セクハラ・マタハラでも労災になる?精神障害の認定基準での扱い
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セクシュアルハラスメント(セクハラ)が原因でうつ病や適応障害などを発病した場合も、パワハラと同じ認定基準で労災(業務災害)かどうかが判断されます。厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の認定基準」には、評価表の項目29に「セクシュアルハラスメントを受けた」があり、身体接触を含む行為が続いた場合などが「強」の例に挙がっています。強姦や本人の意思を抑圧したわいせつ行為は、それだけで「強」と扱う「特別な出来事」です。妊娠・出産等に関するハラスメント(マタハラ)には専用の項目がなく、行為の中身に合う項目で評価されます。
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セクハラは評価表の項目29で評価される:弱・中・強の例
精神障害の労災は、①対象の精神障害を発病している、②発病前おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷がある、③仕事以外の原因で発病したとはいえない、の3つで判断します。要件の全体像はパワハラによる精神障害の労災認定で説明しているので、ここでは要件②のうちセクハラの部分を詳しく見ます。
評価表でセクハラは独立した類型(⑦)で、具体的出来事は項目29「セクシュアルハラスメントを受けた」の1つです。平均的な強度は3段階の真ん中の「Ⅱ」とされ、個別の事情で「強」にも「弱」にも動きます。総合評価で見る視点として、評価表は次の3つを挙げています。
- セクハラの内容、程度など
- その継続する状況
- 会社の対応の有無と内容、改善の状況、職場の人間関係など
具体例は次のとおりです(評価表の文言を要約)。
| 評価 | 評価表に挙がっている例 |
|---|---|
| 弱 | 「○○ちゃん」などセクハラに当たる発言をされた/職場に水着姿の女性のポスターなどを掲示された |
| 中 | 胸や腰などへの身体接触を含むが、継続しておらず、会社が適切かつ迅速に対応し発病前に解決した/身体接触のない性的な発言のみで、継続していない/性的な発言が複数回あったが、会社が適切かつ迅速に対応し発病前に終わった |
| 強 | 胸や腰などへの身体接触を含み、継続して行われた/身体接触を含み、継続はしていないが、会社に相談しても適切な対応がなく改善されなかった、または相談の後に職場の人間関係が悪化した/身体接触のない性的な発言のみだが、人格を否定する発言を含み、かつ継続した/性的な発言が続き、会社に相談しても、または会社が把握していても適切な対応がなく改善されなかった |
物差しになるのは本人の感じ方そのものではなく、職種や立場、年齢、経験などが似た「同種の労働者」が一般的にどう受け止めるかです。とはいえ、表の例は例示で、ここに書かれていない形の行為が評価されないわけではありません。どの例に近いかを決めるのは労働基準監督署(以下、労基署)で、本人が当てはめを済ませてから請求する必要はありません。評価表全体の構造は精神障害の労災認定基準を読むで確かめられます。
強姦やわいせつ行為は「特別な出来事」として扱われる
評価表の注記には、強姦や、本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為などのセクハラは「特別な出来事」として評価すると書かれています。特別な出来事に当たると、項目29の弱・中・強の当てはめを経ずに、総合評価は「強」になります。
いまも危険がある、体を傷つけられた、思い出すと眠れないといった状態のときは、労災の手続きより先に安全と心身の手当てを優先してください。24時間の相談先は職場で性暴力を受けたら、気持ちがつらいときの電話・LINEの窓口は仕事がつらい・限界のときの相談先にまとめています。労災の請求は、落ち着いてからでも時効の期間内であれば出せます。
続いたセクハラは一体で見る:6か月の数え方と会社の対応
セクハラのように繰り返される出来事について、認定基準は、繰り返された行為を一つのまとまりとして評価し、続いている状況は心理的負荷を強める方向で見るとしています。発病の6か月より前に始まっていても、発病前おおむね6か月の間にも続いていれば、始まった時からのすべての行為が評価の対象です。「1年前から触られていたが、直近は発言だけ」という場合も、最初の行為から書き出しておく意味があります。
評価が「中」から「強」へ動く分かれ目として目立つのが、会社の対応です。表の「強」の例には、会社に相談したのに適切な対応がなく改善されなかった場合と、相談の後に職場の人間関係が悪化した場合が入っています。反対に「中」の例は、会社が適切かつ迅速に対応して発病前に解決した場合です。社内で相談したかどうか、いつ誰に相談し、会社が何をしたか(しなかったか)は、評価の中身そのものに関わる事実になります。相談の記録を会社に残してもらう方法はパワハラ相談の記録を会社に残してもらうが参考になります。
認定基準はさらに、セクハラの事案に特有の留意事項を4つ定めています(第8の2)。
| 被害者によくある行動・事情 | 認定基準の扱い |
|---|---|
| 勤務を続けたい、被害を軽くしたいとの心理から、行為者に迎合するメールを送った、誘いを受け入れた | セクハラを受けたことを単純に否定する理由にはならない |
| 被害を受けてすぐには相談しなかった | 心理的負荷が弱いと単純に判断する理由にならない |
| 医療機関の初診でセクハラのことを話せなかった | 心理的負荷が弱いと単純に判断する理由にならない |
| 行為者が上司で被害者が部下、行為者が正社員で被害者が非正規など | 雇用関係上の優越的な立場は、心理的負荷を強める要素となりうる |
すぐに声を上げられなかったことを理由に、請求をあきらめる必要はありません。迎合したように見えるやりとりがあるなら、そうせざるを得なかった事情も一緒に説明できるよう、時期を並べておきます。
| 見られる点 | 残しておくもの |
|---|---|
| 行為の内容と程度(身体接触の有無、発言の中身) | 日時・場所・言葉・行為を書いたメモ、メッセージの画面 |
| 続いた期間 | 最初の行為から現在までの時系列表 |
| 会社の対応と改善の有無 | 相談した日・相手・回答の記録、相談後の配置や態度の変化 |
| 立場の差 | 行為者の役職、自分の雇用形態が分かる書類 |
マタハラの労災は、どの項目で見られるか
評価表には「マタハラ」や「妊娠・出産等に関するハラスメント」という名前の具体的出来事はありません。そのため、妊娠の報告後の嫌がらせや、育休明けの降格・配置転換などで発病した場合は、出来事の中身に近い項目に当てはめて評価されると考えられます。候補になる項目と、評価表の「強」の例は次のとおりです。
| 起きたこと | 当てはめの候補になる項目 | 評価表の「強」の例(要約) |
|---|---|---|
| 上司から妊娠・育休を理由に人格を否定する言葉を繰り返された | 22 上司等からのパワハラ(平均Ⅲ) | 人格を否定する精神的攻撃などを反復・継続して執拗に受けた |
| 同僚から集団で無視された、嫌味を言われ続けた | 23 同僚等からのひどいいじめ・嫌がらせ(平均Ⅲ) | 人格を否定する言動を反復・継続して執拗に受けた |
| 性別などを理由に仕事上の差別や不利益な扱いを受けた | 19 雇用形態や国籍、性別等を理由に不利益な処遇等を受けた | 差別・不利益取扱いの程度が著しく大きく人格を否定するもので、継続した |
| 辞める意思がないと伝えたのに退職を迫られた | 16 退職を強要された(平均Ⅲ) | 長時間または威圧的な方法などで執拗に退職を求められた |
| 業務と関係のない妊娠・出産そのものの負担 | 業務以外の出来事として別に見られる | (評価表の対象外) |
最後の行のとおり、業務以外の心理的負荷を見る別表2には「自分が重い病気やケガをした又は流産した」も並んでいます。妊娠・出産をめぐる時期は体調の変化も重なるため、職場で起きたことと、体や家庭で起きたことを、別々の列で時系列に書き分けておくと説明しやすくなります。どの項目で評価するかは労基署が事実を調べて決めます。マタハラそのものの定義と型はマタハラとは?、職場のセクハラの定義はセクハラとは?で整理しています。
なお、令和7年度に精神障害で労災の決定があったもののうち、出来事が「セクシュアルハラスメント」だったものは233件、そのうち支給決定は127件でした(厚生労働省、2026年7月15日公表)。ほかの出来事との比べ方は精神障害の労災の件数で扱います。
請求の前に整理しておくこと
セクハラ・マタハラで労災を考えるときは、次の順で手元を整えておくと、請求書や聴取で説明しやすくなります。
- 受診して、主治医に職場で起きたことを伝える。 発病の時期と原因について主治医の意見が求められます。伝え方はパワハラで診断書をもらうにはが使えます。
- 最初の行為から時系列表を作る。 日付、相手、行為や言葉、自分の対応、会社の対応を1行ずつ並べます。作り方はパワハラの時系列表の作り方にあります。
- 社内での相談とその後の変化を書き添える。 改善されなかった、相談後に人間関係が悪化した、は評価に直接関わります。
- 仕事以外の出来事も時期だけ整理する。 隠すためではなく、聞かれたときに事実として答えられるようにするためです。
- 請求書と申立書を用意する。 精神障害の請求では、労基署から出来事などを書く「申立書」の提出を求められます。様式は各地の労働局のサイトなどで入手できます。
請求書の出し方から決定までの手順はパワハラの労災申請の流れ:請求書の提出から調査・決定まで、申立書の書き方は精神障害の労災の申立書の書き方:出来事・時期・相手を整理するで説明しています。会社への損害賠償や社内での対応など労災以外の動き方は、セクハラを受けたときの対応:記録・相談・会社への申し出の5ステップから確かめられます。
社内にセクハラの相談窓口があるときの使い方は社内のハラスメント相談窓口の使い方:相談前の準備と守秘の確かめ方に、会社に相談した事実が労災の評価でどう扱われるかは、パワハラで労災は認められる?精神障害の3つの要件と申請の流れの評価表の説明にまとめています。法律上のセクハラの定義はセクハラとは?対価型・環境型を男女雇用機会均等法の言葉で整理で確かめられます。
よくある質問
Q. 加害者に合わせるような返信をしてしまいました。セクハラはなかったと見られますか?
認定基準は、勤務を続けたい、被害を軽くしたいという心理から、被害者がやむを得ず行為者に迎合するメールを送ったり誘いを受け入れたりすることがあるとし、それをセクハラを受けたことを単純に否定する理由にしないと定めています。そうした返信をした事情も、時期とあわせて申立書や聴取で説明してください。
Q. 心療内科の初診ではセクハラのことを話せませんでした。不利になりますか?
医療機関でもすぐには話せないことがあるとして、初診時にセクハラの事実を申し立てていないことは、心理的負荷が弱いと単純に判断する理由にならない、と認定基準に書かれています。いまからでも主治医に経過を伝えておくと、意見書に発病の原因として反映されやすくなります。
Q. 社内で相談したら、かえって周りの態度が冷たくなりました。これも見てもらえますか?
評価表のセクハラの項目では、身体接触を含む行為が続いていなくても、会社に相談した後に職場の人間関係が悪化した場合が「強」になる例に挙がっています。相談した日と、その後に起きた変化を日付つきで残しておいてください。
出典・参考にした公的な情報
- 心理的負荷による精神障害の認定基準(基発0901第2号・別表1 項目29・第8の2)(厚生労働省)
- 心理的負荷による精神障害の認定基準を改正しました(2023年9月1日)(厚生労働省)
- 精神障害の労災認定(パンフレット)(厚生労働省)
- 令和7年度「過労死等の労災補償状況」別添資料2(表2-8 出来事別の支給決定件数)(厚生労働省)
- 労災保険様式ダウンロード(精神障害用の申立書)(京都労働局)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。