときの相談先
家族経営の会社で社長の家族からパワハラを受けている場合、社内の相談先は、相談した内容が加害者の身内に伝わりやすく、働きにくいことが多いものです。そのため相談先は、会社の外の公的な窓口(総合労働相談コーナー、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室))を軸に考えます。パワハラ防止の措置は会社の規模を問わず事業主の義務で、厚生労働省の指針は、役員である家族の言動も、従業員である家族の言動も防止の対象に含めています。この記事では、社内の相談が働きにくい構造、外部窓口の使い方、辞める選択肢を順に整理します。
家族経営で社内の相談が働きにくい理由
パワーハラスメント(パワハラ)の相談を受けて事実を確かめ、行為者に措置をとるのは会社の役目です(労働施策総合推進法第31条)。ところが家族経営では、その役目を担う人と加害者が親子や夫婦であることが多く、次のようなことが起きやすくなります。
| 加害者 | 社内で起きやすいこと | 社外の選択肢 |
|---|---|---|
| 社長本人 | 措置を決める人が行為者。相談先そのものがない | 総合労働相談コーナー、労働局の援助・調停 |
| 社長の配偶者(経理・総務などを担当) | 人事や給与を握っていて、相談の内容が筒抜けになる | 同上。給与の扱いに関わるなら労働基準監督署も |
| 社長の子(後継者・部門の上司) | 「いずれ社長になる人」として周りが逆らえない | 同上。法的な手段は弁護士・法テラス |
| 社長の親族の同僚 | 社長に相談しても身内をかばわれる | 同上。どの手続きになるかは、総合労働相談コーナーで状況を話して振り分けてもらう |
小さな会社では、社内に相談窓口が置かれていないこともあります。窓口がない状態そのものの考え方はハラスメント相談窓口がない会社は義務違反?で扱っています。社長本人が加害者の場合の動き方は社長からのパワハラ対処法にまとめているので、ここでは社長の家族が加害者の場合を中心に見ていきます。
加害者が役員か従業員かで変わること
社長の家族といっても、取締役などの役員として経営に加わっている人と、従業員として雇われている人がいます。指針は、会社が防止の措置を講じる対象に、雇用する労働者の言動と、事業主(法人なら役員)自身の言動の両方を含めています。どちらの立場でも、パワハラの防止の対象から外れるわけではありません。
違いが出るのは「優越的な関係」の見え方です。指針は、職務上の地位が上の人による言動だけでなく、業務に必要な知識や経験を持っていて協力を得なければ仕事が回らない同僚の言動なども、優越的な関係の例に挙げています。社長の家族である同僚に逆らえない事情、たとえば「その人の一言で給与や配置が決まる」「社長に告げ口されて叱責された」といった事実があれば、具体的に記録しておきます。立場が同じ同僚からのパワハラの考え方は、同僚からのパワハラへの対処で詳しく説明しています。
記録は、日時・場所・言われた言葉・同席者に加え、その家族が社内でどんな権限を持っているか(給与の計算、シフトの決定、採用への関与など)も書いておくと、相談先に関係性が伝わります。
外部の相談先と、名前が知られる心配への備え
社外で最初に使いやすいのは、厚生労働省の総合労働相談コーナーと、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)です。どちらも無料で、厚生労働省は匿名でも相談できると案内しています。会社の外の窓口として、ほかに次の選択肢があります。
- 労働組合(ユニオン):社内に組合がなくても、個人で入れる組合に相談できる。仕組みはパワハラを労働組合に相談する
- 法テラス:パワハラなどの労働トラブルについて、使える窓口や法的な手続きを案内している。収入などの要件を満たせば無料の法律相談も
- 弁護士:損害賠償など法的な手段を考えるとき
少人数の会社で気になるのは、相談したことが社長一家に知られないかという点です。窓口への相談は匿名でもでき、プライバシーは守られると案内されています。一方、労働局長の援助(第36条)や調停(第37条)に進むと、会社にも話を聞くことになり、少人数の職場では誰の申し出かが推測されやすくなります。援助や調停を求めたことを理由とする不利益な取扱いは禁じられていますが、心配な人は次の順で備えると安心です。
- 相談の前に、記録・給与明細・労働条件通知書の控えを自宅に置く
- 窓口で「会社に知られずにできること」と「知られる段階」を確かめる
- 在職中に進めるか、退職してから進めるかを決めてから、援助や調停を申し出る
窓口の番号と受付時間はパワハラの相談窓口一覧で確かめてください。
辞める選択をとるときの準備
家族経営の会社では、加害者と離れられる部署がなく、職場に残ったまま状況が変わることを期待しにくい場合があります。辞める選択を考えるときは、期間の定めのない雇用なら退職の申入れから2週間で雇用が終わること(民法第627条第1項)、退職の意思は届いた日が残る方法で伝えることを押さえておきます。辞める前に済ませておくことはパワハラで退職するか迷うときに一覧があります。
社長一家と顔を合わせて退職を切り出すのが怖い、強い引き止めが予想されるという場合は、第三者に退職の意思を伝えてもらう方法もあります。
退職代行を使うなら、選択肢の一つとして次の点を確かめてください。運営が弁護士(法人)か労働組合か。有給休暇の消化や未払いの賃金について会社と交渉が要るなら、交渉できる運営形態か。料金に含まれるものと追加費用、返金の条件。無料なのは相談までで、依頼は有料であること。違いの整理は退職代行の弁護士・労働組合・民間企業の違いにあります。どの方法で辞めるにしても、記録と資料の控えは手元に残しておくと、退職後に相談するときに使えます。
よくある質問
Q. 社長の家族が「ただの従業員」の場合も、パワハラの相談はできますか?
できます。パワハラ指針の「優越的な関係」は職務上の地位だけでなく、抵抗や拒絶が難しい関係も含めて例を挙げています。社長の家族であることで逆らいにくい事情があるなら、その事情を具体的に伝えてください。当たるかの判断は相談先が事実を聞いて行います。
Q. 社員が少ない会社で、社長一家に誰が相談したのかが伝わりそうです。どうすれば?
公的窓口での相談の段階では、会社に連絡が行くとは限りません。会社に働きかけてもらう段階に進むと、少人数の職場では誰の申し出かが推測されやすくなります。その前に記録の控えを確保し、在職中に進めるか退職後に進めるかを考えておきます。
Q. 家族経営の会社でも労働組合に相談できますか?
社内に組合がなくても、会社の外にある、個人で加入できる労働組合(ユニオン)に相談する方法があります。厚生労働省も、会社の窓口のほか労働組合に相談する方法を案内しています。加入の条件や費用は組合ごとに違うので、相談の前に確かめてください。
出典・参考にした公的な情報
- 事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット(パワハラ指針 令和8年10月1日適用時点を収録)(厚生労働省)
- 労働施策総合推進法 第31条・第36条・第37条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 総合労働相談コーナーのご案内(厚生労働省)
- 職場におけるハラスメントの防止のために(厚生労働省)
- 民法 第627条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 労働問題でお困りの方へ(サポートダイヤル)(法テラス)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。