パワハラとは・判断の材料 / 体験の整理

パワハラ事例7選:厚労省が解説する裁判例から会社の対応の分かれ目を読む

この記事のもくじ
  1. 公表事例はどこで読めて、どう分類されているか
  2. 分かれ目1:会社が「知りうる状態」で放置したか
  3. 分かれ目2:相談を受けた後の調べ方・処分・引き離し
  4. 分かれ目3:経緯のある指導か、範囲を超えた言動か
  5. 事例を自分の状況と比べるときの手順

パワーハラスメント(パワハラ)の事例を自分と比べたいなら、厚生労働省のサイト「あかるい職場応援団」が解説している裁判の事例が、公的な場所で読める材料です。会社の対応という観点で読むと、判決が重く見た分かれ目は、①会社が知りうる状態で放置したか、②相談を受けた後にどう調べ、どう処分し、どう引き離したか、③経緯のある指導だったか、の三つに整理できます(筆者の整理で、判決や解説がこの三分類を示しているわけではありません)。この記事は7つの事例を、この三つの観点で読み解きます。事例はすべて同サイトの解説ページにあるもので、この記事が作ったものではありません。

ここで紹介する事例には、自殺に至ったものが含まれます。読んでいて気持ちが重くなったときは、先に仕事がつらい・限界のときの相談先を開いてください。

公表事例はどこで読めて、どう分類されているか

「あかるい職場応援団」の「裁判例を検索しよう」には、ハラスメントの裁判例の解説が回ごとに掲載されています。パワハラはパワハラ指針の6類型(身体的な攻撃・精神的な攻撃・人間関係からの切り離し・過大な要求・過小な要求・個の侵害)で分類され、ほかに「会社の責任が認められた裁判例」「パワハラと認められなかった裁判例」「加害社員に対する処分」「同僚同士のパワハラ」「相談対応における会社の責任」などの切り口があり、チェックを入れて絞り込めます。

読むときの前提が二つあります。一つは、どれも個別の事件の判断で、認定された事実が少し違えば結論も変わりうることです。もう一つは、古い事件には「パワハラ」という言葉が広まる前のものがあることです。たとえば全日本空輸の事件の解説は、当時はその概念がなかったが、いまの視点では職場のパワハラに含まれうる、と書いています。6類型の意味はパワハラ6類型の早見表で確かめてから読むと、分類の意味がつかみやすくなります。

早見表:7つの公表事例と、判決が重く見た会社側の事情
事件(裁判所・判決日) 何が起きたか 判決が重く見た会社側の事情
誠昇会北本共済病院事件(さいたま地裁 平成16年9月24日) 先輩の准看護師による約3年のいじめ・嫌がらせ。後輩が自殺 職員旅行や会議でのやり取りから認識できたのに防止措置をとらなかった
日本土建事件(津地裁 平成21年2月19日) 先輩社員の暴言・物を投げる・過大な業務の押しつけ 作業所の所長が何の対応もとらず、問題意識さえなかった(会社の防止義務違反とされた)
新聞輸送事件(東京地裁 平成22年10月29日) 帰りのタクシー内でのセクハラ被害の申告 上司が電話で行為者から約30分聴いただけで「誤解」と判断した
エヌ・ティ・ティ・ネオメイト事件(大阪地裁 平成24年5月25日) 派遣社員に「辞めてしまえ」と迫り、椅子を蹴った 暴言などを事実と認定し、懲戒処分の中でも軽い譴責を有効とした
ザ・ウィンザーホテルズインターナショナル事件(東京高裁 平成25年2月27日) 飲酒の強要、深夜の脅すような留守電 訴えの後も当事者を隣の席のままにした
前田道路事件(松山地裁 平成20年7月1日/高松高裁 平成21年4月23日) 不正経理の是正を求める叱責の後に自殺 1年近く是正されなかった経緯を高裁が重く見た
全日本空輸(退職強要)事件(大阪地裁 平成11年10月18日) 約4か月に30数回の退職を求める面談、寮への訪問 面談の頻度・長さ・発言、断られた後の訪問や家族を通じた説得

元の解説は「あかるい職場応援団」の第3回・第41回・第8回・第9回・第15回・第2回・第6回(表の順)にあります。

分かれ目1:会社が「知りうる状態」で放置したか

誠昇会北本共済病院事件は、男性の准看護師の間で、最年長の先輩が後輩に遊びや飲み会への付き合い、私的な雑用を強い、ひどい暴言を言い続けた事案です。判決は先輩個人の不法行為責任を認めたうえで、病院の安全配慮義務に「職場の上司及び同僚からのいじめ行為を防止」することが含まれると述べ、いじめが約3年続き、職員旅行や外来会議でのやり取りから認識できたのに防止措置をとらなかったとして、病院の責任も認めました。ただし判決は、病院がいじめの内容や深刻さを具体的に認識していたとは認められず、自殺の予見可能性までは認めがたいとして、病院が行為者と連帯して負う賠償額を行為者本人より小さくとどめました。解説は、上司が現場を見た場合だけでなく、認識できた場合にも会社に責任が生じうる点を重要としています。

日本土建事件では、先輩社員が新人に暴言や嫌みを浴びせ、物を投げつけ、机を蹴り、長時間の残業や徹夜を押しつけました。作業所の所長は何の対応もとらず、問題意識さえ持っていませんでした。判決は、会社の対応がパワハラ防止義務(安全配慮義務)に違反し、不法行為にも当たるとしています。判決文が所長の責任を明示しているわけではありませんが、解説は、業務を管理する立場の人が対応を怠れば、会社の義務違反と同じに扱われると説明しています。なお、この事件では、被害者が先輩を送る途中で起こした飲酒後の交通事故について、会社の責任は否定されています。会社が責任を負うのは、会社の防止義務に反した部分に限られました。

二つの事例に共通するのは、上司や管理者が「見ていた」「見ることができた」という事実が、会社の責任を左右したことです。会社の責任の基本は安全配慮義務の記事で整理しています。

分かれ目2:相談を受けた後の調べ方・処分・引き離し

新聞輸送事件はセクハラの事案ですが、解説はパワハラの相談でも同じ対応が求められるとしています。被害の申告を受けた総務部の副部長は、行為者から電話で約30分事情を聴いただけでその説明を信じ、被害者に誤解だと伝えて問題にしないよう求めました。その後、取締役が改めて被害者から聴き取ると、行為者の説明に矛盾がありました。裁判所は副部長の調べ方を不適切・不十分で公平さを欠くとし、副部長への降格処分を有効としました。解説は、上司や同僚が調べると人間関係に引きずられやすく、相談窓口の担当者、人事部門、専門の委員会などが調べるのが望ましいとしています。

エヌ・ティ・ティ・ネオメイト事件では、派遣社員に「謝れ」「辞めてしまえ」と迫り、椅子を蹴り、名札を破った社員への譴責処分が有効とされました。解説は、行為者が事実を否定するときは、居合わせた人の証言や時系列の整理が事実認定の有力な根拠になると述べています。

ザ・ウィンザーホテルズインターナショナル事件では、上司による飲酒の強要、体調不良を訴えた部下への運転の強要、深夜の攻撃的なメールや脅すような留守電が不法行為とされました。慰謝料を決める際、上司の謝罪は会社側に有利に、訴えの後も当事者を隣の席のままにしたことは不利にしんしゃくされ、解説は、問題が分かった後に当事者を物理的に離すなど二次被害を防ぐ対応が必要だとしています。

パワハラ指針も、事実確認では相談者と行為者の双方から聴き、食い違えば第三者からも聴くこと、確認できたら引き離すための配置転換や行為者の謝罪などの配慮をすることを、会社の措置として挙げています。ヒアリングを受ける側の準備はパワハラのヒアリングで被害者が準備することに、処分の種類はパワハラ加害者の処分の種類の記事にまとめています。

分かれ目3:経緯のある指導か、範囲を超えた言動か

前田道路事件は、営業所長が架空の出来高を計上するなどの不正経理を1年近く是正せず、上司が電話で繰り返し叱責し、業績検討会で「辞めても楽にならない」と言った後に、所長が自殺した事案です。地裁は叱責を社会通念上許される指導の範囲を超えるとしましたが、高裁は是正されない経緯を重く見て、ある程度の厳しい改善指導は上司の正当な業務の範囲内だとして、違法ではないとしました。解説は、結論が逆になったのは叱責に至る経緯や理由の事実認定の違いによるもので、激しい罵倒や人格攻撃まで認めたものではない、と注意しています。

全日本空輸(退職強要)事件では、復職を求める客室乗務員に、上司らが約4か月に30数回の面談を重ね、8時間に及ぶ面談もあり、断られた後も寮を訪ね、家族にも説得を頼みました。判決はこの退職強要を不法行為としました。解説は、退職勧奨そのものは違法ではないが、回数・頻度・長さ・発言などが相当性を欠くと損害賠償の対象になりうるとしています。

二つから分かるのは、同じ「厳しい言葉」でも、その前に何があったか(指導の理由・回数・本人の対応)と、言動の態様(長さ・頻度・場所・人格への攻撃か)がそろって評価されることです。指導との境目はパワハラと指導の違いを見分ける視点で、退職を求める面談が続いている人は退職勧奨が違法か迷うときの判断材料で整理できます。

事例を自分の状況と比べるときの手順

事例は「自分も同じ結論になるか」を占うためより、「自分の場合にどの事実を残しておくべきか」を知るために使うと役に立ちます。

  1. 似た類型の事例を2〜3件読む:6類型と「会社の責任」「相談対応」の切り口で絞り込む。
  2. 会社が知っていた・知りえた事実を書き出す:上司の目の前で起きた、会議の場だった、相談した日と相手。
  3. 相談後の会社の動きを記録する:誰が、どの方法で調べたか(電話だけか、面談か、第三者に聴いたか)、席や担当は離されたか。
  4. 自分側の経緯も正直に整理する:ミスや指導の理由があったなら、その内容と指導の回数・時間。前田道路事件のように、経緯が判断を左右するためです。
  5. 整理したメモを持って相談する:結論の見通しは、事実を示して弁護士や労働局に聞きます。

ここに挙げた事例の多くは、被害者や遺族が会社や行為者に損害賠償を求めた民事の裁判です。判決の読み方そのもの(どの事実が判断を分けたかの見方)はパワハラの判例の読み方の記事で、自分の出来事を3要素に当てはめて書き出す方法はパワハラの基準を3要素で確かめる20問で扱っています。統計で全体の傾向を見たい人は、職場のハラスメント実態調査の数字も参考になります。

よくある質問

Q. 自分とよく似た事例で会社の責任が認められていれば、自分の場合も同じ結論になりますか?

同じになるとは限りません。裁判の結論は、その事件で認定された事実の積み重ねで決まり、前田道路事件のように同じ事件でも地裁と高裁で結論が逆になった例があります。似た事例は、自分の状況のどの事実を記録しておくべきかを知る手がかりとして使い、結論の見通しは弁護士や労働局で事実を示して聞いてください。

Q. あかるい職場応援団の事例は、どうやって探せばよいですか?

「裁判例を検索しよう」のページで、6類型(身体的な攻撃など)や「会社の責任が認められた裁判例」「相談対応における会社の責任」「同僚同士のパワハラ」などの項目にチェックを入れて絞り込めます。複数の項目を選ぶこともできます。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

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