パワハラを告発する方法:社内通報・外部窓口・報道の違いと注意点
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パワハラを告発する方法は、大きく分けて①社内(ハラスメント相談窓口・内部通報窓口)、②行政(都道府県労働局など)、③報道機関やSNSの3つです。公益通報者保護法の保護は、社内への通報がいちばん条件が軽く、外へ向かうほど条件が重くなります。しかも、すべてのパワハラが同法の「通報対象事実」に当たるわけではありません。SNSで加害者の実名を出す告発は、内容が本当でも名誉毀損に問われるおそれがあるため、先に①と②を使うことを考えるのが、リスクの少ない順番です。
パワハラの告発の方法は3つ:保護の条件が違う
公益通報者保護法は、通報を理由とする解雇を無効とし(第3条)、降格・減給などの不利益な扱いも禁じています(第5条)。会社は、通報で損害を受けたとして通報者に損害賠償を請求することもできません(第7条)。ただし、守られるための条件は通報先ごとに違います。
| 告発先 | 保護される条件 | パワハラで使うときの注意 |
|---|---|---|
| ① 社内(勤務先の内部通報窓口など) | 通報対象事実が生じている、または生じようとしていると「思料する」場合 | ハラスメント相談窓口への相談は、別に労働施策総合推進法第31条2項でも守られる |
| ② 権限のある行政機関 | 「信ずるに足りる相当の理由」がある場合、または思料し、氏名・事実の内容・理由などを書いた書面を出す場合 | 通報先は、その事実を扱う法律を所管する行政機関。暴行・脅迫なら警察、賃金不払いなど労働基準法違反なら労働基準監督署。会社の措置義務への相談は、公益通報とは別に都道府県労働局へ |
| ③ 報道機関など、被害の防止に必要と認められる者 | 相当の理由があり、さらに「内部や行政に通報すると不利益を受けると信じる相当の理由がある」「証拠隠しのおそれ」「書面で内部通報して20日たっても調査の通知がない」などのいずれかに当たる場合 | 条件が最も重い。SNSへの個人の投稿がこれに当たるとは限らない |
表のとおり、外へ向かうほど、通報する側が「理由」を示す必要が強くなります。まず社内と行政の道を使い、その記録を残しておくことは、③に進む場合の条件を満たすうえでも意味があります。
「公益通報」に当たるパワハラ・当たらないパワハラ
公益通報者保護法が守るのは、対象の法律(約500本)に定められた、刑罰の対象となる犯罪行為の事実や、過料の理由となる事実についての通報です(第2条3項)。対象の法律の一覧には、刑法、労働基準法、労働施策総合推進法などが載っていますが、一覧に載っている法律の違反なら何でも対象になるわけではありません。
| パワハラの中身の例 | 公益通報の対象との関係 |
|---|---|
| 殴る・蹴る、物を投げつける | 刑法の暴行・傷害の罪に当たりうる事実なので、対象になりうる |
| 「辞めないと家族がどうなるか」などの脅し | 刑法の脅迫の罪に当たりうる事実として、対象になりうる |
| 残業代を払わない長時間労働の強要 | 罰則のある労働基準法違反なら、対象になりうる |
| 暴言・無視・過大な要求など、罰則のない言動 | 公益通報には当たらない場合がある |
罰則のない言動のパワハラでも、守られないわけではありません。会社のハラスメント相談窓口に相談したこと、事実確認に協力したことを理由とする不利益な扱いは、労働施策総合推進法第31条2項で禁じられています。告発の目的が「職場のパワハラを止めてほしい」なら、まずハラスメント相談窓口、という道が筋が通ります。
なお、公益通報として保護されるには、不正の利益を得る目的や、他人に損害を加える目的でないことも条件です。退職者は、通報の日の前1年以内に雇われていた人が対象です。
社内で告発する手順
社内には、ハラスメント相談窓口と内部通報窓口の2つがある会社が多いです。前者は労働施策総合推進法の措置義務にもとづく窓口、後者は公益通報者保護法にもとづく窓口です。両者の違いは内部通報制度とは?パワハラを通報するときの保護と相談窓口との違いで詳しく扱っています。
社内で告発するときの手順は次のとおりです。
- 窓口を確かめる。 就業規則や社内ポータルで、ハラスメント相談窓口と内部通報窓口の連絡先と、外部委託の有無を確かめる
- 書面で出す。 いつ・誰が・何をしたかを時系列でまとめ、記録の写しを添える。口頭だけで終わらせない
- 守秘の範囲を尋ねる。 通報を受けて調査する担当者(従事者)は、通報者を特定させる情報を正当な理由なく漏らしてはならず、違反には30万円以下の罰金がある(第12条・第21条)。ただし、従事者を定める義務は常時300人以下の会社では努力義務にとどまる
- 調査の予定を尋ねる。 書面で出して20日たっても調査する旨の連絡がないことは、③の報道機関などへの通報が守られる条件の一つになる
書面の書き出しの例:「内部通報窓口 御中 当部署の○○課長による、部下への暴行(9月12日、10月3日)について通報します。日時・場所・目撃者は別紙の時系列表のとおりです。調査を行うかどうかと、その時期をお知らせください。私の氏名は、調査に必要な範囲を超えて共有しないようお願いします。」
匿名で通報した場合に起こりうることは内部通報はバレる?匿名で通報するときの注意と報復への備えを参考にしてください。
報道やSNSで告発する前に確かめること
「会社が動かないならネットで公表したい」と考える人もいます。ただし、ここには通報者の側が負うリスクがあります。
- 刑事の責任:公然と事実を示して人の名誉を傷つければ、その事実が本当でも名誉毀損罪(刑法第230条)に問われることがあります。真実だと証明できたときなどの例外(第230条の2)もありますが、証明は書いた側が負う形です。条文ごとの違いはパワハラ上司に仕返ししたいとき:やってはいけないことと正当な手段で整理しています
- 民事の責任:投稿が名誉を傷つけたと判断されれば、逆に損害賠償(民法第709条・第710条)を求められることがある
加害者への怒りから実名や顔写真、録音を投稿したくなる気持ちは自然です。それでも、投稿は自分の手を離れて拡散し、消せなくなります。録音の公開について詳しくはパワハラの録音をSNSで公開していい?名誉毀損のリスクと別の手段で扱っています。
報道機関への情報提供を考える場合も、表の③の条件に当たるかを、先に弁護士に相談して確かめておくのが安全です。
2026年12月1日から変わること
公益通報者保護法の改正(令和7年法律第62号)が2026年12月1日に施行されます。今はまだ施行前です。主な内容は次のとおりです。
- 正当な理由なく、通報者を特定しようとする行為(通報者探し)や、通報しない約束を求めるなどの通報妨害が禁じられる
- 通報後1年以内の解雇・懲戒は、通報を理由とするものと推定される
- 通報を理由に解雇・懲戒をした者に、6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金。法人は3,000万円以下の罰金
- 業務委託で働くフリーランス(委託終了後1年以内を含む)も、通報者の範囲に入る
告発の前に整えておくことのチェックリスト
- 告発の目的(パワハラを止めたい、処分を求めたい、再発を防ぎたい)を言葉にした
- 時系列表と記録の写しをそろえ、原本は自分の手元に残した
- 社内のハラスメント相談窓口・内部通報窓口の連絡先を確かめた
- 書面で出した日と、会社からの返事を記録している
- 罰則のある行為(暴行・脅迫・賃金不払いなど)が含まれるかを整理した
- 実名の投稿や、録音・写真の公開はしないと決めた
- どこに通報すれば保護されるか迷ったら、消費者庁の公益通報者保護制度相談ダイヤル(匿名で相談可。個別の通報の受付はしていない)か、労働局・弁護士に相談すると決めた
加害者の処分がどう決まるかはパワハラ上司は処分される?懲戒の流れと処分されないときの選択肢で扱っています。告発の先に「せめて謝ってほしい」という気持ちがあるなら、パワハラ加害者に謝罪してほしいとき:求め方と会社の措置の関係も読めます。暴力や脅しが絡むときは、次の記事職場の嫌がらせは警察に相談できる?相談できる行為と準備することへ進んでください。
よくある質問
Q. 退職した後でも、前の会社のパワハラを告発して保護されますか?
公益通報者保護法の「労働者」には退職者も含まれますが、通報の日の前1年以内に雇われていた人に限られます。1年を超えていると、この法律の保護の対象から外れます。期間にかかわらず、労働局や弁護士への相談はできます。
Q. 匿名で告発することはできますか?
会社のハラスメント相談窓口や労働局への相談は、匿名でも受け付けている窓口があります。ただ、匿名のままだと会社が事実を確かめにくく、措置につながりにくい面もあります。名前を出す範囲(窓口の担当者まで、など)を先に尋ねてから決める方法があります。
出典・参考にした公的な情報
- 公益通報者保護法 第2条・第3条・第5条・第7条・第11条・第12条・第21条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 公益通報者保護法と制度の概要(令和7年改正・令和8年12月1日施行)(消費者庁)
- 通報の対象となる法律一覧(消費者庁)
- 刑法 第230条・第230条の2・第231条・第233条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 民法 第709条・第710条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 労働施策総合推進法 第31条・第36条・第37条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。