パワハラとは?3要素と6類型・指導との境目を指針の言葉で整理
この記事のもくじ
パワーハラスメント(パワハラ)とは、職場で行われる①優越的な関係を背景とした言動で、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもので、この3つを全て満たすものをいいます(厚生労働省の指針)。客観的にみて業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な指示や指導は、パワハラに当たりません。
あなたの出来事が当たるかどうかを最終的に判断するのは、事実を確かめた会社・労働局・裁判所などです。このページでは、その判断に使われる物差しを指針の言葉のまま並べ、自分の出来事を照らし合わせて記録と相談につなげるまでを順に示します。
パワハラとは:法律と指針が定める3要素
パワハラの定義の土台は、労働施策総合推進法(通称パワハラ防止法)の第31条です。この条文は会社(事業主)に防止の措置を義務づけるもので、3要素の中身は、同条にもとづいて厚生労働大臣が定めた指針(令和2年厚生労働省告示第5号)が説明しています。2026年10月1日の改正で条番号は旧第30条の2から第31条に移ったため、古い資料の条番号には注意してください。
| 要素 | 指針の言葉(要約) | 自分の出来事で確かめること |
|---|---|---|
| ①優越的な関係を背景とした言動 | 受ける側が抵抗または拒絶できない蓋然性が高い関係を背景にした言動 | 相手は上司か。同僚・部下なら、知識や経験で頼らざるを得ない相手か、集団か |
| ②業務上必要かつ相当な範囲を超えた | 社会通念に照らして、明らかに業務上の必要性がない、または態様が相当でないもの | 目的は仕事に関係あるか。言い方・回数・時間・人数は度を越えていないか |
| ③就業環境が害される | 身体的・精神的な苦痛で就業環境が不快になり、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、看過できない程度の支障が出ること | 仕事を続けるうえで、どんな支障が出ているか |
③の判断の基準は「平均的な労働者の感じ方」とされています。同じ状況で同じ言動を受けたとき、社会一般の労働者が「働くうえで看過できない支障が出た」と感じるかどうかで見る、という意味です。本人のつらさを軽く扱う趣旨ではなく、本人の受け止めだけで決めない、という線の引き方です。要素ごとの詳しい説明は「優越的な関係」とは?同僚・部下からでもパワハラになりうる場面、業務上必要かつ相当な範囲とは?3要素の2つ目の解説、「就業環境が害される」とは?3要素の3つ目の解説にまとめました。
「職場」と「労働者」の範囲
指針のいう「職場」は、ふだん働いている場所に限りません。出張先、業務で使う車の中、取引先との打合せの場所(接待の席を含む)も入ります。勤務時間外の懇親の場や社員寮、通勤中なども、実質的に職務の延長といえるものは職場に当たり、職務との関連性、参加者、参加が強制か任意かなどを考えて個別に判断されます(厚生労働省パンフレット)。
「労働者」は、正社員だけでなくパートタイム労働者・契約社員などを含む全ての労働者です。派遣で働く人には、派遣元に加えて派遣先の会社も措置を講じる立場にあります。
| 要素 | 当てはめの問い | 手がかりになる記録 |
|---|---|---|
| ①優越的な関係 | 逆らえない・断れない関係だったか | 相手の役職、業務での依存関係、人数 |
| ②必要かつ相当な範囲を超える | 仕事の目的に照らして、内容や言い方は度を越えていないか | 言われた言葉、時間、回数、場所、直前の業務の状況 |
| ③就業環境が害される | 働くうえで看過できない支障が出たか | 体調・通院・欠勤・業務への影響のメモ |
| ※3つが全てそろったときに、指針のいうパワハラに当たる。判断するのは事実を確かめた会社・労働局・裁判所など。 |
6類型:指針が挙げる典型的な言動
指針は、パワハラの代表的な言動を6つの類型に分け、それぞれ「該当すると考えられる例」と「該当しないと考えられる例」を挙げています。例は限定列挙ではなく、6類型のどれにも当てはまらないからパワハラではない、とはなりません。また、該当例はいずれも優越的な関係があることが前提です。
- 身体的な攻撃(暴行・傷害):殴る・蹴る、物を投げつける。
- 精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言):人格を否定するような言動。必要以上に長時間の厳しい叱責を繰り返す。他の労働者の前で大声で威圧的に叱ることを繰り返す。
- 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視):意に沿わない人を仕事から外し、長期間別室に隔離する。同僚が集団で無視して孤立させる。
- 過大な要求(不要なことや遂行不可能なことの強制):新卒者に必要な教育をしないまま到底こなせない目標を課し、達成できないと厳しく叱る。私的な雑用を強制する。
- 過小な要求(能力や経験とかけ離れた低い仕事、仕事を与えない):嫌がらせのために仕事を与えない。
- 個の侵害(私的なことに過度に立ち入る):職場外でも継続的に監視する。性的指向・ジェンダーアイデンティティや病歴、不妊治療などの機微な個人情報を、了解なく他の人に暴露する。
精神的な攻撃の例には、性的指向・ジェンダーアイデンティティに関する侮辱的な言動が含まれると書かれています。2026年10月1日適用の指針では、個の侵害の例に機微な個人情報の開示を禁止したり強要したりすることが加わり、自社の商品やサービスの買い取りを強要することに関連する言動も、3要素を全て満たせばパワハラに当たると明記されました。類型ごとの「該当しない例」との対比はパワハラ6類型の早見表にあります。個別ページは、身体的な攻撃・精神的な攻撃・人間関係からの切り離し・過大な要求・過小な要求・個の侵害です。
指導との境目:「該当しない例」と判断に使われる要素
パワハラと厳しい指導の境目は、多くの人が迷うところです。指針は、②の「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」かどうかを、次のような要素を総合的に考えて判断するとしています。
- 言動の目的
- 言動が行われた経緯・状況(労働者の問題行動の有無や程度を含む)
- 業種・業態
- 業務の内容・性質
- 言動の態様・頻度・継続性
- 労働者の属性や心身の状況
- 行為者との関係性
労働者の側に問題となる行動があった場合は、その内容・程度と、指導の仕方との釣り合いが重要な要素になるとされています。たとえば指針は、遅刻など社会的ルールを欠いた言動を再三注意しても改善されない人に、一定程度強く注意することを「該当しないと考えられる例」に挙げています。一方で、同じ注意でも人格を否定する言葉や、他の人の前での大声の叱責の繰り返しは「該当すると考えられる例」の側に入ります。
回数について、厚生労働省のパンフレットは、頻度や継続性は考慮されるものの、強い身体的・精神的苦痛を与える態様の言動なら1回でも就業環境を害する場合があり得る、と説明しています。境目の見分け方はパワハラと指導の違いは?5つの視点、回数はパワハラは1回だけでも当たる?、白黒がつかないときはグレーゾーンの整理と勘違いかと迷う人の確認で扱っています。
会社に義務づけられていること:措置義務と、罰則の有無
労働施策総合推進法第31条1項は、会社に対し、相談に応じて適切に対応する体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じるよう義務づけています。同条2項は、相談したことや、会社の事実確認に協力して事実を述べたことを理由とする解雇その他の不利益な取扱いを禁じています。指針が挙げる会社の措置は、大きく次の4つです。
| 措置の柱 | 指針が挙げる内容の例 |
|---|---|
| 方針の明確化と周知・啓発 | パワハラを行ってはならない旨の方針、行為者への厳正な対処(懲戒規定など)を就業規則等に定めて周知 |
| 相談体制の整備 | 相談窓口をあらかじめ定めて周知。該当するか微妙な場合も広く相談に対応 |
| 事後の迅速かつ適切な対応 | 双方からの事実確認、被害者への配慮(引き離すための配置転換など)、行為者への措置、再発防止 |
| あわせて講じる措置 | 相談者・行為者のプライバシーの保護、相談や労働局への申し出を理由に不利益に扱わない旨の周知 |
パワハラの行為そのものを罰する刑事罰は、この法律にはありません。勧告にも従わない会社には公表の仕組み(第42条)があり、詳しくは罰則の記事と安全配慮義務にあります。殴る・脅すなどが刑法の罪に当たるかは別の問題です。
措置義務は2020年6月1日に大企業から、2022年4月1日からは中小企業にも適用され、いまは会社の規模を問わず義務です。条文と改正の経緯はパワハラ防止法の条文と2026年10月改正、会社が講じるべき措置の確かめ方はパワハラで会社の義務は何?相談したら会社がするべき10の措置、刑法との関係はパワハラに刑事罰はある?刑法の罪との関係を見てください。相談の件数などの公的な数字はパワハラ・いじめの相談件数(令和7年度の公的統計)にまとめています。なお、厚生労働省の「個別労働紛争解決制度の施行状況」の「いじめ・嫌がらせ」の件数には、この法律にもとづくパワハラの相談は含まれていません。
当てはまるか迷うときにすること:照らし合わせ・記録・相談の順番
「これはパワハラなのか」と迷っている段階でも、できることはあります。結論を自分一人で出そうとせず、判断してもらうための材料をそろえる、と考えると動きやすくなります。
- 出来事を1件ずつ書き出す。 いつ・どこで・誰に・何を言われたか(されたか)・誰がいたか。言われた言葉はできるだけそのまま書きます。書き方はパワハラの記録の書き方:日時・言葉・場所・目撃者を残す記入例つきが参考になります。
- 3要素ごとに当てはめる。 上の早見表の問いに沿って、相手との関係、仕事の目的との関係、自分に出ている支障を分けて書きます。質問に答えるだけで整理できる票をパワハラの基準を3要素で確かめる20問に用意しました。
- 体や仕事への影響も残す。 眠れない、出勤前に体調が崩れる、受診した、休んだ、などの事実は③の材料になります。
- 相談先を選ぶ。 社内の相談窓口、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)や総合労働相談コーナーなどがあります。窓口ごとにできることの比較はパワハラの相談はどこへ?窓口ごとにできることと選ぶ順番、番号と受付時間はパワハラの相談窓口一覧(電話番号・受付時間)にまとめています。
指針の3要素に当てはめても判断がつかないときや、基準そのものに納得がいかないときは、パワハラの基準がおかしいと感じたら:認められにくい理由と次の一手で、別の制度から動く方法を整理しています。体や心のつらさが強いときは、判断より先に休むことと受診を考えてください。
よくある質問
Q. パワハラの定義はどの法律に書かれていますか?
労働施策総合推進法(通称パワハラ防止法)の第31条が、会社に防止の措置を義務づける形で「優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」による就業環境の侵害を定めています。3要素や6類型の詳しい説明は、厚生労働大臣が定めた指針(令和2年厚生労働省告示第5号)にあります。2026年10月1日の改正で、条番号は旧第30条の2から第31条に移りました。
Q. 3要素のうち1つでも欠けたら、相談しても意味がないのですか?
そうとは限りません。指針は、会社の相談窓口に対して、パワハラに当たるか微妙な場合も広く相談に対応するよう求めています。また、3要素がそろわない嫌がらせでも、労働局の総合労働相談コーナーでは「いじめ・嫌がらせ」として相談でき、別の手続き(助言・指導やあっせん)につながる道があります。
Q. 正社員ではなくパートや派遣でも、パワハラの対象になりますか?
指針は、正規雇用に限らずパートタイム労働者や契約社員などを含む全ての労働者を対象にしています。派遣で働く人については、派遣元だけでなく派遣先の会社も、労働者派遣法の規定により措置を講じる立場に置かれています。
出典・参考にした公的な情報
- 労働施策総合推進法 第31条・第32条・第35条〜第38条・第42条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット(パワハラ指針 令和8年10月1日適用時点の本文を収録)(厚生労働省)
- 職場におけるハラスメントの防止のために(厚生労働省)
- 令和7年度個別労働紛争解決制度の施行状況(※5 パワハラ相談の計上の注記)(厚生労働省)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。