介護職のパワハラ:施設長・同僚からの被害と利用者からの被害の分け方
この記事のもくじ
介護の現場でのパワーハラスメント(パワハラ)は、誰から受けたかで枠組みが分かれます。施設長・管理者・先輩・同僚からの言動は労働施策総合推進法の第31条(パワハラ)の問題、利用者やご家族からの言動は第33条(カスタマーハラスメント=カスハラ)の問題です。この記事では職員どうしの被害を中心に、両者の見分け方と、それぞれの相談先を整理します。
誰からの被害かで、法律も相談先も分かれる
介護の仕事は、利用者・家族・同僚・管理者のすべてとの関係の中にあります。「きつい言葉を浴びた」という感覚は同じでも、会社の責任の根拠と、頼るべき手順が違います。
| 比べる点 | 施設長・管理者・同僚からの被害 | 利用者・家族等からの被害 |
|---|---|---|
| 呼び方 | 職場のパワハラ | カスハラ(厚労省マニュアルでは「利用者や家族等からのハラスメント」) |
| 法律の根拠 | 労働施策総合推進法 第31条 | 労働施策総合推進法 第33条(2026年10月1日施行) |
| 判断の物差し | 指針の3要素と6類型 | カスハラ指針の定義。介護現場は厚労省マニュアルの3類型(身体的暴力・精神的暴力・セクハラ) |
| 事業所に求めること | 方針の周知、相談窓口、事実確認、配慮、再発防止 | 一人で対応させない、組織での対応、関係機関との連携、場合により警察 |
| どの記事で扱うか | この記事で扱う(職員間のパワハラ) | 介護現場のカスハラ:利用者・家族からの暴言・セクハラへの対応へ |
利用者や家族から叩かれた、暴言を吐かれた、体を触られたといった被害は、次の記事で詳しく扱います。迷うときは、加害者が事業所の職員や管理者なら職員間、利用者や家族なら利用者側と分けて考えてください。同じ日に両方が起きていても、記録は別々の欄に書き分けておくと、相談したときに話が混ざりません。
職員間のパワハラ:指針の6類型を介護の場面で読む
指針は、パワハラを「優越的な関係を背景とした言動」で「業務上必要かつ相当な範囲を超え」、「就業環境が害される」もので、3つをすべて満たすものとしています。客観的にみて業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な指導は、パワハラに当たりません。6類型の例を、介護の職場にあてはめて読むと次のようになります(あてはめは筆者のもので、個別の該当判断ではありません)。
- 精神的な攻撃:「使えない」「辞めれば」といった人格を否定する言葉、他の職員や利用者の前での大声の叱責、長時間の叱責の繰り返し。ミスの指摘そのものは指導の範囲で、問題になるのは態様と回数です。
- 人間関係からの切り離し:申し送りに入れてもらえない、一人だけ無視される、集団で挨拶を返さない。指針は、集団で無視して孤立させることを例に挙げています。
- 過大な要求:教育を行わないまま到底こなせない業務量を課して、できないと厳しく叱る。指針の例は新卒採用者への目標ですが、新しく配属された職員にも考え方は近いものです。業務と関係のない私的な雑用を強制させることも例に入っています。
- 過小な要求:気にいらない職員に、嫌がらせのために仕事を与えない。
- 個の侵害:職場外でも私生活を監視する、病歴・不妊治療・性的指向などの機微な情報を了解なく他の人に話す。
- 身体的な攻撃:殴る、蹴る、物を投げつける。この場合は職場の相談に加えて警察への相談も選べます。
一方、ケアの方針をめぐって意見が食い違うことや、手順の誤りを注意されること自体は、パワハラに直ちに当たるものではありません。指針も「重大な問題行動に一定程度強く注意する」ことは当たらない例としています。判断の材料は、言動の目的、頻度、態様、継続性などです。指導との境目はパワハラと指導の違いは?業務上必要な範囲を見分ける5つの視点の視点が使えます。
介護職の職場で起きやすい詰まりと、記録の付け方
介護の現場には、パワハラの相談が止まりやすい事情が重なります。
- **管理者が少人数で、相談窓口も管理者本人になっている。**指針は外部機関への委託も窓口の定め方の例に挙げています。
- シフトが回らず、休みや異動を言い出しにくい。
- 夜勤や訪問で、1対1の場面が多く、目撃者が少ない。
目撃者がいないときほど、記録は重要です。次の形で、その日のうちに書き留めます。
| 日時・場所 | 相手(役職) | 言われたこと・されたこと(そのまま) | 周りにいた人 | 自分の対応・報告先 | 体調の変化 |
|---|---|---|---|---|---|
| 例:10/14 夜勤の申し送り後・ナースステーション | 〇〇主任 | 「今日の入浴介助、全部あんたのミス。辞めれば」 | 夜勤の〇〇さん | 翌朝、施設長に口頭で報告 | 眠れなくなった |
シフト表、業務の指示メモ、LINEやグループチャットの文面も、自分に関わる範囲で画面を保存しておきます。欄の増やし方や別の記入例はパワハラの記録の書き方:日時・言葉・場所・目撃者を残す記入例つきで見られます。
相談の順番:社内、外部、そして警察・医療
- 社内:施設長か法人本部の相談窓口に、記録を添えて伝えます。パワハラを人事に相談する方法の順番が使えます。
- 外部(行政):社内で動かないときは、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)や総合労働相談コーナーへ。パワハラ指針は、事業主が事実確認を行うとき、確認が困難なら法第37条の調停の申請など中立な第三者機関に委ねる例を挙げています。窓口の使い方は労働局のハラスメント相談窓口にあります。
- 労働組合:事業所や法人に組合があれば、そこも相談先です(パワハラを労働組合に相談する)。
- 暴力や脅し:職場で暴力・脅しを受けたら:110番と#9110、警察への相談の仕方。
相談したことを理由に、解雇その他の不利益な取扱いをしてはならないと第31条2項が定めています。相談後に勤務が変わったときも、その日付と内容を記録に加えてください。
辞めるか、続けるか:迷うときに確かめること
心身に影響が出ている場合は、辞める・続けるを決める前に、休むことを考えてよい段階です(休職中の傷病手当金)。続けるにしても、移るにしても、先に決めておきたいのは次の点です。
- 今の事業所での配置転換や担当替えで、加害者と離れられるか
- 退職を伝える時期と方法(期間の定めのない雇用なら、申入れから2週間で終了)
- 次の職場で確かめたいこと
移るときは、次の職場で同じ状況に当たらないよう、転職の相談先を使うなら、確かめる点を決めて話を聞くのが安全です。
確かめたい点の例は、施設の種類(特養・老健・デイ・訪問)ごとの夜勤の回数、人員配置、離職の多さ、管理者の入れ替わり、研修や相談の体制、見学や体験勤務ができるかどうかです。面談で「何を聞かれて何を答えるか」だけでなく、「こちらから何を質問できるか」を紙に書いて行くと、条件の話に流されにくくなります。退職の手順はパワハラで転職するときの進め方と、介護職が代行業者を使う場合の注意をまとめた介護職が退職代行を使うときも参考になります。
保育の現場の職員間の被害は保育士のパワハラ:園長・先輩からの被害を記録して相談する方法に、病院で働く看護の立場は看護師のパワハラ:師長・先輩からの被害を記録して相談する方法にまとめています。
よくある質問
Q. 施設長が事業主側の人間で、相談窓口も施設長本人です。誰に言えばよいですか?
パワハラ指針は、相談窓口を担当者の指定や外部機関への委託などで定めて周知することを事業主に求めています。窓口が加害者本人という状態は、その措置が機能していない例です。法人本部や運営会社の窓口、それがなければ都道府県労働局の総合労働相談コーナーや雇用環境・均等部(室)に相談できます。
Q. 利用者から叩かれたのに、同僚から「認知症だから仕方ない」と言われました。
厚生労働省のマニュアルは、認知症の症状としての暴言や暴力はハラスメントとしてではなく医療的なケアで対応する一方、職員の安全に配慮する必要があることに変わりはなく、事業所が組織的に対応するとしています。我慢する話とは書かれていません。管理者に報告して、記録を残してください。
Q. 人手不足で、辞めたいと言い出しにくいです。
期間の定めのない雇用なら、退職の申入れから2週間で雇用が終わると民法第627条1項が定めています。人手不足は会社側の事情で、あなたが辞められない理由としては条文に書かれていません。伝え方と時期は[退職は2週間で成立する?民法627条・628条と即日退職の考え方](/taishoku-2shukan/)で整理しています。
出典・参考にした公的な情報
- 労働施策総合推進法 第31条・第33条・第36条・第37条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット(パワハラ指針 令和8年10月1日適用時点の本文を収録)(厚生労働省)
- 介護現場におけるハラスメント対策マニュアル(令和4年3月改訂)(厚生労働省)
- 介護現場におけるハラスメント対策について(厚生労働省)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。