マタハラで退職を迫られたら:応じる前に確かめることと転職の考え方
この記事のもくじ
妊娠を理由に「辞めたらどうか」と言われても、退職勧奨に応じる義務はありません。退職は本人の申し出か合意で成り立つもので、首を縦に振らなければ雇用は続きます。妊娠中と産後1年以内の解雇は、男女雇用機会均等法で原則として無効と定められています。まずはその場で返事をせず、言われたことを書き残し、辞めるかどうかは相談先の話を聞いてから決めても間に合います。
マタハラで退職を勧められても、応じる義務はない
会社が「辞めてほしい」と働きかけることを退職勧奨といいます。厚生労働省の「確かめよう労働条件」のQ&Aも、理不尽な退職勧奨なら拒絶することもできる、という前提で説明しています。退職勧奨は「辞めてほしい」という働きかけにすぎず、同意しなければ退職の合意は成り立ちません。
妊娠・出産に関しては、男女雇用機会均等法(均等法)にさらに具体的な決まりがあります。
| 決まり | 中身 |
|---|---|
| 均等法 第9条1項 | 婚姻・妊娠・出産を退職理由として予定する定め(「妊娠したら退職」という規程など)をしてはならない |
| 均等法 第9条3項 | 妊娠・出産、産前産後休業の請求や取得などを理由とする解雇その他の不利益な取扱いの禁止 |
| 均等法 第9条4項 | 妊娠中の女性と出産後1年を経過しない女性への解雇は無効。ただし、会社が妊娠・出産等を理由とする解雇ではないと証明したときは別 |
| 労働基準法 第19条 | 産前産後休業の期間とその後30日間は解雇してはならない |
| 労働基準法 第65条 | 産前6週間(多胎妊娠は14週間)は請求すれば休める。産後8週間は原則として働かせてはならない |
第9条4項には「ただし書き」があるので、妊娠中なら解雇が一律に無効になる、という意味ではありません。解雇が有効かどうかの判断は、労働局や弁護士に事実を示して見てもらう領域です。
上司や同僚の言動については、均等法第15条とマタハラ指針が会社に防止の措置を義務づけています。指針は、妊娠・出産したことなどを理由に上司が解雇その他の不利益な取扱いを示唆することを典型例に挙げています。「繰り返し」という条件がついていない書き方なので、一度言われただけでも相談の対象になります。言葉の種類ごとの整理はマタハラとは?制度利用への嫌がらせ型・状態への嫌がらせ型を解説にまとめています。
返事をする前に確かめる5つのこと
面談で辞める話を切り出されたら、その日のうちに結論を出す必要はありません。次の順で手元を固めます。
- 誰が・いつ・どこで・何と言ったかを、言葉のまま書き残す。同席者がいれば名前も。
- 退職勧奨なのか解雇なのかをはっきりさせる。解雇を予告されたなら、労働基準法第22条2項にもとづいて、退職の日までに解雇理由の証明書を請求できる。
- 退職届・合意書・「自己都合」と書かれた書類にその場で署名しない。「持ち帰って考えます」で面談を終えてよい。
- 体調と使える制度を確かめる。妊婦健診の時間の確保(均等法第17条)、医師の指導にもとづく勤務の軽減(第18条)、軽易な業務への転換の請求(労働基準法第65条3項)は、辞める前に使える選択肢。
- 会社の相談窓口の有無を就業規則や社内掲示で確かめる。会社には相談体制を整える義務がある(均等法第15条)。
文例(面談の場で):「本日のお話は持ち帰って考えます。現時点で退職する意思はありません。」
文例(面談後に上司へ送るメール):「本日○時からの面談で、妊娠を踏まえて退職を検討してはどうかとのお話がありました。退職する意思はないことをお伝えしたとおり、引き続き勤務を希望します。業務の調整についてはご相談させてください。」
メールで送っておくと、面談の日付と、退職を断った事実が残ります。断り方の言い回しをもっと知りたいときは退職勧奨の断り方:面談での言い方と断った事実をメールで残す例文、記録の取り方はパワハラで退職を強要されているとき:辞める前に残すべき記録が詳しいです。つわりや通院への嫌味が続いている場合は妊娠中のマタハラ:つわり・通院への嫌味と使える制度の確かめ方を先に読むと、休み方の選択肢を整理できます。
| 言われた内容 | 関係する決まり | まず残すもの |
|---|---|---|
| 「妊娠したなら辞めてほしい」 | 均等法9条3項・15条(不利益な取扱いの示唆に当たりうる) | 日時と言葉のメモ、面談後のメール |
| 「辞めないなら解雇する」 | 均等法9条4項、労基法19条・22条 | 解雇理由の証明書の請求 |
| 「産休を取るなら戻る席はない」 | 均等法9条3項・15条 | 言葉のメモ、就業規則の休業の規定 |
| 「退職届を書いて」 | 退職は合意か本人の申し出が必要 | 署名していない書類の写し |
相談先:労働局の雇用環境・均等部(室)でできること
社内で話が進まない、相談すること自体がこわいというときは、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)がマタハラの専門の窓口です。厚生労働省は、相談は無料で匿名でもでき、プライバシーは守られると案内しています。
雇用環境・均等部(室)でできることは主に3つです。
- 相談:起きていることが均等法の決まりに関わるかどうかの説明と、会社への働きかけの案内。
- 労働局長の援助(均等法第23条):会社と労働者の間の紛争について、助言・指導・勧告を行う。
- 調停(均等法第24条):紛争調整委員会が双方の話を聞き、解決案を示す。受け入れるかどうかは双方の自由。
援助や調停を求めたことを理由に解雇などの不利益な取扱いをすることも、法律で禁じられています。窓口の受付時間と探し方はパワハラの相談窓口一覧:電話番号・受付時間・できることの早見表に一本化しています。会社への請求や交渉まで考えるときは、個別の見通しを出せるのは弁護士です。
辞める道を選ぶなら:離職理由とお金を先に確かめる
職場に残るより離れたいと考えるのも、自然な選択の一つです。その場合、書類にサインする前に次の点を確かめておくと、後で困りにくくなります。
離職理由の扱い:ハローワークの「特定受給資格者の範囲」には、会社から直接・間接に退職勧奨を受けて辞めた人(恒常的な早期退職優遇制度への応募は除く)や、妊娠・出産等に関する言動で職場環境が悪くなっていることを会社が知りながら措置を講じなかったために辞めた人が含まれています。特定受給資格者になると、給付制限がなく、受給資格に必要な加入期間も短くなります。離職票の「離職理由」欄が「一身上の都合」になっていたら、ハローワークで異議を申し立てられます。詳しくはパワハラで退職したときの失業保険:特定受給資格者になる場合と確かめ方へ。
受給期間の延長:出産や育児で30日以上続けて働けない期間は、基本手当の受給期間に加算できます(最長で3年、本来の1年と合わせて4年まで)。出産が近い時期に辞める人は、まず延長の手続きを確かめます。
退職の条件:退職日、有給休暇の残り、会社が示す解決金の有無などは、応じる前に書面で示してもらうのが基本です。項目の一覧は退職勧奨の条件は何を確かめる?離職理由・解決金・有給・時期の10項目にあります。
次の職場の探し方:両立できるかを入る前に確かめる
マタハラのあとで仕事を探す人がいちばん避けたいのは、同じことの繰り返しです。求人票や面接で、次の点を具体的に確かめられます。
- 育児休業の取得状況:常時雇用する労働者が300人を超える会社は、育児休業の取得状況を年1回以上公表する義務があります(育児・介護休業法第22条の2)。公表していれば、応募前に会社のサイトなどで数字を見られます。
- 短時間勤務・残業の制限:就業規則でどう定めているか、実際に使っている人がいるか。
- ハラスメントの方針と相談窓口:会社の方針を明文化しているか、窓口が社外にもあるか。
- 面接での聞き方:「子育て中の社員はどのような働き方をしていますか」「時短勤務から通常勤務に戻った例はありますか」など、制度ではなく運用を尋ねる。
在職中に探すか辞めてから探すかは、体調と出産予定日しだいです。ハローワークの職業相談は無料で使えます。子育てと両立しやすい職場の見極め方はマタハラ後の転職:子育てと両立しやすい職場を見極める確認点でさらに細かく扱っています。
民間の転職支援サービスを使う場合は、登録や面談に費用がかかるか、紹介される求人がどの地域・職種に偏っているかをサービスごとに確かめます。在宅勤務や時短の求人をどのくらい扱っているか、出産前後の時期でも面談の日程を合わせてもらえるかを、最初の面談で尋ねておくと選びやすくなります。退職を勧められた経緯をどこまで話すかは自分で決めてよく、話す場合は「両立できる環境を探している」という前向きな言い方に置き換えられます。
よくある質問
Q. 妊娠中に退職した場合、失業保険はどうなりますか?
基本手当は「すぐ働ける状態」であることが前提なので、出産や育児で30日以上続けて働けない間は、受給期間の延長を申し出る形になります。延長できるのは最長3年で、本来の受給期間1年と合わせて最大4年です。手続きの時期と必要書類は住所地のハローワークで確かめてください。
Q. もう退職届を出してしまいました。今から相談しても遅いですか?
厚生労働省のQ&Aは、退職勧奨への同意が会社の決定権限のある人に届く前なら撤回できる可能性や、だまされたり脅されたりした場合に取り消せる可能性を挙げています。どちらに当たるかは個別の事情しだいなので、出した日付と経緯をメモにして、早めに労働局の雇用環境・均等部(室)か弁護士に相談してください。
Q. 「体調を考えて休んだら」と言われたのも退職の勧めですか?
業務分担や安全への配慮から、客観的に必要な範囲で働き方を相談する言動は、マタハラ指針でもハラスメントに当たらないとされています。一方で、休むことと退職を結びつけたり、辞めないと不利になると示したりする言い方は別です。言われた言葉をそのまま書き留めておくと、相談先で判断してもらいやすくなります。
出典・参考にした公的な情報
- 男女雇用機会均等法 第9条・第15条・第23条・第24条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 労働基準法 第19条・第22条・第65条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 妊娠・出産等に関するハラスメントの指針(平成28年厚生労働省告示第312号)令和8年10月1日適用(厚生労働省)
- 確かめよう労働条件 Q&A「退職勧奨後、離職票に自己都合退職と記載されました。対処法は?」(厚生労働省)
- 特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲(ハローワークインターネットサービス)(厚生労働省)
- 基本手当について(受給期間と延長)(厚生労働省)
- 職場におけるハラスメントの防止のために(厚生労働省)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。