法的手段の前に / 制度解説

少額訴訟でパワハラの慰謝料は請求できる?60万円以下の手続き

この記事のもくじ
  1. 少額訴訟の要件と特徴:パワハラの請求に使う前に
  2. 申立てから判決までの流れ
  3. パワハラの慰謝料請求での向き不向き
  4. 申し立てる前にそろえるものと、ほかの手段

少額訴訟は、60万円以下の金銭の支払いを求めるときに簡易裁判所で使える手続きで、パワハラの慰謝料の請求にも使えます(民事訴訟法368条)。特別の事情がない限り最初の期日1回で審理を終え、その日に判決が出るのが原則です。ただし、調べられる証拠はその場ですぐに調べられるものに限られ、相手が希望すれば通常の訴訟に移ります。出来事の事実に争いが少なく、証拠が書面や録音で手元にそろっている場合に向き、事実を大きく争われそうな場合には向きにくい手続きです。

少額訴訟の要件と特徴:パワハラの請求に使う前に

少額訴訟は、民事訴訟法368条から381条に特別のルールが定められています。パワハラの慰謝料を請求するときに関係する特徴を、条文と裁判所の案内から整理します。

早見表:少額訴訟の決まり
項目 決まり 根拠
請求できるもの 60万円以下の金銭の支払い 368条
申し立てる裁判所 原則として相手の住所地の簡易裁判所(金銭請求は支払地も) 裁判所の案内
利用回数 同じ簡易裁判所で1人あたり年10回まで 368条・裁判所の案内
審理 特別の事情がない限り最初の期日で完了 370条
証拠 即時に取り調べられるものに限る 371条
反訴 できない 369条
通常の手続への移行 被告は最初の期日で弁論するまで申し出られる。裁判所も相当でないと認めれば移す 373条
判決 原則として審理の終了後すぐに言い渡す 374条
不服申立て 控訴はできない。判決書の送達から2週間以内に異議 377条・378条

裁判所の案内では、請求が認められる場合でも、分割払い・支払猶予・遅延損害金の免除を定めた判決が出ることがあり、その定めには不服を申し立てられません。判決や和解調書をもとに強制執行もでき、判決をした簡易裁判所で給料や預金の差押えの手続きができます。

申立てから判決までの流れ

  1. 相手と金額を決める。 会社を相手にするか、上司個人を相手にするかを決めます。少額訴訟は民事の手続きなので、どちらも被告にできます。少額訴訟の対象は60万円以下の請求で、これを超える請求は通常の訴訟になります。
  2. 訴状と証拠を用意する。 少額訴訟を求めることは訴えを起こすときに申し出て、その年に少額訴訟を使った回数も届け出ます(368条)。
  3. 簡易裁判所に出す。 手数料は請求額に応じた額に定額分を足した額で、郵便費用はこの手数料に含まれます。原則としてペイジーでの電子納付で、2026年5月21日からはオンライン(mints)での提出もできます。
  4. 期日までに言い分と証拠をすべて出す。 裁判所の案内では、原告は最初の期日までに言い分と証拠をすべて出しておく必要があります。証拠は即時に取り調べられるものに限られるので、証人に話してもらう場合は期日に同行してもらう必要があります。
  5. 期日に審理し、判決を受ける。 期日の途中で和解することもできます。

筆者の計算で、60万円を請求する場合の手数料は、書面で出すと8,500円、電子で出すと7,400円です(被告が1人の場合。請求額10万円ごとに1,000円に、書面2,500円・電子1,400円を足した額)。ほかの額の一覧はパワハラ裁判の流れにあります。費用の負担が重いときは、収入などの条件を満たせば使える法テラスの制度を法テラスでパワハラを相談するにはで確かめてください。

パワハラの慰謝料請求での向き不向き

少額訴訟は、1回の期日で終える代わりに、その場で調べられる証拠しか使えません。パワハラの請求では、次の分かれ道で向き不向きを考えると整理しやすくなります。

状況 少額訴訟との相性 理由
相手が出来事自体はおおむね認めている 合いやすい 争点が金額や責任の範囲に絞られ、1回で審理しやすい
録音・メール・チャット・診断書が手元にある 合いやすい 書面や記録はその場で調べられる
出来事の有無を強く争われそう 向きにくい 多くの証人や長い審理が要ると、通常の手続に移ることがある
証言してくれる同僚が当日来られない 向きにくい 即時に取り調べられる証拠に限られる
会社が通常の訴訟を望みそう 向きにくい 被告は最初の期日で弁論するまでに通常の手続への移行を申し出られる
60万円を超える請求をしたい 使えない 通常の訴訟(140万円以下は簡易裁判所)を検討する

パワハラの事件では、言動の有無や、それが指導の範囲だったかが争われることが多くあります。公表された判例では、叱責に至る経緯の評価で結論や金額が大きく変わった例もあります(パワハラの判例の読み方)。相手が経緯を詳しく争う場合は、少額訴訟から通常の手続に移ることがあり、最初から通常の訴訟や労働審判を選ぶ道もあります。どちらが合うかは、手元の記録を見せて弁護士に聞くのが確かです。

逆に、メールやチャットのやり取りで事実がはっきりしている場合や、相手が事実を認めたうえで支払いに応じない場合などは、少額訴訟の短さが生きます。弁護士や法テラスに相談するときは、手元の記録を持っていくと話が進みます。

申し立てる前にそろえるものと、ほかの手段

期日1回で終わるため、準備は申立て前にすべて済ませておく必要があります。次のチェックリストで確かめてください。

  • 出来事を日付順にまとめた時系列表
  • 録音とその文字起こし、メール・チャットの画面と元のデータ
  • 診断書、通院の領収書、休んだ日が分かる資料(治療費や休業の損害も求める場合)
  • 請求額の内訳を書いたメモ(慰謝料・治療費などの区別)
  • 会社や相手に請求したやり取りの記録
  • 証言してくれる人がいる場合は、期日に同行できるかの確認

自分で相手に請求する段階の進め方はパワハラの慰謝料を自分で請求するときの手順にまとめています。損害賠償の請求には時効もあるので、パワハラの時効は何年?で条文を確かめておいてください。

少額訴訟が合わないときの選択肢は次のとおりです。

  • 通常の民事訴訟:金額の上限がなく、証人尋問も行える。流れはパワハラ裁判の流れ
  • 労働審判:会社を相手に原則3回以内の期日で審理する。労働審判の流れ
  • 労働局のあっせん・調停:無料で、話し合いによる解決を図る

どの手段でも、依頼する場合は労働者側の事件の扱いや費用の説明を確かめて選びます。確かめる項目はパワハラを弁護士に相談するときの選び方で紹介しています。

よくある質問

Q. 少額訴訟は会社と上司のどちらを相手にできますか?

どちらも相手にできます。少額訴訟は60万円以下の金銭の支払いを求める民事の手続きなので、労働審判と違い、上司個人を被告にすることもできます。訴える裁判所は原則として相手の住所地の簡易裁判所なので、会社か個人かで申し立てる先が変わります。

Q. 少額訴訟の判決に納得できないときはどうなりますか?

少額訴訟の判決には控訴ができません(民事訴訟法377条)。判決書の送達を受けた日から2週間以内に、同じ簡易裁判所に異議を申し立てることができ、通常の手続で審理し直されます。異議の後の判決にも控訴はできません。

Q. 60万円を超える慰謝料を請求したいときはどうしますか?

少額訴訟は使えないので、通常の民事訴訟を検討します。請求額が140万円以下なら簡易裁判所、それを超えると地方裁判所が扱います。会社だけを相手にするなら労働審判という選択肢もあります。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

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