記録と証拠 / 悩み整理

加害者がパワハラを否定したら:言い分が食い違うときに効く記録

この記事のもくじ
  1. 加害者がパワハラを否定したとき、会社がすること
  2. 否定の言い方ごとに効く記録:「言っていない」「覚えていない」「指導だった」
  3. 言い分が食い違うとき、記録の重みを増やす組み合わせ
  4. 否定されたあとに避けたい行動
  5. 食い違ったまま終わりそうなとき:労働局の調停などの次の手

パワハラの加害者が「そんなことは言っていない」と否定するのは、珍しいことではありません。ただ、否定されたからといって話が終わるわけではなく、厚生労働省のパワハラ指針は、主張が一致しないときは第三者からも話を聞くなどして事実を確かめるよう会社に求めています。そのとき効くのは、出来事のその時に残した具体的な記録と、自分以外の人や物が裏づける材料です。このページでは、否定の言い方ごとに効く記録と、食い違ったまま終わりそうなときの次の手を整理します。

加害者がパワハラを否定したとき、会社がすること

指針が会社に求める事後の対応は、否定があった場合も含めて、次の流れになっています。

流れ図:言い分が食い違ったときの事実確認(パワハラ指針より)
段階 指針が会社に求めること
1 相談者と行為者の双方から事実関係を確認する
2 主張に不一致があり、事実の確認が十分にできないときは、第三者からも事実関係を聴取するなどの措置を講じる
3 それでも確認が難しいときは、労働施策総合推進法第37条の調停の申請を行うなど、中立な第三者機関に紛争処理を委ねる
4 事実が確認できれば、被害者への配慮の措置と行為者への措置を行う
5 事実関係がはっきりしなかった場合も、方針の再周知や研修などの再発防止の措置を講じる

つまり、加害者の否定は「確かめ方を一段深くする」きっかけであって、調査の終わりではありません。指針は、窓口担当者が相談者と行為者の双方から丁寧に事実確認を行うことが重要だとも書いています。相談者の側でできるのは、2段目の「第三者からの聴取」や、会社が事実を判断するときに使える材料を、先にそろえて渡しておくことです。

聞き取りの後、会社がどう整理したかを文書で尋ねる方法はパワハラ相談の記録を会社に残してもらう:相談と回答を書面にする方法にまとめています。

否定の言い方ごとに効く記録:「言っていない」「覚えていない」「指導だった」

加害者の否定にはいくつかの型があります。型によって、事実を確かめる人が知りたいことが違うので、出す記録も変わります。

加害者の言い分 確かめる人が知りたいこと 効きやすい記録
「そんなことは言っていない」 その言葉が本当に発せられたか 録音、メール・チャットの原文、その日のうちに書いた逐語メモ、同席者の名前
「覚えていない」 いつ・どこで・どんな場面だったか 日時と場所、前後の業務(会議名・案件名)、そのとき居合わせた人を書いた記録
「指導のつもりだった」 業務上必要で、やり方が相当だったか 指示の内容、自分のミスの有無と中身、叱責の時間・回数・場所・言葉
「大げさだ」「本人も笑っていた」 働くうえで看過できない支障が出たか 体調の変化、通院・欠勤の記録、仕事への影響を書いたメモ
「一度だけだ」 頻度と継続性。ただし指針は、強い身体的・精神的苦痛を与える態様なら1回でも就業環境を害する場合があるとしている 日付ごとの一覧(何回あったかが一目で分かる形)、1回だけの場合はその言動の中身と、その後の体調や仕事への影響

「言っていない」と言われたとき

言葉そのものが争いになる型です。録音やメール・チャットの原文があれば、それが一番の手がかりになります。録音がない場合は、その日のうちに書いたメモに、相手の言葉をできるだけそのまま書いてあるかが効いてきます。録音の残し方はパワハラの録音の仕方:始めるタイミング・保存・文字起こしの手順、録音がないときに補う材料はパワハラの録音がないときに残せるもの:メモ・メール・証言で補うで扱っています。

「覚えていない」と言われたとき

加害者が本当に覚えていないこともあれば、答えを避けていることもあります。どちらにしても、聞き取りをする人が相手の記憶を呼び起こせるだけの手がかりが要ります。「いつも怒鳴られる」では特定できませんが、「10月6日の朝の定例会議で、□□の資料について、全員の前で」と書いてあれば、相手にも、同席した人にも確かめられます。記録の項目の立て方はパワハラの記録の書き方:日時・言葉・場所・目撃者を残す記入例つきが参考になります。

「指導のつもりだった」と言われたとき

指針は、客観的にみて業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な指導はパワハラに当たらないとしています。そのうえで、判断の要素として、言動の目的、労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む経緯や状況、言動の態様・頻度・継続性などを挙げています。自分にミスがあった場面でも、何について、どのくらいの時間、どんな言葉で叱られたかを残しておけば、指導のやり方が相当だったかを確かめる材料になります。指示の内容や業務量も一緒に残す方法はパワハラと指導の境目を示す記録:指示内容や業務量も一緒に残す方法にまとめています。

言い分が食い違うとき、記録の重みを増やす組み合わせ

1つの記録だけでは「本人が書いただけ」と受け取られることがあります。性質の違う材料を重ねると、互いに裏づけ合います。

  • 自分の記録+外に残った物:メモに書いた日に送られたメールやチャット、会議の議事録、勤怠の記録
  • 自分の記録+第三者:その場にいた同僚、相談した家族や友人に送ったメッセージ(日付が残る)
  • 自分の記録+体の変化:受診の日付、医師に伝えた内容、診断書。通院の残し方はパワハラによる体調の変化を記録する:通院・服薬・欠勤の残し方で扱っています

その時に書いた記録は、後から思い出して書いたものより、いつ何があったかを示す手がかりとして扱いやすくなります。後から書き足すときは、元の文を消さずに「○月○日追記」として分けておきます。記録を書き直した跡が見えると、ほかの部分まで疑われやすくなるからです。

同僚に証言を頼むときは、強く迫らないことが大切です。社内では話しにくい立場の人もいます。頼み方の文例と、陳述書の形はパワハラの証拠になる証言を同僚に頼むとき:頼み方の文例と陳述書を参考にしてください。

否定されたあとに避けたい行動

否定されると、悔しさから自分で決着をつけたくなります。次の行動は、かえって自分の立場を弱めるおそれがあります。

  1. 加害者に直接詰め寄る。 言い争いになると、今度は自分の言動が問題にされることがあります。やり取りは窓口を通します。
  2. SNSや社内の広い範囲に公開する。 公然と事実を示して人の名誉を傷つけると、刑法第230条の名誉毀損罪、事実を示さずに公然と侮辱すると第231条の侮辱罪に問われるおそれがあります。録音の公開についてはパワハラの録音をSNSで公開していい?名誉毀損のリスクと別の手段で詳しく扱っています。
  3. 記録を後から作り直す。 書き直しや日付の付け替えは、記録全体の信用を落とします。
  4. 謝罪を個人的に迫る。 謝罪は、指針で会社がとりうる措置の例として挙げられているものです。求め方はパワハラ加害者に謝罪してほしいとき:求め方と会社の措置の関係にまとめています。

食い違ったまま終わりそうなとき:労働局の調停などの次の手

会社が「双方の言い分が違うので判断できない」として調査を終えたときも、次の道があります。

  • 会社に、第三者からの聴取をしたか尋ねる。 指針の2段目を踏んでいるかを、文書で確かめます。目撃者の名前を伝えていなかった場合は、ここで伝えます。
  • 労働局の調停を申請する。 パワハラの措置義務をめぐる会社との紛争は、都道府県労働局の紛争調整委員会による調停の対象です(労働施策総合推進法第37条)。調停の手続では、委員会が当事者のほか、同じ事業所で働く人などの参考人から意見を聴くことができ(第38条で準用する男女雇用機会均等法第26条)、調停案を作って受諾を勧めることができます(同法第28条)。調停案を受け入れるかは当事者の判断です。仕組みは労働局の助言・指導と調停:パワハラ・カスハラの紛争を解決する仕組みで詳しく扱っています。
  • 弁護士に相談する。 加害者本人や会社に損害賠償を求めるかどうかは、個別の事情によって判断が分かれます。手元の記録を時系列で並べて持っていくと、相談の時間を有効に使えます。

どこに何を出すかで、求められる材料の形も変わります。使い道ごとの違いはパワハラの証拠はどこに出す?会社・労働局・弁護士で使い道が違う、証拠の種類の全体像はパワハラの証拠集め:有効な証拠の種類と今日から残す記録の手順にまとめています。

よくある質問

Q. 加害者が否定したら、会社の調査はそこで終わりですか?

指針は、相談者と行為者の主張が一致せず事実確認が十分にできないときは、第三者からも事実関係を聴取するなどの措置を講じるよう会社に求めています。それでも確認が難しい場合には、労働局の調停など中立な第三者機関に紛争処理を委ねることも挙げられています。否定の一言で終わるものとはされていません。

Q. 加害者に「証拠を出せ」と言われました。自分の記録を加害者に見せるべきですか?

記録は会社の窓口や労働局、弁護士など、事実を確かめる立場の人に出すものです。加害者本人に直接見せると、記録の中の同僚の名前が伝わったり、口裏を合わせるきっかけになったりするおそれがあります。求められたときは、記録の出し先は会社の窓口や労働局だと決めておき、「事実を確かめる窓口に出します」と答えれば足ります。

Q. 目撃した同僚が会社の聞き取りで「見ていない」と言いました。もう打つ手はありませんか?

同僚が社内で話しにくい立場にあることは珍しくありません。証言だけに頼らず、自分の記録、メールやチャット、通院の記録など、その時々に残った材料を組み合わせて示します。証言の頼み方は、同僚への依頼の文例をまとめた記事で扱っています。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

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