パワハラの慰謝料を自分で請求するときの手順と弁護士に頼む目安
パワハラの慰謝料は、弁護士に頼まなくても、本人が自分で請求することができます。会社や加害者に書面で求めることも、労働局のあっせん・調停を申請することも、簡易裁判所や地方裁判所に申し立てることも、本人の名前で行えます。
ただし、手続きごとに「本人でも進めやすいもの」と「本人だと負担が大きいもの」があり、このページは自分で使える手段を5つに分けて、どこで弁護士に頼むかの判断材料をまとめます。慰謝料の額がどう決まるかは、前の記事のパワハラの慰謝料はどう決まる?で扱っています。
パワハラの慰謝料を自分で請求する5つの手段
| 手段 | 窓口 | 費用 | 相手の参加 | 合意・判断の効力 |
|---|---|---|---|---|
| 書面で直接請求 | なし(郵送など) | 郵便代 | 応じる義務はない | 合意すれば和解の書面 |
| 労働局のあっせん・調停 | 都道府県労働局 | 援助・調停・あっせんとも無料 | あっせんは義務がなく、不参加なら打ち切り | 合意内容は当事者が守るもの |
| 民事調停 | 簡易裁判所 | 訴訟より低い手数料 | 呼び出しを受ける | 調停調書は確定判決と同じ効力 |
| 少額訴訟 | 簡易裁判所 | 訴えの手数料 | 欠席すると不利な判決のおそれ | 判決・和解で強制執行ができる |
| 労働審判 | 地方裁判所 | 申立ての手数料+郵便料 | 期日に呼び出される | 異議がなければ裁判上の和解と同じ効力 |
表の上から下へ行くほど、手続きは重くなり、相手を話し合いの場に引き出す力も強くなります。費用の負担が軽い順に試す人もいれば、時効が迫っているなどの理由で、最初から裁判所の手続きを選ぶ人もいます。
手段ごとの要件と、本人で進めるときの注意
1. 書面で直接請求する
会社や加害者に、請求の内容を書いた手紙を送る方法です。費用は郵便代だけで、相手が応じれば話し合いで終わることもあります。一方で、相手に応じる義務はなく、無視されれば次の手段に進むことになります。送るときは、事実と違うことや脅すように読める表現を書かないことが大切です。内容証明郵便を使うかどうかはパワハラで内容証明を送る前にで判断材料をまとめています。
2. 労働局のあっせん・調停
厚生労働省の個別労働紛争解決制度(助言・指導とあっせん)は無料で、紛争調整委員会のあっせんは非公開、双方が顔を合わせずに進む形です。会社がパワハラ防止の措置を講じたかなどをめぐる紛争は、労働施策総合推進法第37条の調停の対象になります。調停の所要期間は、労働局の雇用環境・均等部(室)に確かめてください。あっせんは相手に参加の義務がなく、不参加なら打ち切りになります。調停案も受け入れるかどうかは強制されません。相手は会社で、加害者個人を相手にする手続きではない点にも注意します。慰謝料(損害賠償)を求める争いがあっせんと調停のどちらに当たるかは、総合労働相談コーナーや雇用環境・均等部(室)に事情を話して確かめてください。申請書の書き方は労働局のあっせんの流れで扱っています。
3. 簡易裁判所の民事調停
裁判所の案内によると、民事調停は原則として相手の住所地の簡易裁判所に申し立て、裁判官1人と調停委員2人の調停委員会が話し合いを仲立ちします。非公開で、申立てに特別な法律知識は必要とされず、書式と記入例が公開されています。手数料は訴訟より低く、裁判所の例では10万円の請求で訴訟1,000円に対し調停500円です。合意して調停調書に書かれた内容は確定判決と同じ効力を持ち、強制執行もできます。通常は2〜3回の期日で、おおむね3か月以内に終わっていると案内されています。
4. 少額訴訟
60万円以下の金銭の支払いを求める訴えで、簡易裁判所に起こします(民事訴訟法第368条)。審理は原則1回で終わり、証拠はその場ですぐ調べられるものに限られます(第370条・第371条)。判決には控訴できず、不服があれば同じ裁判所に異議を申し立てます(第377条・第378条)。相手は最初の期日で弁論するまでなら、通常の訴訟への移行を求めることができます(第373条)。利用は同じ簡易裁判所で1年に10回までです。手続きの詳しい流れは少額訴訟でパワハラの慰謝料は請求できる?を見てください。
5. 労働審判
会社を相手に地方裁判所へ申し立てる手続きで、特別の事情がなければ3回以内の期日で審理を終えます(労働審判法第15条)。代理人は原則として弁護士に限られますが(第4条)、本人が自分で申し立てることはできます。ただ、短い期日で争点を整理するため、最初の申立書と証拠の出来がそのまま結果に響きやすく、裁判所も必要に応じて弁護士への依頼が望ましいと案内しています。手続きの全体は労働審判の流れにあります。
自分で進めるときの手順と費用の目安
本人で進める場合の一般的な順番は次のとおりです。
- 時系列表を作る。 日付・言動・同席者・心身の変化・相談した先を1枚にまとめます。
- 証拠を番号つきで並べる。 時系列表の行と証拠を対応させます。
- 請求する相手と項目を決める。 会社か加害者か、慰謝料だけか治療費なども含めるか。
- 手段を選ぶ。 上の比較表と、時効までの残り期間で決めます。
- 書式を入手して出す。 労働局・裁判所の書式と記入例を使います。
裁判所の手数料は、請求する額によって変わります。筆者が民事訴訟費用等に関する法律の別表から計算した例を示します。正確な額は申し立てる前に裁判所で確かめてください。
例として、100万円を請求する場合は、訴えが10,000円に定額部分を足した額、労働審判が5,000円(郵便料は別)です。
訴えの定額部分は、被告1人の場合で書面2,500円・電子申立て1,400円です。2026年の民事裁判のIT化で郵便費用がこの定額に含まれる形に変わったため、古い記事の「手数料+郵便切手」の説明は当てはまりません。額ごとの一覧は、労働審判なら労働審判の費用、訴えならパワハラ裁判の流れにあります。
本人で進める限界と、弁護士に頼む目安
自分で進める場合のいちばんの負担は、法律の言葉で主張を組み立て、証拠と結びつける作業です。次のどれかに当てはまるときは、少なくとも一度は弁護士に相談することを考えてください。
- 時効の期限まで半年を切っている、または数え始めがはっきりしない
- 相手が事実を全面的に否定していて、証人や録音が鍵になりそう
- 会社と加害者の両方を相手にしたい
- 請求額が60万円を超え、労働審判や通常の訴訟を考えている
- 相手が弁護士を立ててきた、または合意書の案が届いた
- 退職・解雇・未払い賃金など、慰謝料以外の争いも絡んでいる
- 手続きを進めることが、心身の負担として重すぎると感じる
費用が心配なときは、収入などの条件を満たせば法テラスの無料法律相談や費用の立替えが使えることがあります。法テラスでパワハラを相談するにはで条件を確かめ、弁護士費用の内訳はパワハラの弁護士費用の内訳で確認できます。
よくある質問
Q. 自分で請求したら、会社が弁護士を立ててきました。続けても大丈夫ですか?
相手が弁護士を立てても、本人が自分で対応を続けること自体はできます。ただ、相手の主張が法律の言葉で整理されてくるので、条件の提示や合意書が出てきた段階で、一度は弁護士や法テラスに見てもらうと安心です。合意書に署名すると、後から内容を変えるのは難しくなります。
Q. 少額訴訟なら、弁護士なしでも進めやすいですか?
書式が用意され、審理も原則1回で終わるので、手続きの負担は通常の訴訟より軽いといえます。ただし、その1回までに主張と証拠をすべて出す必要があり、相手が通常の訴訟への移行を求めることもできます。言った・言わないの争いが大きい事案では、向き不向きを事前に考えておきます。
出典・参考にした公的な情報
- 個別労働紛争解決制度(労働相談、助言・指導、あっせん)(厚生労働省)
- 労働施策総合推進法 第35条〜第38条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 民事調停(裁判所)
- 少額訴訟(裁判所)
- 民事訴訟法 第368条〜第381条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 労働審判法 第4条・第15条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 労働審判手続(裁判所)
- 民事訴訟費用等に関する法律 別表第一・別表第二(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 紛争解決援助制度と調停のご案内(令和7年度版)(厚生労働省)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。