パワハラで被害届・告訴を考えるとき:刑事と民事の違いと警察への相談
パワーハラスメント(パワハラ)という名前の罪はありませんが、殴られた・脅された・人前でおとしめられたなど、刑法の罪に当たりうる行為があれば、警察に被害届を出したり、告訴したりする道があります。被害届は被害にあった事実を届け出るもの、告訴は加害者の処罰を求める意思をはっきり示すものです。どちらも刑事の手続きで、慰謝料など損害の賠償は民事の手続きで別に求めます。いま危険がある・暴行を受けた直後なら110番、急がない相談なら警察相談専用電話の#9110が窓口です。
パワハラで被害届を出せるのは、刑法の罪に当たりうる行為があるとき
被害届や告訴は、「パワハラを受けた」という名目ではなく、どの犯罪の被害を受けたかで出すものです。職場で起きたことでも、暴行・傷害・脅迫・強要・名誉毀損・侮辱・器物損壊などの条文の形に近い行為があれば、警察への相談の対象になります。一方、業務上の注意や指導そのものは、刑法35条が「正当な業務による行為は、罰しない」と定めている範囲の話です。
どの行為がどの条文と重なりうるか、法定刑はどうなっているかは、パワハラに刑事罰はある?に早見表があります。無視や仲間外れのように刑法の形に当てはまりにくい嫌がらせを、警察と労働の窓口のどちらに持ち込むかは、職場の嫌がらせは警察に相談できるかで振り分けています。この記事では、届け出るときの手続きの違いと手順に絞って説明します。
被害届・告訴・告発の違い
警察に持ち込む方法には3種類あり、誰ができるか、何を求めるものかが違います。
| 項目 | 被害届 | 告訴 | 告発 |
|---|---|---|---|
| 誰がするか | 被害を受けた人 | 被害を受けた人など告訴権のある人(刑事訴訟法230条) | 被害者以外の人も含め、何人でも(239条) |
| 中身 | 犯罪の被害にあった事実を届け出る | 犯罪の事実を申告し、処罰を求める意思を示す | 被害者以外の人が、犯罪の事実を申告し処罰を求める |
| 出し方 | 届出用紙に記入、または警察官が代書(犯罪捜査規範61条) | 書面か口頭で、検察官または司法警察員に(241条)。口頭なら調書が作られる | 告訴と同じ(241条) |
| 受けた後の扱い | 警察官は受理しなければならない(同規範61条) | 書類と証拠物が速やかに検察官に送られる(242条) | 告訴と同じ(242条) |
| 結果の知らせ | 刑事訴訟法260条の通知は、告訴・告発をした人が対象 | 起訴・不起訴の処分が告訴人に通知され、求めれば不起訴の理由も告げられる(260条・261条) | 告訴と同じ |
| やめられるか | ― | 起訴されるまで取り消せる。取り消すと再び告訴できない(237条) | ― |
使い分けで大事なのは次の2点です。
- 告訴が要る罪がある。 名誉毀損・侮辱は、告訴がなければ起訴できない罪です(刑法232条)。この種の罪は、犯人を知った日から6か月を過ぎると告訴できません(刑事訴訟法235条)。暴行や脅迫は、告訴がなくても起訴できる罪です。
- 告訴には、手続きの結果を知る仕組みがある。 告訴した人には、検察官が起訴したか、しなかったかが通知されます。処罰を求める気持ちがはっきりしているなら、告訴という形を選ぶ意味があります。
職場の同僚が暴力を見ていた場合、その同僚が告発することも条文上はできます。ただ、現実には被害を受けた本人が相談し、届出や告訴をするのが中心になります。
刑事と民事は、目的も結果も違う
「訴える」と言うとき、刑事と民事が混ざっていることがよくあります。両者の違いを、被害を受けた人の立場から並べます。
| 比べる点 | 刑事(被害届・告訴) | 民事(請求・労働局・裁判) |
|---|---|---|
| 目的 | 行為をした人の処罰 | 損害の賠償、職場の改善 |
| 相手 | 行為をした個人 | 加害者個人、会社 |
| 誰が進めるか | 警察・検察(被害者は申告し、事情を話す) | 被害者自身(または依頼した弁護士) |
| 根拠の例 | 刑法の各罪 | 民法709条・710条・715条、労働契約法5条など |
| 結果 | 起訴・不起訴、刑罰 | 和解、労働審判、判決など |
| お金が戻るか | 刑事の手続き自体は賠償を命じない | 賠償の支払いを求める手続き |
刑事の手続きで加害者が処罰されても、受けた損害の賠償が自動的に支払われるわけではありません。反対に、民事で和解が成立しても、刑事の手続きが止まるとは限りません。どちらを先にするか、並行させるかは目的で決めます。民事の手段の全体はパワハラで訴える方法は6つ:労働局・労働審判・裁判・告訴を費用と期間で比較で比べています。
警察に相談して届け出るまでの手順
- いま危険があるか確かめる。 暴行を受けた直後、相手が近くにいて危ない、けがをしている、という場合は110番です。手続きより身の安全が先です。
- 急がない相談は#9110か、最寄りの警察署へ。 警察庁の資料では、#9110は緊急の対応を必要としない相談の窓口で、都道府県警察につながります。受付時間は都道府県で違うので、使い分けと確かめ方は職場で暴力・脅しを受けたときの110番と#9110を参照してください。
- 材料をそろえる。 出来事ごとの日時・場所・相手の言葉(言い換えずに)、けがの診断書や写真、壊された物の写真、脅しのメッセージ、その場にいた人の名前を一つにまとめます。
- 相談の場で、届出や告訴をしたい意思を伝える。 話を聞いてもらうだけで終えたいのか、届け出たいのか、処罰を求めたいのかで、警察の対応が変わります。
- 結果を待つ間も記録を続ける。 届出の後に新たな出来事があれば、日付つきで記録して担当者に伝えます。
相談のときの伝え方の例:「職場の上司から、〇月〇日に会議室で、胸ぐらをつかまれて壁に押しつけられました。翌日受診して、首の打撲の診断書があります。その場に同僚が1人いました。被害届を出したいと考えています。告訴との違いも教えてください。」
刑事の手続きについての相談先としては、警察庁の相談先一覧に、法テラスの犯罪被害者支援ダイヤルも載っています。番号と受付時間は職場で暴力・脅しを受けたときの110番と#9110に載せています。
届け出る前に考えておきたいこと
被害届や告訴は、自分で選べる手段です。出す前に、次の点を考えておくと後悔が少なくなります。
- 職場に知られる可能性:捜査では、目撃者として同僚が話を聞かれることがありえます。知られたくない事情があれば、相談の段階で伝えておきます。
- 告訴の期限:名誉毀損・侮辱は、犯人を知った日から6か月が告訴の期限です。迷っている間に期限が進みます。
- 取り消しの重さ:告訴は起訴されるまで取り消せますが、取り消すと同じ件で告訴し直すことはできません。
- 民事の期限:刑事を待っている間も、損害賠償の時効は進みます。期限はパワハラの時効は何年?で確かめてください。
- 自分で公開しない:加害者の実名や録音をSNSに出すと、刑法230条の名誉毀損は内容が本当でも成立しうる条文なので、自分が責任を問われる側になりえます。気持ちの整理はパワハラ上司に仕返ししたいときで扱っています。
告訴状の作り方や、民事の請求と刑事をどう組み合わせるかは、個別の事情による判断が多い部分です。弁護士に相談するときの持ち物はパワハラを弁護士に相談する前の準備にまとめています。退職した後で動くことを考えている人は、次のパワハラで退職した後に訴えることはできるかへ進んでください。
よくある質問
Q. 被害届は、警察に受け取ってもらえないことがありますか?
犯罪捜査規範61条は、警察官は犯罪による被害の届出があったときは受理しなければならないと定めています。ただ、相談の段階で、話の中身が刑法の罪に当たる行為として整理できていないと、届出の前の相談として扱われることがあります。出来事を日時・場所・行為で区切って説明し、届出をしたいという意思をはっきり伝えてください。
Q. 告訴状は自分で書けますか?
告訴は書面か口頭で、検察官または司法警察員にすると刑事訴訟法241条に定めがあります。口頭で告訴したときは、受けた側が調書を作ります。書面にするなら、誰が・いつ・どこで・何をしたかと、処罰を求める意思を書きますが、どの罪に当たるかの整理を含めて不安があれば、弁護士に相談して作る方法もあります。
Q. 被害届を出せば、慰謝料も払ってもらえますか?
刑事の手続きは、行為をした人を処罰するかどうかを決めるもので、損害の賠償を命じる手続きではありません。慰謝料などを求めるには、民事の請求(話し合い、労働局の手続き、裁判など)を別に考えます。刑事と民事は並行して進めることもできます。
出典・参考にした公的な情報
- 刑事訴訟法 第230条・第235条・第237条・第239条・第241条・第242条・第260条・第261条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 犯罪捜査規範 第61条・第63条・第64条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 刑法 第35条・第230条・第231条・第232条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 令和7年版 犯罪被害者白書 資料9 相談先一覧(警察庁)
- 民法 第709条・第710条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。