過小な要求とは?能力に見合わない雑用ばかりがパワハラになる例
課長だったのに毎日コピーとシュレッダーだけ、前は企画を担当していたのに今は倉庫の整理しか任されない、そもそも仕事を一つも振られない――こうした状況は、厚生労働省のパワハラ指針が6類型の5つ目「過小な要求」として説明している内容に関わります。指針はこの類型を「業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと」と示し、管理職を退職させるために特別な能力がなくても遂行できる業務を行わせること、嫌がらせのために仕事を与えないことを例に挙げています。一方、能力に応じて業務の内容や量を一定程度軽減することは該当しない例です。「雑用ばかり」と感じたときは、その業務がいつから、どのくらいの割合で、どんな説明のもとに続いているかを日ごとに記録することが、相談への近道になります。
過小な要求とは:指針の2つの例と、該当しない例
パワーハラスメント(パワハラ)の指針(令和2年厚生労働省告示第5号)の、2026年10月1日適用時点の本文の例は次のとおりです。
| 区分 | 指針の例(要旨) |
|---|---|
| 該当すると考えられる例 | ①管理職である労働者を退職させるため、だれにでも遂行できる業務を行わせること |
| ②気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えないこと | |
| 該当しないと考えられる例 | ①労働者の能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減すること |
どの例も、①優越的な関係を背景に、②業務上必要かつ相当な範囲を超え、③就業環境が害される、の3要素を満たすことが前提です。例は限定列挙ではないと厚生労働省のパンフレットは説明しています。6つの類型の全体像はパワハラ6類型の早見表にまとめています。
例を読むと、過小な要求の中心にあるのは目的です。①は「退職させるため」、②は「嫌がらせのために」と、業務とは別の目的が書かれています。反対に、該当しない例は「能力に応じて」という、業務上の理由がはっきりした軽減です。
「雑用ばかり」と業務の軽減を分ける確かめ方
自分の今の業務が、配慮としての軽減なのか、合理性のない格下げなのかは、外から見ると似ています。次の表の観点で、分かっていることと分からないことを分けておくと整理しやすくなります。
| 観点 | 配慮・育成としての軽減に近い | 過小な要求の例に近い |
|---|---|---|
| 理由の説明 | 体調・経験・業務縮小など、理由が示されている | 説明がない、または「自分で考えろ」と言われる |
| 本人の意向 | 希望を聞かれ、本人も納得している | 希望を伝えても聞き入れられない |
| 期間と見直し | 見直しの時期が示されている | 終わりが示されず続いている |
| 仕事の中身 | 本来の職務の一部を減らしている | 本来の職務と無関係な単純作業だけ |
| ほかの人との比較 | 同じ立場の人にも同様の調整がある | 自分だけが外されている |
| 時期の重なり | 異動・復職など、区切りに合わせている | 上司と対立した、退職を断ったなどの直後に始まった |
最後の「時期の重なり」は、指針の例①の「退職させるため」と関わる点です。退職を勧められて断った後に業務を取り上げられた、という経過があるなら、勧奨の日時とやりとりも一緒に残しておきましょう。退職勧奨そのものへの対応は退職勧奨をされたときの記事、別の部屋に移されて仕事がない状態は追い出し部屋に入れられたときの記事で扱います。
なお、仕事を与えないことに加えて、会議や連絡から外されている場合は「人間関係からの切り離し」の例とも重なります。人間関係からの切り離しの例と記録も合わせて読んでください。
能力・経験に見合わない業務を日ごとに記録する方法
過小な要求は、一日だけを見ると「今日はたまたま雑用だった」で終わってしまいます。期間と割合で見せるために、次の3つを用意します。
1. 本来の職務を示す書類を集める。 雇用契約書や労働条件通知書の「業務の内容」、辞令、職務記述書、人事評価の目標シート、以前担当していた案件の資料などです。今の業務と比べる基準になります。
2. 毎日の業務を1行ずつ残す。
| 日付 | 指示された業務 | 所要時間 | 本来の職務との関係 | 指示した人・説明 | 自分から申し出たこと |
|---|---|---|---|---|---|
| 10/19 | 書類のシュレッダー、備品の棚卸し | 6時間 | 本来の企画業務なし | 課長「当面これをやって」 | 企画会議への参加を申し出たが「不要」 |
| 10/20 | 割り振りなし | ― | 本来の企画業務なし | 説明なし | 先週の案件の引き継ぎ状況を質問、返事なし |
3. 週ごとに集計する。 1週間の勤務時間のうち、本来の職務に使えた時間が何時間か、割り振りのなかった日が何日あったかを数えます。たとえば「40時間中、本来の企画業務0時間、単純作業34時間、割り振りなし6時間」のように書くと、相談先が状況をすぐにつかめます。
自分から仕事を申し出た記録も大切です。「仕事をしない人」と見られないためにも、申し出た日時と内容、返ってきた答えを残しておきます。申し出はメールで送ると、そのまま記録になります。
文例:〇〇課長 10月から私の担当が備品管理と書類整理に限られていますが、以前担当していた企画業務に戻る予定はありますか。現在の業務の理由と、今後の担当業務の見通しを教えていただけると、取り組み方を考えやすくなります。
記録の項目をさらに細かく決めたいときはパワハラの記録の書き方(記入例つき)が使えます。暴言を伴う場合は、暴言を証拠にする方法を参考に言葉の記録も並べておきましょう。
記録を持って相談する先
仕事を取り上げる・与えない状態が、辞めさせるための圧力として続いているときは、退職を求める話が出ていないかも併せて記録します。退職を促す面談があれば、退職勧奨が違法か迷うときの判断材料で整理できます。相談先は、社内の窓口のあと、総合労働相談コーナーや都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)です。番号や受付時間はパワハラの相談窓口一覧で調べられます。仕事を与えられない状態を会社に伝えるときの進め方は仕事を与えないパワハラで干されたときの記事で扱います。
仕事を取り上げられる状態が続くと、自信をなくしたり、出勤そのものがつらくなったりすることがあります。眠れない、食欲が落ちたといった変化があるときは、記録と並行して受診も考えてください。次に読む類型は、私生活への立ち入りを扱う個の侵害です。
よくある質問
Q. 体調を崩した後に業務を減らされました。これも過小な要求ですか?
指針は、労働者の能力に応じて一定程度業務の内容や量を軽減することを、該当しない例に挙げています。体調への配慮として減らされたのであれば、その例に近い扱いです。ただ、回復後も理由の説明がないまま元に戻らない、本人の希望を聞かれないといった状態が続くなら、軽減の理由と見直しの時期を会社に尋ね、答えを記録しておきましょう。
Q. 「仕事は自分で探せ」と言われ、何も割り振られません。
指針は「気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えないこと」を過小な要求の例に挙げています。割り振りがなくなった日、それまで担当していた業務、自分から申し出た仕事と返ってきた答えを日ごとに残しておくと、期間と経緯を相談先に示せます。
Q. 雑用を頼まれること自体が嫌なのですが、相談してよいでしょうか?
雑用を任されることが、それだけで過小な要求になるわけではありません。指針の物差しは、業務上の合理性がなく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じているかどうかです。本来の業務に比べてどれくらいの割合を占め、どれくらいの期間続いているかを記録してから相談すると、話が具体的になります。
出典・参考にした公的な情報
- 事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット(パワハラ指針 令和8年10月1日適用時点の本文と解説を収録)(厚生労働省)
- 労働施策総合推進法 第31条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 職場におけるハラスメントの防止のために(厚生労働省)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。