パワハラで退職したときの失業保険:特定受給資格者になる場合と確かめ方
この記事のもくじ
パワハラが理由で辞めた場合、特定受給資格者に当たるかどうかを決めるのは、ハローワークです。ハローワークが示す特定受給資格者の範囲には、上司や同僚からの「故意の排斥」「著しい冷遇」「嫌がらせ」を受けて離職した人が入っています。当たると、自己都合の離職者にかかる給付制限がなくなり、所定給付日数が長くなる場合があります。この記事では、該当する項目の原文、一般の離職者との違い、判断に使われる材料の集め方を示します。
特定受給資格者になると、何が変わるのか
失業保険(雇用保険の基本手当)は、離職の理由によって扱いが分かれます。パワハラなどで辞めた人が特定受給資格者と認められると、自己都合で辞めた一般の離職者とは次の点が変わります。
| 項目 | 自己都合の一般の離職者 | 特定受給資格者 |
|---|---|---|
| 受給資格の被保険者期間 | 離職の日以前2年間に通算12か月以上 | 離職の日以前1年間に通算6か月以上 |
| 給付制限 | 正当な理由のない自己都合は、待期満了後に原則1か月(令和7年4月1日以降の離職)。5年間に2回以上は3か月 | 給付制限はかからない |
| 所定給付日数の例(35歳以上45歳未満) | 10年未満は90日、10年以上20年未満は120日、20年以上は150日 | 1年以上5年未満は150日、5年以上10年未満は180日、10年以上20年未満は240日 |
| 国民健康保険料 | 通常の算定 | 前年の給与所得を100分の30として算定する軽減がある(市区町村への申告が必要) |
給付制限の1か月は、令和7年4月1日以降に離職した人に適用される原則です。ハローワークの別のページには、古い期間の記載が残っていることがあるので、厚生労働省の見直しの説明で日付を確かめてください。所定給付日数は、年齢と被保険者であった期間で決まります。上の例は一部を抜き出したもので、全体はハローワークの表で確かめます。
特定受給資格者と特定理由離職者は別のものです。心身の不調が理由で辞めた場合は、特定理由離職者に当たることがあります(後述します)。
該当項目の原文:パワハラで辞めた人が確かめる3つ
特定受給資格者の範囲は、ハローワークのページに「倒産」等と「解雇」等に分けて載っています。パワハラで辞めた人が確かめるのは、「解雇」等の次の項目です。
| 項目 | ハローワークの記載の要旨 | 当てはまる場面の例 |
|---|---|---|
| (10) 嫌がらせ等 | 上司、同僚等からの故意の排斥または著しい冷遇もしくは嫌がらせを受けたことによって離職した者。事業主が職場のセクハラの事実を把握していながら必要な措置を講じなかったことにより離職した者、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関する言動で就業環境が害されている事実を把握していながら必要な措置を講じなかったことにより離職した者を含む | 無視、暴言、仕事を与えない、孤立させる行為が続いて辞めた |
| (11) 退職勧奨 | 事業主から直接もしくは間接に退職するよう勧奨を受けたことにより離職した者。従来から恒常的にある早期退職優遇制度への応募は該当しない | 上司や人事から繰り返し退職を迫られて辞めた |
| (5) 長時間労働 | 離職の直前6か月間のうちに、いずれか連続する3か月で45時間、いずれか1か月で100時間、またはいずれか連続する2か月以上の平均で1か月80時間を超える時間外労働が行われたため離職した者 | 長時間の残業が続いて辞めた |
(10)の「嫌がらせ」と、パワハラの定義(職場におけるパワーハラスメントの3要素)は、同じ範囲を指すとは限りません。ハローワークが事実から判断するのは「嫌がらせを受けたことによって離職した」かどうかで、パワハラかどうかの結論を出す場ではありません。ほかの項目も、パワハラと重なる場面があります。
- (2) 労働条件が契約時の明示と著しく相違した:入社時の説明と実際の仕事・待遇が違っていた場合
- (3) 賃金の3分の1を超える額が支払期日までに支払われなかった
- (4) 賃金が85%未満に低下した(低下を予見できなかった場合に限る)
- (12) 使用者の責めに帰すべき休業が3か月以上続いた
退職勧奨の(11)は、会社都合になるかを分けて整理した記事があります。退職勧奨で辞めたら会社都合になる?離職票と失業保険の確かめ方を読んでください。
ハローワークでの判断に必要な材料を集める
離職理由の判定には、事実を示す材料が使われます。何を出せば足りるかの一覧は、ハローワークの範囲のページには示されていないため、窓口で確かめます。準備しておくと話が進みやすい材料は次のとおりです。
- 離職票-2の離職理由の欄。 会社がハローワークに出した離職証明書の内容です。離職前に本人が氏名を書くので、そのときに理由欄を見ます。事実と違えば、その場で会社に伝えます。
- パワハラや退職勧奨の記録。 日時、場所、相手、言われたこと・されたことを時系列で書いたメモ。メールやチャットの画面、録音、日記などの元データがあれば添えます。残し方はパワハラの記録の書き方:日時・言葉・場所・目撃者を残す記入例つきにあります。
- 相談した記録。 社内の窓口、労働局、弁護士などに相談した日と内容。相談の事実が、時期の裏づけになります。
- 診断書や通院の記録。 心身の不調が離職の理由に関わっているとき。
- 勤怠記録や給与明細。 長時間労働の項目(5)を確かめるとき。
- 退職勧奨の面談メモやメール。 日付と、言われた内容を残したもの。
ハローワークの窓口で話すときの例:「上司から〇か月間、毎日〇〇と言われ続けて、〇月に退職しました。日時を書いたメモと、〇月〇日のメールの画面を持ってきました。離職票の理由欄は『自己都合』になっていますが、嫌がらせを受けたことが理由なので、確認をお願いしたいです。」
離職理由に納得できないときは、ハローワークに相談するのが手続きとして示されています。ハローワークが事実関係を調べ、判定をやり直す流れです。申立ての具体的な流れはパワハラ退職を会社都合にするには:離職理由の異議とハローワークでの申し出で扱います。
心身の不調で辞めたときは「特定理由離職者」も確かめる
パワハラの影響で心身を壊して辞めた人は、(10)に当たるかの確認とあわせて、特定理由離職者の範囲を見ておきます。ハローワークのページには、「体力の不足、心身の障害、疾病、負傷、視力の減退、聴力の減退、触覚の減退等により離職した者」が、正当な理由のある自己都合として入っています。
特定理由離職者は、受給資格の被保険者期間が離職前1年間に通算6か月以上で足り、給付制限もかかりません。ただし、所定給付日数が特定受給資格者と同じになるのは、期間の定めのある契約が更新されなかった人(離職日が2009年3月31日から2027年3月31日まで)が中心です。心身の不調が理由の場合は、一般の離職者と同じ日数になる可能性が高いので、混同しないでください。
また、失業保険は、就職する意思と能力があるのに職業に就けない状態の人が対象です。病気やけがですぐ働けないときは、基本手当を受けられないので、受給期間の延長を先に考えます。延長できる期間と、合わせた上限はすぐ働けないときの失業保険:受給期間延長の手続きと期限で整理しています。診断書の使い道はパワハラ退職に診断書は必要?体調不良で辞めるときの使い道を読んでください。
手続きの持ち物と、次の仕事を探すとき
ハローワークで求職の申込みをするときは、住居地を管轄するハローワークに次を持って行きます(受付は平日8時30分から17時15分です)。
- 雇用保険被保険者離職票(-1・-2)
- 個人番号確認書類(マイナンバーカードなど)
- 身元確認書類(運転免許証など)
- 写真2枚(縦3.0cm×横2.4cm。マイナンバーカードの提示で省略できる場合あり)
- 本人名義の預金通帳またはキャッシュカード
流れの全体は失業保険の手続きの流れ:ハローワークでの求職申込みから受給までにまとめています。会社から書類が届くまでの全体の段取りは退職手続きのチェックリスト:会社から受け取る書類と役所の手続きです。
失業保険を受けながら次の仕事を探すとき、ハローワークの紹介に加えて、民間の転職支援を使う選択肢もあります。
次に読むのは、離職理由に納得できないときのパワハラ退職を会社都合にするには:離職理由の異議とハローワークでの申し出です。
よくある質問
Q. パワハラで辞めたと書けば、自動的に会社都合になりますか?
自動的には決まりません。離職理由は、会社が出す離職証明書の記載と本人の申し立てをもとに、ハローワークが事実を確認して判定します。本人が離職票の理由欄に納得できない場合は、ハローワークに相談すると事実関係を調べて判定し直すと案内されています。
Q. 特定受給資格者になると、いくらもらえますか?
金額は、離職前6か月の賃金や年齢で決まる日額と、所定給付日数の掛け算で決まり、パワハラが理由かどうかでは変わりません。変わるのは、給付が始まるまでの制限の有無と、もらえる日数です。日額の上限は令和8年8月1日現在、30歳未満7,450円、30歳以上45歳未満8,270円、45歳以上60歳未満9,110円、60歳以上65歳未満7,830円です。
Q. 診断書がないと、特定受給資格者として認めてもらえませんか?
診断書は必須の書類とは案内されていません。ただ、心身の不調で辞めた場合に、病気で辞めたことを示す資料として医師の診断書が求められることがあります。何が必要かはハローワークの窓口で確かめます。
出典・参考にした公的な情報
- 特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要(ハローワークインターネットサービス(厚生労働省))
- 基本手当の所定給付日数(ハローワークインターネットサービス(厚生労働省))
- 基本手当について(受給要件・受給期間・日額)(ハローワークインターネットサービス(厚生労働省))
- 雇用保険の具体的な手続き(離職理由に納得できない場合を含む)(ハローワークインターネットサービス(厚生労働省))
- 自己都合退職の給付制限の見直し(令和7年4月1日以降の離職)(厚生労働省)
- 雇用保険法 第13条・第22条・第23条・第33条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 非自発的失業者の国民健康保険料の軽減(前年の給与所得を100分の30として算定)(新宿区)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。