精神障害の労災の対象疾病とは:うつ病・適応障害などの範囲
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精神障害の労災で「対象疾病」になるのは、国際的な病気の分類であるICD-10の第Ⅴ章「精神及び行動の障害」に入る精神障害で、認知症や頭部外傷などによる障害(F0)と、アルコールや薬物による障害(F1)を除いたものです。業務に関連して発病しうるのは主にF2〜F4で、うつ病(F3)や適応障害・急性ストレス反応などのストレス関連障害(F4)はこの範囲に入ります。一方で、心身症は認定基準の精神障害に含まれません。また、病名が対象に入るだけでは認定されず、業務による強い心理的負荷などほかの要件もあわせて判断されます。この記事では、対象疾病の範囲と、診断名・発病時期がどう扱われるかを整理します。
対象疾病の範囲:ICD-10のF0〜F9をどう扱うか
認定基準の第1は、対象疾病を「ICD-10第Ⅴ章『精神及び行動の障害』に分類される精神障害であって、器質性のもの及び有害物質に起因するものを除く」と定めています。分類ごとの扱いは次のとおりです。
| 分類 | 分類の名前(パンフレットの表記) | 認定基準での扱い |
|---|---|---|
| F0 | 症状性を含む器質性精神障害 | 頭部外傷・脳血管障害などに付随する病気として認められるかを個別に判断 |
| F1 | 精神作用物質使用による精神及び行動の障害 | 化学物質による病気などとして認められるかを個別に判断 |
| F2 | 統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害 | 主な対象(業務に関連して発病しうる) |
| F3 | 気分[感情]障害 | 主な対象。うつ病はここに入る |
| F4 | 神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害 | 主な対象。適応障害や急性ストレス反応はここに入る |
| F5〜F9 | 生理的障害、人格・行動の障害、知的障害、心理的発達の障害など | 対象疾病ではあるが、事案ごとに厚生労働省本省へ協議して判断 |
パンフレットは、業務に関連して発病しうる代表的なものとして「うつ病(F3)や急性ストレス反応(F4)など」を挙げています。適応障害については、認定基準が療養期間の説明の中で、適応障害の一つの型である遷延性抑うつ反応を「F43.21」と書いており、F4のグループに入ることが分かります。
認定基準は、要件を満たす対象疾病に併発した病気についても、付随する病気として認められるかを個別に判断し、認められればまとめて業務上の病気として扱うとしています。
うつ病・適応障害は対象になる:厚労省の事例から
パワーハラスメント(パワハラ)の相談で多い診断名は、うつ病と適応障害です。厚生労働省のパンフレット「精神障害の労災認定」に載っている2つの認定事例では、どちらも最初の判断として病名が対象疾病に当たるかが確かめられています。
| 事例 | 診断名 | パンフレットの判断(病名の部分) |
|---|---|---|
| 上司から連日の叱責や人格を否定する発言を受けた例 | うつ病 | 「うつ病」は、対象疾病に該当する |
| 新規事業のリーダーになり長時間労働が続いた例 | 適応障害 | 「適応障害」は、対象疾病に該当する |
このように、うつ病も適応障害も対象疾病の範囲に入ります。適応障害は「軽い」と言われることがありますが、認定基準に、病名の重さで対象を分ける定めはありません。事例の全体と、出来事の評価までの読み方はパワハラの労災認定事例の読み方で扱います。
一方で、認定基準は「心身症は、本認定基準における精神障害には含まれない」と明記しています。心の負担がきっかけでも、体の病気として診断されている場合は、この認定基準とは別の考え方になります。診断名が体の病気なのか、精神障害なのかは主治医に確かめてください。
病名は診断書の言葉だけで決まらない:判断のしかた
労災の判断では、診断書に書かれた言葉がそのまま採用されるわけではありません。認定基準の第4は、発病の有無と疾患名を「ICD-10 精神及び行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン」に基づき、次の資料から得られた事実で医学的に判断するとしています。
- 主治医の意見書
- 診療録(カルテ)などの関係資料
- 請求した本人や関係者から聴き取った内容
- その他の情報
さらに第6は、治療歴のない自殺事案を除くすべての事案で、主治医から疾患名、発病時期、主治医の考える発病原因とその根拠について意見を求めるとしています。主治医が対象疾病の発病を診断していて、労働基準監督署長が認定した出来事の事実と主治医の診断の前提が合っており、評価が「強」であることが明らかで、仕事以外の原因に目立つものがない場合は、主治医の意見で要件を満たすと判断されます。そうでない事案は専門医の意見、高度な医学的検討が要る事案は専門部会の合議に回ります。
つまり、診断書の病名が「抑うつ状態」「うつ状態」のような状態を表す言葉でも、その表記だけで対象外と決まるわけではありません。反対に、主治医の前提とした事実と、調査で認められた事実がずれていると、主治医の意見だけでは判断されないことになります。受診のときに職場の出来事を正確に伝えておく意味はここにあります。伝え方はパワハラで診断書をもらうにはとパワハラで心療内科を受診するときにまとめています。診察で病名と発病時期を確かめるときは、たとえば次のように聞けます。
文例:「労災の請求を考えています。今の診断名は、ICD-10ではどの分類にあたりますか。発病はいつ頃だったと考えていますか。職場で起きたことは、診断の前提に入っていますか。」
発病時期が大事な理由と、受診で伝えておくこと
対象疾病では、病名と同じくらいいつ発病したかが重要です。評価の対象になるのは「発病前おおむね6か月」の出来事なので、発病時期がずれると評価される期間もずれるからです。認定基準は発病時期について、次の扱いを定めています。
- 発病時期も診断ガイドラインに基づいて判断し、特定が難しくても、出来事との関係などを踏まえてできる限り範囲を絞り込んだ医学意見を求める。
- 強い心理的負荷となる出来事の前と後の両方に発病の兆しといえる言動があり、診断基準を満たした時期を特定しにくい場合は、出来事の後に発病したものとして扱う。
- 生死にかかわるケガや強姦など特に強い出来事の直後に、解離などの反応が出て受診が遅れた場合は、その反応が出た時期を発病時期とする。
ただし、パワハラのように繰り返される出来事は、発病の6か月より前に始まっていても、その期間にも続いていれば始まった時からの行為がすべて評価の対象になります。受診が遅れたからといって、それ以前の被害が評価から外れるわけではありません。
- 眠れない、食欲が落ちた、涙が出るなどの変化に最初に気づいた時期
- その時期の前後に職場で起きた出来事(誰から、何を、どれくらい)
- 出来事が始まった時期と、今も続いているか
- 会社に相談したか、その後どうなったか
- 以前に心の不調で通院したことがあるか
すでに通院していた人が職場の出来事で悪化した場合は、悪化の扱いや「新たな発病」としての判断があり、要件の全体はパワハラによる精神障害の労災認定:3つの要件と申請の流れで整理しています。症状が出始めた時期と出来事を並べて書く方法はパワハラによる体調の変化を記録する、評価表への当てはめ方は精神障害の労災認定基準を読む、請求で出来事を説明する書面は精神障害の労災の申立書の書き方を参照してください。
よくある質問
Q. 診断書に「抑うつ状態」と書かれています。これでも対象疾病になりますか?
労災の判断では、診断書の書き方そのものではなく、ICD-10の診断ガイドラインに基づき、主治医の意見書や診療録、聴取の内容などから医学的に疾患名を判断します。抑うつ状態という表記の場合は、主治医にどの病気として診ているのか(ICD-10のどの分類にあたるか)を確かめておくと、労働基準監督署から意見を求められたときに話がずれにくくなります。
Q. 適応障害は軽い病気なので労災の対象外だと聞きました。本当ですか?
厚生労働省のパンフレットに載っている認定事例には、適応障害を「対象疾病に該当する」と判断して認定した例があります。病名の重さで対象かどうかが決まるのではなく、対象疾病に当たったうえで、業務による強い心理的負荷があったかなどの要件で判断されます。
Q. 対象疾病に当たれば、労災は認められますか?
対象疾病の発病は3つの要件のうちの1つです。発病前おおむね6か月の業務による心理的負荷が「強」と評価されることと、仕事以外の原因で発病したとはいえないことも満たす必要があります。
出典・参考にした公的な情報
- 心理的負荷による精神障害の認定基準(基発0901第2号 第1・第4・第6〜第8)(厚生労働省)
- 精神障害の労災認定(パンフレット R6.10)(厚生労働省)
- 労働基準法施行規則 別表第1の2 第9号(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。