パワハラ上司に退職を言うのが怖いとき:会わずに伝える選択肢
この記事のもくじ
パワハラ上司に退職を言うのが怖いなら、その上司に直接言う必要はありません。退職の申入れの相手は上司個人ではなく、雇い主である会社です。人事部や上司の上司にメールで伝える、退職届を会社に郵送する、退職代行に頼む、といった方法なら、加害者と顔を合わせずに退職の意思を届けられます。期間の定めのない雇用であれば、意思が会社に届いた日から2週間で雇用は終わり(民法第627条1項)、上司が認めるかどうかは関係しません。
この記事では、上司との接触をどこまで減らせるかで方法を比べ、怖さの中身ごとの備えと、退職日まで会わずに過ごす段取りを整理します。上司から暴力や脅しを受けていて身の危険を感じる場合は、退職の段取りより先に職場で暴力・脅し・つきまといを受けたときの警察への相談を読んでください。
退職を伝える相手は「会社」:上司を通さなくてよい理由
民法第627条は、雇用の当事者が解約の申入れをすると定めており、誰を経由して伝えるかは決めていません。意思表示は相手に届いたときに効力が生じるので(民法第97条1項)、会社の人事部や役員など、会社として受け取る立場の人に届けば申入れになります。
上司を通さない伝え方は、主に次の3つの相手が考えられます。
- 人事部・総務部:退職の手続きを実際に扱う部署。会社の規模が大きいほど話が早い
- 上司の上司(部長・役員):人事部がない会社や、人事が上司と近すぎる場合
- 社内のハラスメント相談窓口:パワハラのことも合わせて伝えたい場合。会社には、相談に応じる体制を整える義務があり、相談したことを理由に解雇などの不利益な取扱いをすることも禁じられている(労働施策総合推進法第31条)
就業規則に「退職届は所属長に提出する」とある会社もあります。その場合も、人事部に「上司から強い言動を受けていて直接話すのが難しい」と事情を伝え、人事部経由で受け付けてもらえるかを聞いてみてください。上司にはメールで写しを送るだけにすれば、顔を合わせずに手続きに沿わせることもできます。
会わずに伝える4つの方法:上司との接触の少なさで比べる
それぞれの方法で、加害者の上司とどれだけ接するかを比べます。
| 方法 | 上司との接触 | 自分ですること | 気をつける点 |
|---|---|---|---|
| 人事部へ直接メールする | なし〜少ない(人事から上司へ伝わる) | メール1通、その後の人事とのやりとり | 人事と上司が近い会社では情報が筒抜けになりやすい |
| 上司の上司に伝える | 少ない | 面談かメール | 上司の上司も同じ考えだと引き止めが強まる |
| 退職届を会社に郵送する | なし | 退職届を書いて郵便局で出す | 宛先を人事部か代表者にする。上司あてにしない |
| 退職代行に頼む | なし | 申込み、打合せ、書類と貸与品の受け渡し | 運営形態で頼める範囲が違う。費用がかかる |
人事部へのメールは、パワハラのことを書くかどうかで文面が変わります。退職の意思だけを書いて、パワハラの相談は別に扱ってもらう形でもかまいません。
人事部への退職の連絡の例:「人事部 ○○様。営業部の山田です。○年○月○日付で退職したく、ご連絡しました。所属長の△△課長から強い言動を受けてきたため、直接お話しするのが難しい状況です。退職の手続きと今後の連絡は、人事部の方とメールでやりとりさせていただけますでしょうか。退職届は本日郵送しました。」
退職届の郵送や、メールの細かな文例は、退職を言い出せないときの伝え方:状況別に選ぶ4つの方法で方法ごとに扱っています。
怖さの中身ごとの備え:怒鳴られる・引き止め・脅し・仕返し
怖さの中身がはっきりすると、それぞれに備えができます。
| 怖いこと | 事前にできる備え | 起きたときの対応 |
|---|---|---|
| 怒鳴られる・人前で責められる | 対面を避け、文面で伝える | その場を離れ、日時と言葉を記録する |
| 「辞めさせない」と強く引き止められる | 先に書面で意思を届けておく | 「意思は変わりません」とだけ答える |
| 「損害賠償を請求する」と言われる | 違約金の約束が禁じられていることを知っておく | 文面に残してもらい、相談先に見せる |
| 退職後の悪口や嫌がらせ | やりとりを全部書面か記録の残る方法にする | 記録を持って相談する |
引き止めについては、労働基準法第5条が、暴行・脅迫・監禁などの手段で労働者の意思に反して働かせることを禁じています。ただし、強い引き止めが直ちにこれに当たるわけではありません。引き止められても、退職の申入れが会社に届いていれば2週間で雇用は終わる、ということを支えにして、話に乗らないことが大切です。断り方の文例は退職の引き止めの断り方:パワハラ気味の強い引き止めへの対応にあります。
損害賠償については、労働基準法第16条が、労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償の額をあらかじめ決めておいたりする契約を禁じています。実際に生じた損害の請求まで一律に禁じた条文ではなく、請求が認められるかどうかは個別の事情で決まります。退職すると損害賠償と脅しを受けたらで考え方を確かめてください。退職を伝えた後の嫌がらせへの備えはパワハラ退職の仕返しが怖いときで扱っています。
どの場合も、言われたことを日付つきで残しておくと、後で社内外に相談するときの材料になります。録音の始め方はパワハラの録音の仕方にまとめています。
退職日まで会わずに過ごす段取り
退職の意思を伝えた後、退職日まで出社しなければならないのかが、次の不安になります。退職の申入れから2週間は雇用が続くので、その間の勤務日は、年次有給休暇を充てるか、出勤するか、欠勤になります。年休は労働基準法第39条により労働者が請求した時季に与えるのが原則なので、残りがあれば退職日までの勤務日に充てるよう申し出られます。
会わずに済ませるには、次のものを郵送やメールでやりとりする形に整えます。
- 引継ぎ:担当業務、進行中の案件、データの置き場所を文書にまとめ、人事部か同僚あてに送る
- 貸与品の返却:社員証、パソコン、制服、鍵などを宅配便など記録の残る方法で返す
- 私物の受け取り:机やロッカーの私物を、着払いで送ってもらえるよう頼む
- 書類の受け取り:離職票、源泉徴収票など退職後の手続きに使うもの。退職証明書は、請求すれば会社は遅滞なく交付する(労働基準法第22条)
退職日までの扱いを頼む例:「退職日の○月○日までの勤務日は、残っている年次有給休暇○日を充てていただきたくお願いします。引継ぎの資料は○日にメールで送ります。貸与品は○日に宅配便で返送し、私物は着払いでご送付いただけますと助かります。」
返却と私物の受け取りの手順は退職時の貸与品の返却と私物の受け取り:会わずに済ませる方法で詳しく扱っています。
自分で連絡できないなら:退職代行を運営形態で選ぶ
人事部へのメールも書けないほど怖さが強い、上司から何度も電話が来そうで耐えられない、という場合は、退職代行に連絡を任せる方法があります。選ぶときは、運営する主体を最初に確かめます。
- 弁護士・弁護士法人:弁護士法第72条により、弁護士以外が業として扱えない代理や交渉などの法律事務を扱える。有給の消化や未払い賃金、損害賠償を持ち出されたときのやりとりも依頼の対象になりえる
- 労働組合:利用者が組合に加入し、組合として会社と団体交渉をする形。訴訟などの手続きの代理はしない
- 民間企業:本人の退職の意思を伝える役割にとどまる
上司から損害賠償をほのめかされている、有給を使わせないと言われている、というように会社とのやりとりが必要になりそうな人は、交渉を扱える運営形態かどうかを申込み前に確かめてください。料金に含まれる範囲、追加料金、返金の条件も、公式の説明と契約書面で確かめます。
運営形態ごとの違いは退職代行の弁護士・労働組合・民間企業の違いで比べています。自分で伝えると決めた人は、次に読む退職の伝え方:上司への切り出し方と理由の言い方の例文で、人事部や上司の上司に話すときの言い方を確かめてください。
よくある質問
Q. 直属の上司を飛ばして人事に退職を伝えたら、ルール違反になりませんか?
民法第627条は、雇用の当事者が解約の申入れをすると定めているだけで、誰を通して伝えるかは決めていません。退職の相手は上司個人ではなく、雇い主である会社です。就業規則に「所属長を通じて届け出る」といった手続きがある場合は、人事に事情を伝えたうえで、上司にはメールで写しを送るなど、接触を減らした形で手続きに沿わせる方法もあります。
Q. 退職を伝えた後、上司から電話が何度もかかってきたらどうすればいいですか?
出なくてもかまいません。「今後の連絡はメールか人事部経由でお願いします」と一度だけ文面で伝え、その後の着信の日時を記録しておきます。電話が業務の範囲を超えて続く、脅すような内容がある場合は、その記録を持って人事や労働局の総合労働相談コーナーに相談できます。
Q. 怖さが強くて、退職のことを考えるだけで体調が悪くなります。
退職の連絡より先に、休む連絡を入れて体を休めてください。体調不良が続いているなら受診し、休職してから辞めるかどうかを決める道もあります。気持ちがどうにもならないときは、[仕事がつらくて限界のときの相談先](/tsurai-toki-no-madoguchi/)にある公的な電話やLINEを使えます。
出典・参考にした公的な情報
- 民法 第97条・第627条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 労働基準法 第5条・第16条・第22条・第39条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 労働施策総合推進法 第31条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 弁護士法 第72条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。