入社前と違う労働条件だったとき:明示された条件の確かめ方と相談先
聞いていた話と違うとき、最初にするのは、何と何を比べるかを決めることです。比べる相手は、会社が契約のときに示した書面(労働条件通知書や雇用契約書)です。労働基準法15条は、会社が契約のときに賃金や労働時間などを明示することを義務づけ、明示された条件が事実と違えば、労働者は即時に契約を解除できると定めています。この記事では、書面の見方、違いの見つけ方、動く前にすること、相談先の順で整理します。
条件の違いだけでなく嫌がらせを受けている場合は、内定者へのパワハラ:入社前の研修や連絡で嫌がらせを受けたときかパートのパワハラ:パート同士・社員からの嫌がらせの相談先から読んでください。
比べる書類と、それぞれの位置づけ
条件の話は、採用の流れの中で、書類が段階的に出てくるのが普通です。どの書類がどの役割かを分けておくと、「求人票と違う」という言葉が、どの論点にあたるのか見えてきます。
| 段階 | 書類 | 位置づけ | 根拠・確かめ先 |
|---|---|---|---|
| 募集・紹介 | 求人票、募集広告 | 業務内容、賃金、労働時間などの労働条件を明示する義務がある。虚偽や誤解を生じさせる表示は禁止。募集情報は正確かつ最新に保つ | 職業安定法5条の3、5条の4 |
| 契約の締結 | 労働条件通知書、雇用契約書 | 契約のときに明示する義務がある書面。実際の条件との相違が、解除の話の中心になる | 労働基準法15条1項、施行規則5条 |
| 入社後 | 就業規則、賃金規程、給与明細 | 実際の運用を確かめる資料。通知書の内容との差を探す | 労働基準法89条など |
求人票は、募集の段階で条件を示す文書で、職業安定法が明示と的確な表示を求めています。契約を結ぶ段階では、求人の内容を変更する場合は、その変更内容を明示することも5条の3に書かれています。ですから、求人票と通知書が違うなら、その差の説明が会社にあったかも見る点です。
明示される事項と、2024年4月の改正
労働基準法施行規則5条は、契約のときに明示する事項を定めています。主なものは、契約期間、有期契約の更新基準(通算契約期間や更新回数の上限があればその内容)、就業場所と従事する業務(その変更の範囲を含む)、始業・終業の時刻や休憩・休日・休暇、賃金の決め方・計算・支払方法・締切り・支払時期・昇給、退職(解雇の事由を含む)などです。このうち書面の交付が必要な事項は、契約期間、更新基準、就業場所と業務、労働時間関係、賃金(昇給を除く)、退職です。労働者が希望すれば、FAXや電子メールなどでも明示できます。
2024年4月の改正で、就業場所と業務の「変更の範囲」の明示、有期契約の更新上限(通算契約期間や更新回数)の明示、無期転換の申込みができることの明示などが加わりました。この「変更の範囲」の明示は、2024年4月1日以降に結ばれた契約からの扱いです。それ以前に入った人に、明示がないこと自体を違反と決めつけることはできません。
違いを見つける5つの確認
通知書と実際を、次の項目ごとに並べて書き出します。
- 賃金:基本給の額、手当の内訳、支払日、昇給の有無。給与明細の項目と比べます
- 労働時間・休日:始業・終業の時刻、残業の有無、休日の数と曜日
- 就業場所・業務:勤務地と、実際に任されている仕事の内容。配属先が通知書と違う場合は特に書き出します
- 契約期間・更新:期間の定めの有無、更新の基準、試用期間
- 退職・解雇:退職の申出のルール、解雇の事由
書き出すときは、通知書の記載、実際の状況、差が分かる証拠(給与明細、シフト表、メール)の3列にします。口頭の説明だけで入社した場合は、いつ誰がどう言ったかを日付とあわせてメモにします。通知書や契約書を受け取っていない場合は、書面を出すよう会社に求めたメールを残します。
動く前にすること
条件が違うと分かったあと、すぐ辞める以外の道もあります。順番に並べると次のとおりです。
- 差を書面で会社に確かめる。例:「労働条件通知書には月給〇〇円とありますが、〇月分の明細では〇〇円でした。差の理由を教えてください。」と、メールで聞きます。返答も保存します
- 窓口に書類を見せて、解除できる程度の相違かを聞く。15条2項で解除できるのは、明示された労働条件が「事実と相違する場合」です。相違の程度や、書面の中身でどう判断されるかは、事案ごとに違うので、書類を持って窓口に確かめます
- 解除や退職の意思は、記録が残る形で伝える。メールか書面にします。解除が認められるか分からない場合は、民法の退職の申入れ(退職は2週間で成立する?民法627条・628条と即日退職の考え方)の使い方も合わせて確かめます
- 住居を変えて入社していた場合:就業のために住居を変更した人が、解除の日から14日以内に帰郷するときは、使用者が必要な旅費を負担すると15条3項に書かれています
次の辞め方を考えるときは、収入の空白も計算に入れます。雇用保険の特定受給資格者の範囲には、「労働契約の締結に際し明示された労働条件が事実と著しく相違したことにより離職した者」が含まれます。当てはまるかどうかは、離職の事情をハローワークが確かめて決めます。詳しくはパワハラで退職したときの失業保険:特定受給資格者になる場合と確かめ方にあります。
相談先と、次の選択肢
- 労働基準監督署:賃金・労働時間など労働基準法に関わる相違を相談できる窓口です。明示義務の違反には、30万円以下の罰金の定めがあります(労働基準法120条)
- 都道府県労働局の総合労働相談コーナー:無料、予約なしで、労働問題全般を面談と電話で受け付けています。労基法違反の疑いがあれば、監督署への取次ぎもあります
- パワハラがあわせて起きているとき:条件の違いと嫌がらせは、別々の窓口の話になることがあります。嫌がらせの側はパワハラの相談窓口一覧:電話番号・受付時間・できることの早見表の窓口を使います
窓口で相談する前に、書き出した表と書類を持っていくと、話が早く進みます。公務員は適用される法令の範囲が民間と異なる場合があるため、公務員の読者は公務員のパワハラ相談先と対処:人事院・人事委員会など民間と違う窓口を先にご覧ください。
条件の相違が重く、同じ会社で働き続けることが難しいと感じた場合は、次の仕事を探しながら窓口に相談する選択肢があります。20代・第二新卒向けの転職支援は、短期間で辞めた事情を前提に面談してくれるかどうか、サービスごとに違います。
次に読むなら、パート・アルバイトで条件が違う場合の嫌がらせ側はパートのパワハラ:パート同士・社員からの嫌がらせの相談先に整理しています。入社前の嫌がらせは内定者へのパワハラ:入社前の研修や連絡で嫌がらせを受けたときです。
よくある質問
Q. 求人票に書かれていた給料と、入社後の給料が違います。すぐ辞められますか?
労働基準法15条2項は、明示された労働条件が事実と相違する場合、労働者は即時に労働契約を解除できると定めています。ただし、比べる相手は主に労働条件通知書や雇用契約書です。求人票との差は、書面の記載や会社の説明との関係で見方が分かれるので、辞める前に労基署か労働局で書類を見せて確かめるのが安全です。
Q. 試用期間中だけ条件が違うと言われました。それも明示されていれば問題ないのでしょうか?
試用期間中の賃金や期間が、契約時に書面で明示されていたかをまず確かめます。書面にない扱いを入社後に告げられたのであれば、書面と実際の差として窓口に伝えられます。通知書の契約期間や賃金の欄に試用期間の記載があるかを見直し、なければ会社にメールで聞いて、返答を残してください。
Q. 引っ越して入社しました。辞めたら引っ越し代はどうなりますか?
労働基準法15条3項は、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合、使用者が必要な旅費を負担しなければならないと定めています。ここで負担される範囲は旅費で、引っ越し費用全体まで含まれるとは書かれていません。使うときは、条文と窓口の案内で範囲を確かめてください。
出典・参考にした公的な情報
- 労働基準法 第15条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 労働基準法施行規則 第5条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます(厚生労働省)
- 職業安定法 第5条の3・第5条の4(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 特定受給資格者の範囲の概要(ハローワークインターネットサービス(厚生労働省))
- 総合労働相談コーナーのご案内(厚生労働省)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。