看護師のパワハラ:師長・先輩からの被害を記録して相談する方法
看護師が師長や先輩から受けるパワハラは、厳しい指導との線引きが難しく、夜勤と交代勤務のなかで記録も取りにくいのが特徴です。まず指針の例に照らして、言われたことを事実として書き残し、次に病院内の窓口と、病院の外の窓口を使い分けます。この記事では、厳しい指導との境目、シフトの中での記録の取り方、相談先、辞める選択をするときの確かめ方を順に説明します。
看護の現場の「厳しい指導」とパワハラの境目
看護の仕事は、投薬や処置のミスが患者さんの安全に直結するため、強い口調での注意が起きやすい現場です。厚生労働省のパワハラ指針は、パワハラを、職場で行われる優越的な関係を背景とした言動で、業務上必要かつ相当な範囲を超え、就業環境が害されるもの、と定義しています。3つをすべて満たすことが要件で、適正な業務指示や指導は該当しません。
指針の例を、看護の場面に引き寄せて並べます。
| 指針の類型 | 該当すると考えられる例(指針より) | 看護現場での記録の例 |
|---|---|---|
| 精神的な攻撃 | 人格を否定する言動、必要以上に長時間の厳しい叱責の繰り返し、面前での大声による威圧的な叱責の繰り返し | 申し送りやナースステーションで、全員の前で「向いていない」と言われた回数と日時 |
| 精神的な攻撃 | 能力を否定する内容のメールを複数宛てに送る | 業務連絡のグループチャットに、名指しで能力を否定する書き込みがあった |
| 人間関係からの切り離し | 集団で無視して職場で孤立させる | 申し送りやカンファレンスの連絡が自分にだけ来ない |
| 過大な要求 | 業務上明らかに不要なことや、遂行不可能なことの強制。新規採用の人に必要な教育をせず、到底対応できない水準の目標を課すこと | 教育を受けないまま、単独での夜勤対応を命じられた |
| 個の侵害 | 機微な個人情報を了解なく他の労働者に暴露する | 病歴や家庭の事情を、他の職員に話された |
該当しない例としては、重大な問題行動を行った労働者に一定程度強く注意することが挙がっています。ミスの再発防止のために厳しく言われたこと自体は、それだけでは該当しません。分かれ目になるのは、何について、どんな言い方で、どれだけ続いたかです。人格や能力を否定する言い方、他の職員や患者さんの前での叱責、同じミスに対する何時間もの叱責が、記録する価値のあるポイントです。個別の言動が指針の例にあたるかは、労働局や弁護士に事実を示して判断してもらいます。
厚生労働省の令和5年度の実態調査(回答者のうち、過去3年間の経験)では、医療・福祉の業種でパワハラを受けたと答えた人は20.6%でした(全体の数字は職場のハラスメント実態調査(令和5年度)にあります)。看護師だけの数字ではありませんが、業種全体でみても珍しい悩みではないと言えます。同じ調査では、パワハラを受けた人の36.9%が「何もしなかった」と答え、その理由の65.6%が「何をしても解決にならないと思ったから」でした。記録をとって窓口に出すことは、この状態を抜けるための最初の一歩です。
夜勤・シフトの中での記録の取り方
交代勤務では、「書く時間がない」ことが記録の最大の壁です。次の流れで、負担を減らします。
- 勤務中:ポケットのメモや、自分のスマートフォンの個人メモに、時刻と一言だけ残す(例:「3:40 ナースステーション 〇〇さん『何度言えば分かるの』」)
- 勤務後30分以内:日付、勤務帯(日勤・夜勤)、場所、言葉、居合わせた職員、その後の自分の対応を、記録ノートに清書する
- 週に1回:勤務表の写真や、自分の勤務の記録と見比べ、日付のずれを直す
- 月に1回:回数や傾向を一覧にまとめ、窓口に持っていけるようにする
記録の例です。
「10月12日(日)夜勤、2:50、ナースステーション。〇〇主任から、他の職員2名の前で『あなたは看護師に向いていない』と言われた。約10分間。私は『申し訳ありません』と答えた。」
書き方の型はパワハラの記録の書き方:日時・言葉・場所・目撃者を残す記入例つきにあります。看護師の記録には、守る線があります。保健師助産師看護師法は、看護師が正当な理由なく業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならず、看護師でなくなった後も同様と定めています(第42条の2)。患者さんの氏名、病名、部屋番号、病棟の詳細は、パワハラの記録に混ぜません。「患者さんの目の前で言われた」という事実は、氏名なしで書けます。
録音は、パワハラの証拠として使われることがありますが、病棟では患者さんや家族の声、処置の内容が入りやすい点に注意が必要です。録音する場合の考え方はパワハラの録音の仕方:始めるタイミング・保存・聞き起こしの手順で確かめ、病棟の中での扱いは窓口に事前に相談してください。
病院内の窓口と、病院の外の窓口
相談は、内から外へ順に進めます。
| 段階 | 窓口 | 使いどころ |
|---|---|---|
| 病院内 | 看護部長、ハラスメント相談窓口、人事・総務 | 加害者が師長で、看護部長に相談できるとき、窓口が設置されているとき |
| 産業医・保健師 | 院内の産業医・産業保健スタッフ | 体調に出ているとき(パワハラを産業医に相談するとき:面談で伝えることと守秘の範囲) |
| 外部 | 都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)、総合労働相談コーナー | 病院が動かない、相談しにくい |
| 外部 | 日本看護協会のメンタルヘルス相談窓口 | 看護職が心の不調を相談したいとき |
事業主である病院には、パワハラ防止のために、方針の明確化、相談窓口の整備、事実関係の迅速な確認などの措置を講じる義務があります(労働施策総合推進法第31条)。社内窓口の使い方は社内のハラスメント相談窓口の使い方:相談前の準備と守秘の確かめ方に、相談メールの書き方は会社にパワハラを相談するメールの書き方:件名から結びまでの例文にあります。
外部の窓口のうち、労働局の雇用環境・均等部(室)では、労働局長による助言・指導・勧告(第36条)や、紛争調整委員会の調停(第37条)を申請できます。窓口の番号と受付時間はパワハラの相談窓口一覧:電話番号・受付時間・できることの早見表で確かめてください。労働局の使い方は労働局のハラスメント相談窓口:雇用環境・均等部(室)でできることにあります。
日本看護協会は、看護職を対象にしたメンタルヘルスの電話相談窓口を設けています。ページの記載では、受付は月曜から土曜の13時から19時で、日曜と祝日は休み、臨床心理士、精神保健福祉士、看護職が対応します(0120-543-556)。ハラスメントに特化した窓口ではなく、看護職以外の相談は受けつけていません。受付時間などは変わりうるので、かける前に公式ページを確認してください。
公立病院や国立病院で働く看護師は、公務員にあたる場合があり、窓口が変わります。公務員の場合は公務員のパワハラ相談先と対処:人事院・人事委員会など民間と違う窓口を先に見てください。
辞める・移ると決めたとき
相談しても状況が変わらないとき、環境を変える選択もあります。看護師は、公的な無料の職業紹介が使える職種です。看護師等の人材確保の促進に関する法律は、都道府県知事が指定する都道府県ナースセンターを定め(第14条)、センターの業務に看護師等への無料の職業紹介事業を挙げています(第15条)。免許を持つ人が病院等を離職したときは、センターへの届出に努めるよう定めています(第16条の3)。
民間の転職支援(職業紹介事業者)を使う選択肢もあります。辞める前の整理はパワハラで退職するか迷うとき:辞める前に済ませておくことに、退職の伝え方や夜勤の調整は看護師が退職代行を使うとき:夜勤・シフト・人手不足の病院での注意にあります。
転職先を選ぶときは、面接や見学で、夜勤の回数、教育体制、相談窓口の有無を尋ねます。「何かあったとき、誰に相談できる仕組みがあるか」は、次の職場で同じことを繰り返さないための材料になります。パワハラの経緯を伝えるかどうかは、パワハラ後の転職エージェントの使い方:伝えること・伝えないことで考えられます。患者さんや家族からの被害は別の窓口と考え方になるので、看護師が患者・家族からカスハラを受けたとき:病院に求める対応を確かめてください。
同じ医療・福祉の現場で働く方は、保育士のパワハラ:園長・先輩からの被害を記録して相談する方法や介護職のパワハラ:施設長・同僚からの被害と利用者からの被害の分け方も、窓口の使い分けの参考になります。
よくある質問
Q. 新人の看護師が先輩から毎日きつく言われます。指導との区別はつきますか?
指針は、業務の内容や性質に照らして重大な問題行動があった場合に、一定程度強く注意することを、該当しない例に挙げています。一方、人格を否定する言動、他の職員の面前での大声での叱責の繰り返し、必要以上に長時間の叱責は該当する例です。何を言われたかを、言葉と時間の長さで記録しておくと、窓口で整理しやすくなります。
Q. 夜勤中に起きたことは、どう記録すればよいですか?
勤務中はポケットのメモに、時刻と一言だけを残し、勤務後に日付・場所・言葉・居合わせた職員を清書します。患者さんの氏名や病状は書きません。看護師には業務上知った秘密を漏らさない義務があり、記録にも当てはまるからです。
Q. 病院に相談して、不利益を受けることはありますか?
労働施策総合推進法第31条第2項は、相談したことや事実確認に協力して事実を述べたことを理由とする解雇その他の不利益な取扱いを、事業主に禁じています。相談後の配置や評価に変化があったら、日付とともに記録して労働局に伝えます。
出典・参考にした公的な情報
- 事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット(パワハラ指針を収録)(厚生労働省)
- 令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査 概要(厚生労働省)
- 労働施策総合推進法 第31条・第36条・第37条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 保健師助産師看護師法 第42条の2(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 看護職のためのメンタルヘルス相談窓口(日本看護協会)(日本看護協会)
- 看護師等の人材確保の促進に関する法律 第14条・第15条・第16条の3(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 人材サービス総合サイト(職業紹介事業者の検索)(厚生労働省)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。