パワハラの時効は何年?損害賠償と労災の期限を条文で確認
パワハラの時効は、誰に何を求めるかで変わります。加害者個人への損害賠償(不法行為)は、損害と加害者を知った時から3年(生命・身体を害された場合は5年)、行為の時から20年で時効になります。会社の安全配慮義務違反を理由とする請求は、権利を行使できると知った時から5年、行使できる時から10年(生命・身体の侵害は20年)です。労災保険の給付は、休業補償などが2年、障害・遺族の給付が5年で、期限が近いときは催告や協議の合意で一時的に時効の完成を止める方法もあります。
パワハラの時効は何年か:請求ごとの早見表
まず、パワハラで問題になる主な期限を一覧にします。民法の数字は、2020年4月1日に施行された改正後の条文です。
| 何を求めるか | 根拠 | 期限 |
|---|---|---|
| 加害者個人・会社への損害賠償(不法行為。709条・715条) | 民法724条 | 損害と加害者を知った時から3年/行為の時から20年 |
| 同上で、生命・身体を害された場合 | 民法724条の2 | 知った時から5年(20年は同じ) |
| 会社への損害賠償(安全配慮義務違反による債務不履行) | 民法166条 | 行使できると知った時から5年/行使できる時から10年 |
| 同上で、生命・身体の侵害の場合 | 民法167条 | 知った時から5年/行使できる時から20年 |
| 労災保険の療養・休業補償給付など | 労災保険法42条 | 2年 |
| 労災保険の障害・遺族補償給付など | 労災保険法42条 | 5年 |
| 名誉毀損・侮辱などの告訴 | 刑事訴訟法235条 | 犯人を知った日から6か月 |
どちらの期限も、「いつから数えるか」が大事です。不法行為の3年は、出来事の日ではなく、被害を受けた人が損害と加害者を知った時から数えます。パワハラで心身の不調が生じた場合に、それが724条の2の「身体を害する」に当たって5年になるかは、個別の事情で判断される点です。早見表の短いほうの期限を目安に動き、細かな起算点は弁護士に確かめるのが安全です。
なお、2020年3月31日以前の出来事には改正前の規定が関わる場合があります。古い出来事を含むときは、相談のときに最初の出来事の日付を伝えてください。
加害者個人と会社で、期限が違う理由
同じパワハラでも、相手と根拠の組み立て方で期限が違います。
- 不法行為として請求する場合:加害者本人の責任(民法709条)と、会社の使用者責任(715条)は、どちらも不法行為の規定です。期限は724条・724条の2で数えます。
- 安全配慮義務の違反として請求する場合:会社は労働契約に伴って、労働者の安全に配慮する義務を負います(労働契約法5条)。その違反は契約上の義務の不履行(民法415条)として構成され、期限は166条・167条で数えます。
条文の数字だけを比べると、債務不履行のほうが期間が長く見えます。ただ、どちらの構成で請求するか、どちらが事案に合うかは、事実と材料による判断です。相手ごとの責任の違いはパワハラで訴える相手は加害者個人か会社かで整理しています。社長本人が加害者の場合の注意点は社長のパワハラを訴える前にを参照してください。
時効の完成を止める方法:催告・協議の合意・訴え
期限が近づいているときに、時効の完成を止める(猶予する)方法が民法に定められています。
| 方法 | 条文 | 止まる期間 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 催告(支払いを求める通知) | 民法150条 | 催告の時から6か月 | 猶予の間の再度の催告では延びない |
| 協議を行う旨の書面での合意 | 民法151条 | 合意から1年(短い期間を定めればその期間)まで | 相手の同意が要る。電子的な記録でもよい |
| 裁判上の請求(訴えの提起など) | 民法147条 | 手続きが終わるまで | 判決などで権利が確定すると、そこから新たに進む |
催告は、内容証明郵便で支払いを求める形で行われることが多い方法です。ただし内容証明は、いつ・どんな内容の文書を送ったかを日本郵便が証明するもので、相手に支払いを強制する力はありません。送る前の考え方はパワハラで内容証明を送る前にで扱っています。
151条の協議の合意は、相手と話し合いを続けることを書面で約束した場合の規定です。合意から1年を超えない範囲で時効の完成が猶予され、相手が協議の続行を拒む通知を書面でしたときは、その時から6か月で猶予が終わります。
労働局の手続き・労災・刑事の期限
労働局のあっせん・調停と時効
労働局のあっせん・調停を申請しただけでは、損害賠償の時効は止まりません。ただし、あっせんや調停が打ち切られ、その通知を受けた日から30日以内に同じ請求について訴えを起こしたときは、時効の完成猶予について、申請した時に訴えを起こしたものとみなされます(個別労働紛争解決促進法16条、男女雇用機会均等法30条を労働施策総合推進法38条で準用)。会社が参加せず打ち切られたときの動き方は労働局のあっせんを会社が拒否したらにあります。
また、厚生労働省の案内では、会社の措置が行われた日(または措置の内容が終わった日)からおおむね1年以上たっている紛争は、原則として調停の対象にならないとされています。民法の時効とは別に、手続きごとの受付の目安があることも覚えておいてください。
労災保険の給付の期限
労災保険の休業補償給付は、賃金を受けない日ごとに請求権が生じ、その翌日から2年で時効になると厚生労働省は説明しています。2年より前の休業日の分から順に請求できなくなっていくため、療養が長引いている人ほど早めの請求が大事です。退職後でも請求する権利は変わりません。退職後の手続きは退職後でもパワハラの労災申請はできるかを参照してください。
刑事の告訴の期限
名誉毀損・侮辱など、告訴がなければ起訴できない罪(親告罪)は、犯人を知った日から6か月を過ぎると告訴できません(刑事訴訟法235条)。暴行・脅迫などはこの告訴期間の対象ではありませんが、起訴できる期間(公訴時効)があります。罪ごとの期間はパワハラに刑事罰はある?にまとめています。
自分の期限を確かめる手順
期限を自分で書き出しておくと、相談先で話が早く進みます。
- 最初の出来事と最後の出来事の日付を出す。 記録や手帳から特定します。
- 心身の不調が出た日と、受診した日を出す。 損害を知った時期を考える手がかりになります。
- 求めたいものを決める。 加害者個人への賠償、会社への賠償、労災の給付、刑事の処罰のどれか(複数でもよい)。
- 早見表に当てはめて、いちばん早い期限を書く。 筆者の計算例:損害と加害者を知った日が2024年5月10日なら、3年の期限は2027年5月10日ごろです。正確な満了日は相談先で確かめてください。
- 期限まで1年を切っていたら、手段の選択より先に相談の予約を入れる。
証拠をいつまで残しておけばよいかはパワハラの証拠に期限はあるかで扱っています。退職後に動く場合の準備はパワハラで退職した後に訴えることはできるかへ進んでください。刑事の手続きを考えている人は、次のパワハラで被害届・告訴を考えるときで、民事との違いを確かめられます。
よくある質問
Q. パワハラが何年も続いている場合、時効はいつから数えますか?
不法行為の時効は「損害及び加害者を知った時」から数えると民法724条が定めていますが、繰り返された行為を一つのものとして見るか、行為ごとに見るかは事案ごとに争いになりうる点です。古い出来事ほど期限が近い可能性があるので、最初の出来事と最後の出来事の日付をそろえ、早めに弁護士に確かめてください。
Q. 内容証明を送れば、時効は止まりますか?
内容証明で支払いを求めることは民法150条の「催告」に当たりうるもので、その時から6か月は時効が完成しません。ただし猶予の間に再び催告しても、さらに延びることはありません。6か月の間に訴えを起こすなど次の手続きを取る前提で使うものと考えてください。
Q. 労災の申請をしていれば、会社への損害賠償の時効も止まりますか?
労災保険の給付の請求と、会社や加害者への損害賠償の請求は別の手続きで、時効もそれぞれの法律で数えます。労災を申請中でも、損害賠償の時効は民法の定めで進むと考えて、期限を別々に確かめておくのが安全です。
出典・参考にした公的な情報
- 民法 第147条・第150条・第151条・第166条・第167条・第724条・第724条の2(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 労働者災害補償保険法 第42条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 労災保険給付の請求のパンフレット(休業補償の時効の数え方)(厚生労働省)
- 個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律 第16条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律 第30条(労働施策総合推進法第38条で準用)(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 紛争解決援助制度と調停のご案内(令和7年度版)(厚生労働省)
- 刑事訴訟法 第235条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。